監修:はせがわ酒店
創業昭和35(1960)年の、厳選した全国各地のお酒を数多く取りそろえる日本酒・焼酎・ワイン専門酒店。東京都内に6つの店舗を展開。オンラインショップも。

原料や製法の違いで特定名称酒の分類は決まる

日本酒は、大きく8種の「特定名称酒」と「普通酒」に分けられます。さらに「特定名称酒」のうち、それぞれ原料と製法、精米歩合の条件によって、「純米酒」「本醸造」「吟醸酒」といった分類がされます。

原料は、米と米麹、水は必須。これに「醸造アルコール」が含まれるかどうかで、「純米酒」か「本醸造」「吟醸酒」に分けられます。に分けられます。また、「吟醸造り」という製法で造られた日本酒のことを「吟醸酒」と呼びます。これは、高度に精米された米を用いて、長期低温発酵させることで、吟醸香という特有のフルーティな香りが特徴です。

さらに、もうひとつのポイントが「精米歩合」。これは、玄米の表層部を削って残った米の割合のこと。数値が小さくなるほど米が削られていることを意味し、雑味がなく、香り高い日本酒が造られると言われています。

表にしてみるとこんな感じ。
表にしてみるとこんな感じ。

火入れの有無や回数で生まれる「生酒」、「生詰め酒」、「生貯蔵酒」の違い

日本酒の製造段階で重要な工程が「火入れ」と呼ばれる加熱処理です。日本酒は、原料を発酵、圧搾することで造られますが、酒の中に残っている酵素が働くため、酒の質が変化し続けます。この状態を「生酒」と呼び、新鮮で若々しい味わいを楽しめますが、すぐに味が変わり、劣化も早いというデメリットも。そのため、多くの日本酒は風味を安定させるため「火入れ」を行い、発酵を止めてから出荷します。

文字だけを見ると火にかける、焼くといった印象を受けますが、正確には湯煎などの加熱処理を施すことで、日本酒の風味が損なわれないよう60~65℃程度まで温度を上げてから急冷する方法です。また、「火入れ」の回数やタイミングによっても名称が異なります。

秋口に出荷される「ひやおろし」は生詰め酒

「ひやおろし」は「生詰め酒」の一種で、9月から10月ごろに出荷される日本酒です。火入れをして貯蔵庫で保存。外の気温と貯蔵庫の温度が同じくらいになる秋口に出てくる酒であるため、日本酒の温度で常温を指す「冷や」で「卸す」という意味をこめて「ひやおろし」と呼ばれるようになりました。夏のあいだ貯蔵庫で寝かせて熟成させているため、絞りたての酒の粗さが取れ、味わいにまろやかさや丸みが出ることが特徴です。

乳酸を培養する「生酛造り」と「山廃仕込み」の違い

「生酛(きもと)造り」は、江戸時代から伝わる伝統的な造り方で、ひと言で言えば、「乳酸を手作業で培養する方法」を指します。

日本酒を造るとき、蒸した米と水に麹や酵母、乳酸菌を加え、酵母を培養させて発酵を促す「酵母造り」の工程があります。ここで、酵母を浸食する恐れのある雑菌を死滅させる役割を持つのが乳酸菌から生まれた乳酸。これを手作業で造ったものが「生酛」と呼ばれ、人工的な乳酸を使ったものを「速醸酛(そくじょうもと)」と呼ばれます。生酛造りの酒はコクと深みのある味わいを持ちつつも、スッキリキレのある後味が特徴です。

また、「山廃仕込み」という言葉もよく見かけるかと思いますが、これは生酛造りと同じく乳酸を手作業で育てる造り方です。生酛造りでは、乳酸を培養するために米や麹をすりつぶす「山卸し」という作業があるのですが、この「山卸し」を「撤廃した」造り方を「山廃仕込み」と呼ぶようになりました。生酛造りと味わいが近く、複雑でキレのある風味が特徴です。

「原酒」とは? 加水の有無でも味わいと呼び名が変化

日本酒造りでは、発酵させて絞った酒に水を加える「加水」という行程がありますが、この工程を行わずに出荷した酒を「原酒」と呼びます。加水された日本酒のアルコール度数が15%前後であることに対して、原酒は18%前後と、度数の高い酒です。言うまでもなく、酒の風味がダイナミックにガツンと飛び込んでくるのが特徴なので、しっかり酒を味わいたい方におすすめ。氷を入れてオンザロックにして嗜むのもアリです。

日本酒で日本酒を仕込む高級酒『貴醸酒』

仕込みの際に水の一部またはすべてを清酒に置き換えて仕込んだ酒を「貴醸酒」と呼びます。貴醸酒は通常の日本酒と比べて糖が多く残っていて、甘みやとろみの強い味わい。貴腐ワインと比較されることの多い高級日本酒として知られています。ちなみに、貴醸酒は商標名で、「貴醸酒協会」に加盟していないとこの名前を使用できません。

熟成の方法にも秘密あり? 「古酒」や「樽酒」についても知ろう

明確な基準はないものの、酒蔵で数年から数十年の熟成を経た酒を「古酒」と呼びます。琥珀色に変化した色味や独特の熟成香は多くの酒好きを虜に。他にも、樽に入れて酒に木の香りを移す「樽酒」や、炭酸ガスを含む「スパークリング日本酒」など、製造工程の環境を活かした日本酒のバリエーションは多種多様。自分好みの酒を選ぶべし!

食べる米とは違う。日本酒用の米「酒米(さかまい)」

日本酒を造るために使われている米は「酒米」と呼ばれる米で、普段ごはんとして食べている米とは異なるものです。

酒米は、食用の米と比べて雑味のもとになるたんぱく質や脂質の含有量が低く、米を削る割合も高いため、ひとつひとつが大粒。これらに加えて「心白(しんぱく)」と呼ばれる白濁が発現しやすいことが特徴です。心白の内部は隙間が多く、ここに麹菌が深く根ざすことで良質な米麹ができあがると言われています。酒米は、まさに酒造りのために研究され、品種改良された米なのです。

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取材・文=高橋健太(どてらい堂) 監修・取材協力=はせがわ酒店

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