「ハチ公前で待ち合わせ」は、もはや不可能⁉【ハチ公前/SHIBU HACHI BOX】(ハチ公口)

「渋谷駅の待ち合わせ場所」として真っ先に思い浮かべるのは、「忠犬ハチ公」の銅像だろう。JRの「ハチ公改札」を出れば、すぐにハチ公を発見することができる。そう思っていたのだが……。渋谷駅では2025年1月現在「100年に一度」といわれる大規模な再開発が行われており、至る所で工事や移設が行われている。その一環で、2025年1月26日以降から「ハチ公改札」は宮益坂寄りに移設されてしまった。ハチ公改札なのに、改札を出てもハチ公がいない。

人混みをかきわけ、ようやく渋谷スクランブル交差点に面したハチ公前広場に向かう。すると「待ち合わせ場所」であったはずのハチ公像は、今や外国人観光客などに人気の記念撮影スポットとなっており、撮影待ちの長蛇の列ができていた。「ハチ公前で待ち合わせ」は、もはや不可能なのだろうか。

写真右側のハチ公に向かって、記念撮影を待つ行列ができている。
写真右側のハチ公に向かって、記念撮影を待つ行列ができている。

その代わりといってはなんだが、ハチ公をグルリと取り囲むように設置された金属製のベンチがあり、人々はそこに座って誰かを待っているようであった。

ハチ公像周辺のベンチはいつも人でいっぱいだが、真後ろに座っている人がいないのは、記念撮影をする人への配慮だろうか。
ハチ公像周辺のベンチはいつも人でいっぱいだが、真後ろに座っている人がいないのは、記念撮影をする人への配慮だろうか。

また、ハチ公の視線の先には観光案内施設「SHIBU HACHI BOX」が設置されており、人々はその前にも集っていた。

ハチ公像の向かいに設置されている「SHIBU HACHI BOX」。中に入る人より、その前で待ち合わせている人のほうが多い。
ハチ公像の向かいに設置されている「SHIBU HACHI BOX」。中に入る人より、その前で待ち合わせている人のほうが多い。

「ハチ公前」ではなく「ハチ公のあたり」というアバウトな場所指定をして、あとはスマホでやりとりをするのが無難だろうか。

2025年現在、姿を消しつつある【ハチ公ファミリー】と、【渋谷駅前交番】(ハチ公口)

もう一つの待ち合わせスポットである、旧ハチ公改札外壁に設置されていた陶板製レリーフ「ハチ公ファミリー」はどうかと見ると、こちらも再開発に伴い、2025年1月時点で撤去作業が進められてしまっている。

「もしハチ公に家族がいたら」というイメージで制作されたという、レリーフ「ハチ公ファミリー」。移設も保存も難しいとのことで、撤去されることが報じられた。2025年1月27日撮影。
「もしハチ公に家族がいたら」というイメージで制作されたという、レリーフ「ハチ公ファミリー」。移設も保存も難しいとのことで、撤去されることが報じられた。2025年1月27日撮影。
上の写真の3日後の1月30日朝には、すでに覆いが出来て見られないようになっていた。
上の写真の3日後の1月30日朝には、すでに覆いが出来て見られないようになっていた。

この近くで待ち合わせをしたいとなると、目立つ場所はJRの入り口を挟んで隣にある「渋谷駅前交番」くらいしかない。ちなみにこの交番、「道案内は、1日平均約2,000件、多い時は約3,000件にもなります」(警視庁ホームぺージより)ということで、街に不慣れな人にとっては大変心強い味方である。

スクランブル交差点に面した待ち合わせの名所【SHIBUYA TSUTAYA/大盛堂書店/天津甘栗】(ハチ公口)

スクランブル交差点に面しているのはハチ公広場だけではない。対岸のセンター街入り口には『SHIBUYA TSUTAYA』が入るビルがそびえている。1、2階に入る『スターバックスコーヒー』は、待ち合わせには最適だろう。

スクランブル交差点に面したスターバックス。内部から、スクランブル交差点を渡ってくる待ち合わせ相手を見つけることもできる。
スクランブル交差点に面したスターバックス。内部から、スクランブル交差点を渡ってくる待ち合わせ相手を見つけることもできる。

