本当においしいご当地ラーメンを独自の解釈で再現し、神保町から発信

『可以』とは、船のオール「櫂」の当て字。新しいところへ漕ぎ出す、新しいものにチャレンジするという意気込みを店名に託したという。

神保町駅から徒歩1分。表通りから路地を一本入ったところに位置する『神保町 可以』は、近隣の店とは一線を画すこだわりのラーメン屋だ。どーんと目に飛び込むような看板は見当たらない。「麺」の一文字に導かれて歩みを進めれば、メニューボードが鎮座するあたりで表札サイズのサインが目に留まる。

さっそくのれんをくぐると、右手に券売機があった。カウンターのみの店内は、こぎれいで落ち着く。

路地に入ってまず目に入るのが、頭上にあるこの看板。

この日の取材は、開店1時間前からのスタート。仕込みはほぼ終わっていたが、本店から麺などの食材や調味料が続々と運ばれてくる。

「麺は製麺所を使わず、本店近くの仕込み場で打っています。すべて手作りというのも、うちのこだわりです」

そう教えてくれたのは、責任者の清田亮平さん。

本店とは、日本を代表するラーメンコンサルタント、渡辺樹庵氏が経営する高田馬場『渡なべ』のことだ。『神保町 可以』は、渡辺氏のプロデュースにより2010年3月に開業。以来、ラーメン通のスタッフが好きなものだけを発信する店として人気を博してきた。

カウンターだけの店内は、街の喧騒から隔絶された落ち着く空間だ。

創業当初は、濃厚味噌ラーメンを看板メニューにコアなファンの支持を集めていたが、客に迎合しない尖ったラーメン作りは当時の時流に乗り切れず、方向修正を余儀なくされた。試行錯誤の末にたどりついたのが、全国のラーメンを食べ歩いてきた渡辺氏が得意とするご当地ラーメンの再現だ。

自慢の中太ちぢれ麺は、本店近くの仕込み場で製麺後にお店に届けられ、直近に出る分だけを手揉みでちぢれさせる。

本当においしいと感じたご当地ラーメンの味を再現し、神保町の街から発信していく。それがいつの頃からかこの店のスタイルになった。当然のことながらご当地ラーメンのレシピは非公開のため、独自の解釈で再現しつつ微調整していくのだが、この作業を繰り返すうちに味が磨き上げられ、本家にも負けず劣らずのうまいラーメンに仕上がるという。

自家製の麺とスープ、具材が一堂に会す時、丼の中でドラマが始まる

『神保町 可以』双璧の一翼を担う煮干し中華そば850円。

この日いただいたのは、一番人気の煮干し中華そば。丼を受け取った瞬間、煮干しの香りがふわっと立ち上がった。中華そばと聞いて、一瞬、あっさりとした醤油味を想像したが、背脂のコクと繊細さが絶妙なバランスを勝ち得ている。合わせる麺は、手揉みで一手間加えた中太ちぢれ麺。これに煮干しの風味と背脂の甘味、店内のオーブンで焼き上げたチャーシューの旨味が絡みつくと、予想外の味のハーモニーが押し寄せてきた。

スープが絡みつく中太ちぢれ麺は自家製。もちもち食感がたまらない。

「ラーメンの具はチャーシューとメンマとネギがあれば満足」と清田さんが言うように、スープの味を際立たせるにはこの3種でも十分だと感じたが、味玉付きの味玉煮干し中華そば970円やチャーシュー多めの焼豚煮干し中華そば1050円、全部のせの味玉焼豚煮干し中華そば1170円もおすすめだ。

正月限定「濃厚味噌ラーメン」に続き、限定ラーメンを手がけていきたい

責任者の清田亮平さん。この店には店長という肩書きが存在しない。

この店の名物は煮干し中華そば、生姜醤油ラーメンだが、昔からの定番メニューである濃厚つけめんも根強い人気だ。また、毎年正月には、創業時の看板メニュー、濃厚味噌ラーメンが期間限定で復刻。コアなファンをうならせている。

 

「季節限定ラーメンは定期的に展開していますが、今後も積極的に限定メニューを打ち出していきたいです」

と、清田さん。

大学時代に食べた『渡なべ』の味に衝撃を受け、東京のラーメン業界のレベルの高さを思い知った。以来、バイト代をすべて注ぎ込みラーメンを食べ歩いたという。

「たくさんのラーメンに出合ううち、食べ歩きをたのしむことから、考えながら食べるという方向へとシフトしていきました。考えた結果をラーメンの味に落とし込み、フィードバックを繰り返すことで、ラーメン作りは完成していく。このたのしさをとことん追求していきたいですね」

渡辺氏とラーメンの食べ歩きツアーに出かける時は、1日10軒まわることもあるのだとか。次はどんなご当地ラーメンをたのしませてくれるのだろう。清田さんの笑顔に、期待がふくらむ。

住所:東京都千代田区神田神保町 2-2-12 サンエスビル 1F/営業時間:11:00〜20:00/定休日:無/アクセス:地下鉄神保町駅から徒歩1分

構成=フリート 取材・文・撮影=村岡真理子