ヒロシ
1972年1月23日、熊本県荒尾市生まれ。ヒロシ・コーポレーション所属。趣味はソロキャンプ。2020年発売の『ヒロシのソロキャンプ』(学研プラス)は8万部の大ヒット。熊本朝日放送『ヒロシのひとりキャンプのすすめ』(第3・4土曜24時~)も絶賛オンエア中。YouTube「ヒロシちゃんねる」は登録者数100万人突破。
どうも、ヒロシです。
今から20年以上前、田舎から上京したばかりの頃は、友達の家に数人で住んでいました。
お金がなかったので毎日、近所をウロウロしていました。散歩が好きというより暇で、「女性はいないかなー」と思って歩いていました。時々、ナンパに成功しました。100人に1人の打率でしたね。
当時、家から歩いて行けるところに、中野ブロードウェイがありました。初めてビルの中に入った時は、カルチャーショックでした。子供の頃の懐かしいフィギュアやおもちゃがひしめきあっていて。お金がないからウロウロするだけでしたが、中古CD屋さんのワゴンセールで好きなパンクロックのアルバムを見つけた時はアガりました。
住んでいたのは、新井薬師前です。そのあとは沼袋。だから、中央線じゃなくて、西武新宿線に思い入れがあります。
散歩と言えば、いっとき釣りにはまっていました。豊洲のどこか忘れたけれど、公園の海べたによくスズキを釣りに行きました。釣りって、じっと座って釣り糸をたらしているイメージがあるかもしれないけれど、僕はルアーだから。投げて巻いて、釣れなかったらすぐ移動。結局
釣りしながら、すごく散歩をしているんですよ。
他にも、すごくでかいフェリーの船着場があるところでも釣りをやっていました。土地名は……出てきません。電車の路線も、国道何号? とか聞かれても、まったくわかりません。
僕、とにかく調べるのが嫌いだから。ざっくり海ならどこでもいい。釣りは、海さえあればできるから。でも、海へは勘で行くわけではないですよ。そこはナビを使います。
観光名所より橋桁の落書きが見たいとです
海外も、何も調べないで行きます。文化も言葉も通貨も知らないまま、行きます。今、パっと心に浮かんだのはトルコです。親日で、本当にすごく良い国でした。行くとこ行くとこ、見ず知らずの僕にみんなチャイを出してくれました。あとでお金を請求されるんじゃないか? と警戒しましたが、純粋で親切な人ばかりでした。
でも、トルコ人が何語を話しているのか、いまだに知りません。
日本でも海外でも観光地っぽい「地のもの」に、まったく興味を持てません。初めての海外旅行は、22歳の時でした。友達と二人で一週間、イギリスからフランスへ行く計画でした。
旅行会社のツアーはなんとなくダサいって思っていたから、往復の飛行機チケットと、2つの国の最初のホテルだけ取って。でも、友達とはすぐに別行動になりました。僕は名所巡りがいや、時間を決めるのもいや。友達と行きたいところは当然違う。エッフェル塔に凱旋門、大英博物館、ビートルズがレコードジャケットを撮ったという道。友達が行きたくて、僕が興味を持てなかった「地のもの」例。
その代わり僕は、ロンドンではスーパーに行きました。パンを買いました。味のないパンを。僕はたぶん、より生活感のある地のものや人間を見たい。
たとえば、釣りをしている人。何が釣れるのか。どんな仕掛けを使っているのかを知りたい。
川があって橋があって観光名所があるとしたら、僕は橋の下に行きたい。釣り人や橋桁に書かれた、落書きを見たい。
極端なことをいえば、町のゴミ箱を覗いたり、カバンが落ちてたら拾って中を見ます。路上の壁に貼ってあるチラシやシールもすごく見ます。
海や川の漂流物も好きです。ゴミの袋にハングルが書いてあったりすると「お?」と思います。旅のガイドブックには、ゴミの穴場は載ってません。だから僕はゴミが好きなのかもしれない。
子供の頃からゴミには注目していました。当時は粗大ゴミも無料で出せる日がありましたよね?