冒頭にも触れたように、渋谷の街は日々様変わりしている。その中で変わらない店舗の一つが『大盛堂書店』である。「待ち合わせ場所を指定したのに、いざ現地に行ってみたらなくなっていた」という心配がない、安心できる待ち合わせ場所だ。

明治45年(1912)創業の老舗書店。変わりゆく渋谷の街の中で存在感を示す。
明治45年(1912)創業の老舗書店。変わりゆく渋谷の街の中で存在感を示す。

一方、『大盛堂書店』と並んで“変わらないスクランブル交差点の景色”を担ってきたのが、「三千里薬品神南店」の大きな看板であった。ところが2024年末、近隣店舗のとの統合に伴い閉店してしまった。

三千里薬品は近隣の宇田川店と統合したが、大型ビジョンには時折「三千里薬品」と大書された広告が流れる。
三千里薬品は近隣の宇田川店と統合したが、大型ビジョンには時折「三千里薬品」と大書された広告が流れる。

「三千里薬品前で待ち合わせをしていたのに、どうしよう」とお嘆きのあなた、心配するには及ばない。その隣にはこれまた昔から変わらず営業している天津甘栗の店舗がある。この天津甘栗店の前で待ち合わせをすれば、甘栗の甘い匂いに包まれて、幸せな待ち時間を過ごすことができるだろう。

これまた古くからある天津甘栗の店。近くにいるといい匂いがする。
これまた古くからある天津甘栗の店。近くにいるといい匂いがする。

穴場スポットに⁉ 移設された【モヤイ像】(西口)

渋谷駅の待ち合わせ場所としてもう一つ有名な、西口に設置されていた「モヤイ像」はどうなっているのか。

2022年撮影のモヤイ像。ハチ公広場への通り抜けもできないようになっており、近くの喫煙スポットに出入りする人しか通っていなかった。
2022年撮影のモヤイ像。ハチ公広場への通り抜けもできないようになっており、近くの喫煙スポットに出入りする人しか通っていなかった。

イースター島のモアイ像にも似た巨大な顔面の石像・モヤイ像は、伊豆諸島の新島が東京都に移管されて100年になったことを記念し、1980年に渋谷区に寄贈されたものだ。東急東横線の地上改札にも近かったその像は、東横線ユーザーにもなじみ深い待ち合わせ場所であった。ところがその地上改札の閉鎖(2013年)、東急百貨店東横店の閉店(2020年)によって人の動線が変わり、モヤイ像前を通る人はほとんどいなくなってしまっていた。

2024年、そのモヤイ像にブルーシートが掛けられていた際は「すわ撤去か」と肝を冷やしたが、2025年1月22日、国道246号沿いに移設されて再公開された。

2024年4月、モヤイ像がギョッとする姿に。
2024年4月、モヤイ像がギョッとする姿に。
この時点では、モヤイ像周辺が閉鎖されることのみが伝えられており、モヤイ像がどうなるのかわからず心配であった。
この時点では、モヤイ像周辺が閉鎖されることのみが伝えられており、モヤイ像がどうなるのかわからず心配であった。
モヤイ像が完全に見えないように覆われた2024年6月、「お休み中」の言葉に少し安心する。
モヤイ像が完全に見えないように覆われた2024年6月、「お休み中」の言葉に少し安心する。

まずはホッと胸をなで下ろしたものの、渋谷駅からは少し離れたこの移設場所、訪れてみると周囲に全く人がいない。

2025年1月、国道246号沿いに移設されたモヤイ像。しばらく見ていたが、足を止める人もいなかった。
2025年1月、国道246号沿いに移設されたモヤイ像。しばらく見ていたが、足を止める人もいなかった。
モヤイ像の反対側の顔を改めて意識した気がする。
モヤイ像の反対側の顔を改めて意識した気がする。

まだ移設されて日も浅いので皆に知られていないだろうし、この桜丘エリアは「渋谷フクラス」や「渋谷サクラステージ」など新たな施設も建設されて再開発が進んでいるので、いずれこのモヤイ像も待ち合わせ場所として復活するのかもしれない。しかし現状のモヤイ像周辺は、びっくりするほど人がいない。

これから渋谷で待ち合わせをしようという皆さん、混雑するハチ公前広場ではなく、新しく設置されたモヤイ像前を待ち合わせ場所としてみてはどうだろう。

イラスト・文・写真=オギリマサホ

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