『大江カレー』の原点
黄色い看板を目印に、店の中に入るとBGM代わりの波の音に包まれる。壁には真っ青な海の写真。
「年に一度は行くくらい沖縄が好きで。店にいながら沖縄を感じられたらと、最近波の音を流し始めました。写真はすべて自分で撮ったものです」。
そんな大江さんの人柄が垣間見える店内には、厨房と壁側に面したカウンター席が6席ほど。テーブルには、福神漬けとらっきょう漬けが入った容器と、水が入ったピッチャーとグラス、そしてカトラリー類など、カレーを食する際にあるとうれしいものが過不足なく揃っている。
メニューには鶏肉、野菜、魚介といったカレーの種類と、0~5段階の辛さ表示、ご飯の量を少なめから大盛りまで選べる表示が記載されている。3種類のカレーのうち、野菜と魚介の具材は月ごとに替わる。カレーは、1種または2種から選ぶスタイルだ。
大江さんがカレー作りを始めたのは、2007年頃のこと。趣味程度から始まったカレー作りだったが、当時の職場の近くにあった『curry 草枕』の常連だった大江さんは、この店で本格的にカレー作りを学ぶことを決意。働きながら得たヒントをもとに、オリジナルのカレーが完成していった。勤務3年目には、間借りカレー店を不定期で営業し、独立に向けた動きも本格化。4年間の修業期間を経て、現在の『大江カレー』がオープンすることになった。
日本の米に合うスパイスカレー
今回いただいたのは、おすすめの鶏肉と魚介の2種カレーセット。この店のカレーは、提供時にスパイスの香りが最高潮に達するよう、仕上げにパウダースパイスを加えるのが特徴である。さらに、使用するスパイスはカレーごとに変えているという。それもそのはず、実際にいただいてみると鶏肉と魚介のカレーそれぞれの個性がまったく違うのだ。
鶏肉のカレーは、しっかり炒めた玉ねぎとトマトの旨味にスパイスを効かせたキレのある味わい。スプーンで簡単に崩れるほどやわらかく煮込まれた鶏肉の旨味も感じさせる。対して、魚介のカレーは和を感じさせる出汁の旨味が濃厚。その秘密は、乾物出汁と具材を煮込む際に使用している日本酒だという。また、今回はいただいていないが、野菜のカレーはバターを多めに使い、コクの強い味わいになっているのだとか。
そんな3種類のカレーは、いずれも日本人が食べなれた日本の白米に合う味を意識して作られている。インド亜大陸のカレーをベースにしたカレー店が多い中、大江さんはあえて同じような路線を追わずに、差別化を図ったと話す。“カレーの街”高円寺に、またひとつ個性が光るカレー店を見つけた。
『大江カレー』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英