過去の戦利品は冷蔵庫に洗濯機、あとテレビ。生活に役に立つ白物家電全般。今は家電は拾いませんが、いい感じの流木があれば、拾います。誰も遊びに来ない家でアクセサリーを飾ってカッコつけています。
もうバレているかもしれませんが、僕は多くの人と交わりたいと思っていません。日常でかかわるのは少数でいいし、究極言うと一人でいい。
僕は独身ですが、地震の時は、一人で良かったって思います。嫁がいて子供がいたら、そっちを守んなきゃいけない。責任感がものすごく強いんです。実家でも親と一緒にいたら、「タンスから離れて」「上からものが落ちてくる!」とか言っちゃいます。
俺は俺だけで精いっぱいなのに。だから一人がいいです。自分以外の誰かを見ていなきゃいけないって大変な行為です。結婚とか、自分が絶対守らなきゃいけないものがあるなんて、想像しただけでそわそわします。
ソロキャンプの良さは、自分のことだけ考えていればいいところです。
どう見たってインドアっぽい僕が、アウトドアに目覚めたのは、じつは小学生の頃です。山や川や海で、暗くなるまで遊んでいました。とくに好きだったのはキャンプ。家族でキャンプ場に行ったこともあったけど、そんなレジャーは頻繁にはない。
そこで僕なりに、簡易キャンプを発明しました。まずいい感じの大きさの石を拾ってきてかまどをつくり、そこでご飯を炊いて食べる。夜はテントの代わりに蚊帳を張って寝る。蚊帳を張るにもちょうど良い木が生えているわけではないから、自分で程よい長い棒を拾ってきて骨組みを作る。
誰かに手伝ってもらうことなく、全部自分一人でやっていました。アウトドアへの自信ができた、11歳。舞台は、熊本県荒尾の実家の庭でした。
今、「焚火会」っていうキャンプ好きの人たちとグループをやっています。たまに、「なんだ、ソロじゃねーじゃねえか」と言われることがあります。
いいえ、ソロです。
たまたまみんな近いところにテントを張ってるだけ。基本的に別行動。いつ来てもいつ帰ってもいい。別々に料理をし、別々に食べ、それぞれ自由に過ごす。
焚火会のメンバーは、自分の頭で考えて、それぞれ一人で安全に楽しめる、選ばれし者たちです。僕が心配したり世話を焼かなきゃいけない人だったら無理です。もちろん何かあったら助けます。友達だから死んだら困る。けど、死んでも自分の責任だから。
「みんな」を捨てたら友達ができました。
どこに行っても人がいます。心の底からゆっくりできる場所はどこかと考えたら無人島しかありません。無人島って、基本的に人が来ませんよね。でも長期はきついなと思います。僕は、文化も必要としていますから。家に帰って、ネットフリックスとか観たい。無人島は三泊四日がベストです。
もし、すごい美人と無人島で会ったら、当然ナンパします。ただ、どんなにすごい美人で、どんなに僕を理解してくれる人格者でも、ずっと一緒だと「僕は、向こうでテント張るね」と島の裏手に行くでしょう。僕には完全な一人の時間が必要。「一泊なら喜んで」。
無人島以外で行ってみたいのは、北欧です。憧れのブッシュクラフト発祥の地です。日本では、本当のブッシュクラフトはできません。海外の人がやっている「野遊び」がやりたいです。北欧のどこか、鬱蒼とした山か森がいいです。人から見られない、死角が好きです。
キャンプって「みんな」でやるものって言われます。キャンプだけじゃなく人生の多くの場面で「みんなで」って言葉を、何かあるごとに言われて来ました。子供の頃から違和感、ありました。「みんなで」ってなった瞬間、みんな空気を読み、足並みをそろえなくてはいけないと思ってしまう。
ある時、一人で好きな場所に好きな道具を持ってキャンプをやってみたら強烈な感動がありました。そしたら、さよならしたはずの「みんな」がソロで集まってきました。焚火会は全員、僕同様、「みんな」を捨てて来た人たち。
そこに、本当の自由と最高に贅沢な時間がありました。
『迷宮グルメ 異郷の駅前食堂』
予定も段取りもない丸腰ドキュメント
世界の鉄道に乗り、ふらりと降り立った駅前で絶品グルメの食堂を探す旅番組。毎回、二つの異郷を巡る。現地の言葉も通貨ももちろん文化も知らない旅人ヒロシが一人さすらうノンフィクション。放送開始から丸3年目。BS朝日にて、毎週金曜21時放送中(2021年4月1日からは毎週木曜21時放送)。
トルコ
沖縄
香川
取材・文=さくらいよしえ 撮影=加藤昌人 ロケ写真提供=BS朝日
『散歩の達人』2021年4月号より