いつ来ても新しいメニューがあるこだわりぶり

浅草のホッピー通りを歩くと、いろいろなお店が目に入り、店員さんたちの元気な呼び込みが聞こえてくる。だからどこから入ろうかついつい迷ってしまうが……「本格的な料理が食べたい」と言うのなら、通りを少し歩いたところにある『浅草 なつの』に行けばいい。「僕らは酒ありきで営業していない。料理の味で勝負しています」とご主人の夏野丈太郎さんが言うように、本格的なメニューが数多くラインナップされている。

「2014年の7月から居酒屋になったので、今年で7年目ですね。もともとは同じ屋号でおみやげ屋さんをやっていたんですよ。その当時は若いデザイナーに描いてもらったイラストや商品を販売しながら、カウンターバーみたいにお酒だけを提供するというスタイルだったんですが、せっかくなら居酒屋さんにしちゃおうということでね」。

カウンター席からは厨房が見える作りに。厨房では和食をメインにしていた料理長が腕を振るう。
カウンター席からは厨房が見える作りに。厨房では和食をメインにしていた料理長が腕を振るう。

さっそくメニューを拝見すると、揚げ出し豆腐などの手の込んだ和食から季節を生かした旬の食材の料理など様々。「常時、50品前後あるメニューとその季節ごとに旬のメニューも料理長のセンスに任せて提供させていただいています。なので、一週間でメニューが変わるから、いつ来ても新しい味に出会えると思います」と、夏野さんも胸を張る。

オーナーを務める夏野丈太郎さんは地元・浅草出身。自身も調理師免許を所有し、他店での修業経験を持つなど料理には長年携わっている。
オーナーを務める夏野丈太郎さんは地元・浅草出身。自身も調理師免許を所有し、他店での修業経験を持つなど料理には長年携わっている。

仕込み&仕入れにこだわることで生まれる極上の味わい

さて、早速メニューをオーダーしようとしたが……やはりここはホッピー通り。各店ごとに味が異なるという牛すじ煮込は当然食べてみたい。そして、この通りでは珍しく魚介類に力を入れている様子の『浅草 なつの』。オススメにあったしめ鯖も併せてオーダーした。

自慢の牛すじ煮込の仕込み段階の様子を激写。丁寧に余分な脂をすくいとる作業を重視するため、1日がかりで仕込むという。
自慢の牛すじ煮込の仕込み段階の様子を激写。丁寧に余分な脂をすくいとる作業を重視するため、1日がかりで仕込むという。
オーナー自慢の牛すじ煮込770円。牛すじと豆腐しか入っていないため、ボリューム満点。甘じょっぱい味わいは老若男女を問わずに好きな味だ。
オーナー自慢の牛すじ煮込770円。牛すじと豆腐しか入っていないため、ボリューム満点。甘じょっぱい味わいは老若男女を問わずに好きな味だ。

まずはお店自慢の牛すじ煮込から。優に2人前はあろうかというボリュームに加え、中身も牛すじと豆腐のみというシンプルさ。スキヤキに近い甘じょっぱい味わいは日本人なら誰もが好む味だろう。

それでいて牛すじはトロトロになっている部位もあれば、女性にはうれしいコラーゲンがタップリ含まれたところもあるなどバリエーション豊富。「筋張って硬い肉」というすじ肉の印象を見事に覆すものだった。

「牛すじを仕込む際、通常は“ゆでこぼし”と呼ばれる技法で汚れを取るだけだったり、最近だと圧力なべを使って簡単に作ったりしますけど、ウチでは手間がかかっても余分な脂を丁寧にすくって、旨味だけを凝縮する。以前、ラーメン屋さんに勤めていた経験があるんですが、そこでのスープ作りがヒントになっていますね。すじ肉も国産牛のものしか使わないし、いろいろな部位のものをバランスよく入れているので、いろんな食べ応えが楽しめると思います」。

しめ鯖1200円にはなんと金華サバを使用。「ホッピー通りでナンバーワンの海鮮料理が食べられる」と評判なのも頷ける。
しめ鯖1200円にはなんと金華サバを使用。「ホッピー通りでナンバーワンの海鮮料理が食べられる」と評判なのも頷ける。

そしてしめ鯖にはサバの中でも最高級の品種である金華サバを使用。当然ながら自家製で、通常のしめ鯖とは一線を画す味わいになっている。

「ホッピー通り=煮込みみたいなイメージがありますよね? 僕らはそれだけにしたくなかったので魚料理にも力を入れていて。中でも仕入れは豊洲市場の『魚河岸 祝繁』っていう一流店にしか卸さないような魚河岸に依頼していて、毎日新鮮な魚が届くんです。刺身はもちろんですけど、このしめ鯖は自家製で、ウチでしか食べられない味ですよ」。

最高級の食材に和食出身でハイセンスな料理長が腕によりをかけて作るのだから、味の方は当然おいしいに決まっている。何を食べても絶品なだけにお酒をメインにせずとも、食事にやって来るお客さんもいるというのも頷ける。

百聞は一見にしかずなので、気になったらぜひ!

「お酒のおつまみとしての料理」ではなく、料理そのものの味にこだわってきた『浅草 なつの』。ホッピー通りでは比較的新しいお店ながら、その料理の味に惚れ込んだ常連客が絶えず、今では老若男女問わず、この店に集まってくるという。

お店の壁にデカデカと描かれた龍のイラストはおみやげ屋さん時代からの名残り。インパクト抜群で写真を撮っていく人も多数いる。
お店の壁にデカデカと描かれた龍のイラストはおみやげ屋さん時代からの名残り。インパクト抜群で写真を撮っていく人も多数いる。

生まれも育ちも浅草で、バリバリの地元っ子である夏野さんに最後にお店、そして浅草の街について語ってもらった。

「昔に比べて浅草の街も若いお客さんが増えてきたかなって感じがしますね。この記事を読んで浅草に興味を持ってくれた方がいたら、ぜひ歓迎します。ホッピー通りにはウチだけでなく、たくさんの居酒屋さんがあるので、きっと好みの味のお店が見つかると思います。なので最初は2~3軒巡ってみると楽しいと思うし、その1軒がウチになればすごくうれしいですね。とにかく百聞は一見にしかずなので、ウチの牛すじにが気になった方はぜひお待ちしています」。

住所:東京都台東区浅草2-5-12-1F/営業時間:14:00~21:00(土・日・祝は11:00~21:00)/定休日:水・木(ただし、祝の場合営業)/アクセス:つくばエクスプレス浅草駅から徒歩3分

構成=フリート 取材・文・撮影=福嶌 弘