時がゆっくりと流れる昭和レトロ喫茶
『テラス・ドルチェ』が蒲田駅西口商店街サンロード内にオープンしたのは昭和53年(1978)のこと。数年前まで初代の小野田郁夫さんが切り盛りしていたが、現在は、2代目となる息子の小野田真識(まさのり)さんが父譲りのサイフォンコーヒーを淹れている。DOLCE(ドルチェ)は、イタリア語で甘い、やさしいなどの意味をもつ。この店ではやさしい時間を過ごせそうだ。
店内の右側に4席ほどのカウンター席があり、厨房側にいくつものサイフォンが並んでいる。注文が入るたびにアルコールランプに火がつけられ、やがてコーヒーの雫がフラスコに落ちていく。カウンターに席を取り、こんな風景をぼんやり眺めて時を過ごすのもいいかもしれない。
左側はテーブル席で、相席用の大テーブルのほか、2席4卓、4席4卓のテーブル席が備えられている。よく見れば壁には逆回りに進む大きな掛け時計がある。時間を気にせず、ゆっくり過ごしてほしいという店からのメッセージか。昔ながらのレトロな雰囲気が漂い、妙に落ち着いた、居心地のよさを感じる空間だ。客の大半は近所の常連さんのようで、一人客が多いのも特徴。
創業以来のサイフォンコーヒー。アイスコ-ヒーもサイフォンで……
近年、サイフォンで淹れる店は少なくなったが、この店では創業以来サイフォンコーヒーを守り続けている。「サイフォンで淹れたコーヒーは、ゆっくり抽出するので香りがいいんです」と店主の小野田さんが話してくれた。
この店ではアイスコーヒーもサイフォンで淹れる。濃いめに淹れたコーヒーと、クラッシュした氷が入ったグラスをテーブルまで運び、客の目の前でグラスに注ぐ。瞬間的に冷やすことで、味と香りが際立つのだという。これも初代店主が考案した創業以来の人気メニューだ。
セットにできるフードメニューも充実
フードメニューが多いのも純喫茶の特徴の一つ。メニューを開けば、ケーキ、パフェ、パンケーキ、ピラフ、スパゲティ、カレーなどに分かれ、それぞれに数種類が用意されている。選ぶのに迷ってしまいそうだ。いずれもドリンクとセットにすれば割安になる。
ケーキは自家製というので、どこかで修業したのか尋ねてみたら「独学です」との答え。それにしては種類も多く、味も本格派。かなりの努力家なのだろう。
この店では、月に1回、水曜または土曜の夜にジャズライブを行っている。親交のあるミュージシャンのつながりで、プロ・アマ、さまざまなミュージシャンが来演するという。
レトロな店内に流れるジャズの調べ。蒲田はやはり大人の街だ。
取材・文・撮影=塙 広明