駅で待ち合わせをする際、オブジェを目印にする人は多いだろうが、どれだけの人がその名前を認識しているのだろう。山手線の駅で有名なのは、渋谷駅の「忠犬ハチ公像」ぐらいで、あとはたとえば「池袋駅東口の、あの大きな手の前で待ってるね!」といった具合。その像が「母子像」という名前であることなど、多くの人は気にも留めていないのではないだろうか。
それでも、待ち合わせ場所になるオブジェはまだいい。そもそも駅前ロータリーの植え込みの中に設置されていて、誰も徒歩で近づくことができない「大地の像」(池袋駅)や、台座が高すぎて視界に入らない「井上勝像」(東京駅)など、物理的に待ち合わせ場所にするのが難しい像もある。
しかし、駅周辺に設置されているにも関わらず、その存在が景色の一部と化してしまい、見過ごされているオブジェの何と多いことか。
試しに新橋駅西口広場に降り立ってみる。大きなSLが有名だが、この広場には小さなライオン像や「乙女と盲導犬の像」など、さまざまなオブジェが設置されているのである。しかし私が見かけたのは、乙女の像に寄りかかって電話をする男性の姿であった。おそらく像は、壁や柱がわりとしてしか見られていない。
一番かわいそうな扱いをされていた像、それは浜松町駅にいた。浜松町と言えば、ホーム上で毎月さまざまな衣装に着替える小便小僧が有名だが、北口改札を出たところに、少女が耳をすませるポーズの「碧(みどり)の調べ」像がある。ところが私が訪れた際には、この少女の前に案内板がドーンと置かれ、像をほぼ隠してしまっていた。これでは認識のしようがないではないか。
こうした駅前オブジェの存在意義とは何なのか、もしかすると無くても影響がないのではないか、などと考え始めると、新橋駅を眺める巨大狸の「狸広」の背中も悲しげに映る。それでも、駅前には何かしらのオブジェが存在していてほしいと思う。たとえ素通りするだけであっても、無くなったらきっと寂しい。
≪さまざまな傾向をもつ、数々の駅前オブジェたち≫
3人組でなかよくしがち
男1人・女2人の組合せ。平和を願う母と子の姿なのか。
こちらは女性3人。友達同士でこれから旅行に行くのかも。
前衛作品はまぎれがち
花束を持った少年がモチーフとなっており、広場全体が作品。
駅前ビルに突如として現れ、躍動する赤い棒たち。
形の異なる7つの球体が、ゆっくり回転し続けている。
ライオンズクラブが設置しがち
お金を口に入れると、吠えてお礼を言ってくれる。
不動明王に従う童子がモチーフ。左が男子、右が女子。
昔は、シェパードが盲導犬として活躍したそう。
子供たちが遊びがち
兄妹だろうか。ついポーズを真似してみたくなる。
ハチ公像のすぐ近くにある。
愛と平和を謳(うた)いがち
母が掲げているのは非核平和都市品川宣言のマーク。
台座に刻まれた「アガペー」とは、無償の愛。
たまに本物のハトが止まっていることもある。
平和とハトとは切っても切れない関係にある。
動物たちが活躍しがち
日本で一番有名な犬の銅像といっても過言ではない。
駅前の「狸小路」を懐かしんで建立された「開運狸」。
よく見れば時計の上にライオンが。この駅には馬時計もある。
大勢でにぎわう。横の子フクロウたちがかわいい。
設置されて日が浅いせいか、認知度が低め。
別の場所の子パンダが移設され、親子像に。
文・イラスト・撮影=オギリマサホ
『散歩の達人』2022年10月号より