誰もが知る、誰も使わない自販機
自販機でコンドームを買った経験はあるだろうか。周囲の20~50代約20人に恥も外聞もなく聞きまわってみたところ、「ある」と答えた人はほぼゼロ。正直に答えづらい質問にしたって悲しい結果である。誰もが目の端には捉えつつ、見て見ぬふりをしてそそくさと通り過ぎてしまうのが現状なのだ。
そんな仕打ちを受けるひとりぼっちのアイツが不憫(ふびん)に思えてきて、見つけ次第写真におさめつつ、その生態を探ることにした。
居場所はほとんどが薬局。店先にどんと据えられている以外では、入り口から離れた隅っこや建物の側面、裏側に隠すように置かれていることも多い。時折、個人商店やタバコ屋の店先で見かけることもある。何年も前に店を畳んだとおぼしき建物の前に取り残されているのは、うっかり生き残ってしまったヤツなのだろう。
自販機そのものはというと、ポップなデザインが目を引く某メーカーのものもあるけれど、多くは昭和の香りプンプン漂う錆びついた骨董品レベルの様相だ。商品も、令和時代のドラッグストアでは見たこともないようなパッケージが並んでいる。
盛衰興亡の半世紀
しかし、存在するからには買う人もいるはず、少なくともかつてはいたはず。そう思って歴史から調べてみた。
コンドーム自販機が登場したのは1969年の大阪。シャツの製造業を営む男性がふと思いつき、タバコ自販機を改造して設置したところ大当たり。すぐに売上爆増、たちまち全国へ波及して、若者たちは誰もが勝負の時を迎えると夜な夜な自販機に走った……らしい。たしかに、Amazonもなく24時間営業のコンビニもそこまで普及していない時代、いつでも人目を忍んで手に入れられる自販機は、頼れる相棒だったのだ。
ならば、自分もいざという時のために近所の自販機をチェックしておくか……そう思って記憶をたどり散歩ついでに寄ってみると、あれれ、去年あったはずの場所にない。て、撤去されちゃってる!
言わずもがな、コンビニやドラッグストアの普及に押されてその設置数は減少する一方なのだ。「毎年20~30台ほどなくなっていますよ」と教えてくれたのは、とある自販機オペレーター会社の担当者。飲料や食品の自販機を設置・管理・メンテナンスする企業でコンドーム自販機も事業のひとつだという。「ウチで管理しているのは今140台くらい。あと2~3年したら全部なくなっちゃうんじゃないかな」。
利用者が激減したことを考えれば当然のさだめだろう。かくいう筆者も全くお世話になったことがないのだから、それを嘆く義理もない。しかし、やがて失われてしまうならば、今日も黙って道端に立ち続けるアイツの勇姿を、ひとつでも多く記録しておかねばと思わずにはいられない。
コンドーム自販機コレクション
文・撮影=中村こより(本誌編集部)
参考文献=『男性の見た昭和性相史 PART3』下川耿史/第三書館/1993年
『散歩の達人』2022年9月号より