昔の雰囲気を残しつつ2020年7月にリニューアル
神田駅西口から秋葉原方面に少し歩くと、赤煉瓦の柱が残る高架下に『神田珈琲園』がある。店内は2階建てで、エントランスは吹き抜け。通り側の壁はほぼガラス張りになっている。日が暮れると店内の柔らかな明かりが通りを照らし、その温もりに誘われて、ふらりと立ち寄る人も多い。
創業は1957年。きれいなウエイトレスが給仕する美人喫茶としてスタートした。その後、昭和40年代(1965~1974年)になると、直火式の自家焙煎で勝負する珈琲専門店に生まれ変わった。2018年からJR神田駅の耐震補強工事が始まり、一時休業。我慢の時間を経て、2020年7月にリニューアルオープンした。
「机や椅子、床の一部は旧店舗のものを使い、昔の雰囲気をできるだけ残しました」とはスタッフの上田容史美(よしみ)さん。常連にも好評のようだ。
店内で飲むブレンドコーヒーはお替わり自由
テイクアウト用のコーヒー豆や挽いた粉は100gから購入できる。豆袋をよく見ると裏面に小さな窓があった。焙煎直後の豆は二酸化炭素を出すため、そのまま詰めると袋がパンパンに膨らんでしまうため、ガス抜きの穴があいているのだ。また、コーヒーの味を劣化させる空気を袋内に侵入させない工夫もしてあるそうだ。
もちろん、自慢のコーヒーは店内でも味わえる。注文後に豆を挽き、布製フィルターを使うネルドリップで1杯ずつ抽出してくれる。
看板メニューの珈琲園ブレンドは、創業時から替わらぬ配合で、酸味の効いた味わいが特徴だ。なんと、お替わり自由。コーヒー好きには嬉しい。モーニングセットは飲み物に+100円でトースト、+250円でホットドックなど4種類。ピザトースト500円、サンドウィッチ600円~など、フードメニューも充実している。
近年、喫煙者は肩身が狭いが、2階席は喫煙OK。電子煙草だけでなく、紙巻き煙草も大丈夫だ。1階は禁煙席なので、煙草を吸わない人もご安心を。
こだわりの豆を店内の焙煎機で焼いていく
入り口すぐのレジ奥にガス釜直火式焙煎機が置いてある。周囲には煙や匂い、燃えかすを回収する2つの装置が接続してあり、高架下ゆえの苦労が垣間見えた。焙煎担当の長山敦さんは「うなぎ屋のタレが焦げる香りと同じで、コーヒー好きにはたまらない香りですが、仕方ないですね」と笑う。
コーヒーの焙煎作業は1日に4~5回行う。手順はまず生豆を計量。同時に焙煎機を点火して、焙煎釜を温める。一定の温度に上がったら生豆を焙煎釜へ。
釜の内では回転式洗濯機のようにドラムが回り、生豆を絶えず回転させる。最初は豆の水分量を均一にするため、温度は低め。次第に温度を上げていき、豆の焼き色やはぜる音を細かくチェック。頃合いが来たら釜から豆を出し、余熱で火入れが進まないよう冷却器で攪拌(かくはん)しながら急冷すると完成だ。
コーヒー豆はブラジルサントス、コロンビア、ハワイコナ、ブルーマウンテンなど14種類以上。当然、豆の種類や分量、焼き加減により、焙煎時間は異なってくる。
「当店の焙煎方法は先輩から後輩へと受け継がれたものです。私は30年近く焙煎をしてますが、奥が深いです」と長山さん。理想の自家焙煎コーヒーを求めて、今日も焙煎機に向かう。
取材・文・撮影=内田 晃