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駅で待ち合わせをする際、オブジェを目印にする人は多いだろうが、どれだけの人がその名前を認識しているのだろう。山手線の駅で有名なのは、渋谷駅の「忠犬ハチ公像」ぐらいで、あとはたとえば「池袋駅東口の、あの大きな手の前で待ってるね!」といった具合。その像が「母子像」という名前であることなど、多くの人は気にも留めていないのではないだろうか。

それでも、待ち合わせ場所になるオブジェはまだいい。そもそも駅前ロータリーの植え込みの中に設置されていて、誰も徒歩で近づくことができない「大地の像」(池袋駅)や、台座が高すぎて視界に入らない「井上勝像」(東京駅)など、物理的に待ち合わせ場所にするのが難しい像もある。

鉄道の父とよばれる井上勝像。明治期に新橋~横浜間など各地の路線敷設を主導した。JR東京駅丸の内中央口すぐにある。
鉄道の父とよばれる井上勝像。明治期に新橋~横浜間など各地の路線敷設を主導した。JR東京駅丸の内中央口すぐにある。

しかし、駅周辺に設置されているにも関わらず、その存在が景色の一部と化してしまい、見過ごされているオブジェの何と多いことか。

試しに新橋駅西口広場に降り立ってみる。大きなSLが有名だが、この広場には小さなライオン像や「乙女と盲導犬の像」など、さまざまなオブジェが設置されているのである。しかし私が見かけたのは、乙女の像に寄りかかって電話をする男性の姿であった。おそらく像は、壁や柱がわりとしてしか見られていない。

一番かわいそうな扱いをされていた像、それは浜松町駅にいた。浜松町と言えば、ホーム上で毎月さまざまな衣装に着替える小便小僧が有名だが、北口改札を出たところに、少女が耳をすませるポーズの「碧(みどり)の調べ」像がある。ところが私が訪れた際には、この少女の前に案内板がドーンと置かれ、像をほぼ隠してしまっていた。これでは認識のしようがないではないか。

こうした駅前オブジェの存在意義とは何なのか、もしかすると無くても影響がないのではないか、などと考え始めると、新橋駅を眺める巨大狸の「狸広」の背中も悲しげに映る。それでも、駅前には何かしらのオブジェが存在していてほしいと思う。たとえ素通りするだけであっても、無くなったらきっと寂しい。

≪さまざまな傾向をもつ、数々の駅前オブジェたち≫

3人組でなかよくしがち

新橋「愛の像」。
新橋「愛の像」。

男1人・女2人の組合せ。平和を願う母と子の姿なのか。

東京「仲間」。
東京「仲間」。

こちらは女性3人。友達同士でこれから旅行に行くのかも。

前衛作品はまぎれがち

新宿「花尾」。
新宿「花尾」。

花束を持った少年がモチーフとなっており、広場全体が作品。

日暮里「昇龍」。
日暮里「昇龍」。

駅前ビルに突如として現れ、躍動する赤い棒たち。

大崎「七つの回転」。
大崎「七つの回転」。

形の異なる7つの球体が、ゆっくり回転し続けている。

ライオンズクラブが設置しがち

新宿「みらいおん」。
新宿「みらいおん」。

お金を口に入れると、吠えてお礼を言ってくれる。

西日暮里「飛翔」。
西日暮里「飛翔」。

不動明王に従う童子がモチーフ。左が男子、右が女子。

新橋「乙女と盲導犬の像」。
新橋「乙女と盲導犬の像」。

昔は、シェパードが盲導犬として活躍したそう。

子供たちが遊びがち

神田「健やかに」。
神田「健やかに」。

兄妹だろうか。ついポーズを真似してみたくなる。

渋谷「地球のうえにあそぶこどもたち」。
渋谷「地球のうえにあそぶこどもたち」。

ハチ公像のすぐ近くにある。

愛と平和を謳(うた)いがち

大崎「平和の誓い」。
大崎「平和の誓い」。

母が掲げているのは非核平和都市品川宣言のマーク。

東京「愛(アガペー)の像」。
東京「愛(アガペー)の像」。

台座に刻まれた「アガペー」とは、無償の愛。

高田馬場「平和の女神像」。
高田馬場「平和の女神像」。

たまに本物のハトが止まっていることもある。

池袋「平和の像」。
池袋「平和の像」。

平和とハトとは切っても切れない関係にある。

動物たちが活躍しがち

渋谷「忠犬ハチ公」。
渋谷「忠犬ハチ公」。

日本で一番有名な犬の銅像といっても過言ではない。

新橋「狸広の像」。
新橋「狸広の像」。

駅前の「狸小路」を懐かしんで建立された「開運狸」。

高田馬場。
高田馬場。

よく見れば時計の上にライオンが。この駅には馬時計もある。

池袋「いけふくろう」。
池袋「いけふくろう」。

大勢でにぎわう。横の子フクロウたちがかわいい。

新宿「Suicaのペンギン」。
新宿「Suicaのペンギン」。

設置されて日が浅いせいか、認知度が低め。

上野「ジャイアントパンダ」。
上野「ジャイアントパンダ」。

別の場所の子パンダが移設され、親子像に。

文・イラスト・撮影=オギリマサホ
『散歩の達人』2022年10月号より