今度のオリンピック・パラリンピックで、7種もの競技が開催される会場がある。幕張メッセだ。交通至便な東洋一の複合コンベションセンターだから、大量集客はお手のもの。2019年10月に行われたレスリングテストイベントも、ゆったり空間で白熱の試合が繰り広げられた。
とはいえ55年の月日にしみじみ。前の東京オリンピック時には、ここは土地さえもなかったのだ。幕張潮干狩り場で有名だった東京湾岸の広大な干潟の埋め立て開始は、ずっと後の1973年だからだ。当初は住宅地計画だったが途中で幕張新都心計画に変更、約522haの新天地の一画に幕張メッセが造られた。
様々な競技で注目されるとはいえ、これらの会場はオリンピックが終われば通常のイベントや国際会議の場に戻る。でも心には残り続ける。
駒沢がレスリングの聖地であり続けるわけ
それに対して今も「レスリングの聖地」と言われるのは駒沢体育館だ。何しろ1964年大会ではここで日本選手は5つもの金メダルを勝ち取った。以来、公営体育館ではあるが何とレスリングマットが備品として常備されている。
「だから学生レスリングは、この会場で試合をすることが多いですね」と、東日本学生レスリング連盟会長の朝倉利夫さんは語る。ご自身も世界的な選手として活躍し、現在は国士舘大学レスリング部部長として次のオリンピック代表候補をはじめ、多くの後進を育て続けている。
「実を言えば重いマットの移動にはかなり費用がかかります。だから常備されているのは助かります」と、同連盟理事長の吉本収さん。国内では他に大阪府堺市の金岡公園体育館などにもレスリングマットがあり、西日本選手の会場になっている。
そもそも駒沢の各施設は1964年の4種目のオリンピック競技のために造られた。だから体育館は12m四方のレスリングマットが3面収まる形に設計。さらに体育館入り口の壁面にはレスリング優勝者銘板が掲げられ、館内の『東京オリンピックメモリアルギャラリー』では、数々の選手の活躍を紹介。弥(いや)が上にも士気が上がる会場なのだ。
日本人レスリング選手は1952年のヘルシンキ大会以来、歴代オリンピックで金メダルを獲得し続けている。彼ら彼女たちの成長を駒沢体育館の大屋根は見守り続けてきた。2020年のメダルも今から楽しみだ。
取材・文=眞鍋じゅんこ 撮影=鴇田康則