住宅地でぽっと明かりが灯る、小さな空間
東急バス「馬込銀座」バス停で下車。日も沈みきった夕方、ジャーマン通りの路地を折れ、人通りの少ない住宅地に入ると静けさが身に染みた。そんな中、ぽっと明かりが灯(とも)る小さな空間が。マンションの1階で営む『COFFEE ワルツ』は、手回し焙煎機で少量ずつ豆を焼くテイクアウトのコーヒー店だ。
——どういうきっかけでここにお店を開くことになったんですか?
秋山 生まれも育ちも大森なんです。この辺りは昔、馬込銀座と呼ばれる商店街で「山王ロマンチック通り」なんて名乗っていた時期もあるんですよ。今ではだいぶお店が少なくなりましたけど。
——外からだとここだけほの明るく見えました。中に入るとホッとしますね。
秋山 開店当初はテイクアウトのみだったんですが、年配の方はひと息つける場所がほしかったみたいで。腰掛けられる角椅子を用意したら、いつも来てくれるおじいちゃんが座っておしゃべりしてくれるようになりました。あと、元々はここに駄菓子屋があったそうです。
——きっと、子供がたむろしたはず。お店が変わっても、今も昔も人が集まる場所になるなんて磁場がいいんですね。
常連客 私なんか、週2、3回は来ています。秋山さんが聞き上手なんで、みんなの拠り所なんですよ。
秋山 話を割って入るのが苦手なだけなんですけどね(笑)。
——インスタで見ましたが、他店でポップアップをすることも多いんですか?
秋山 今年(2026年)でオープンして6年になるんですが、だんだんそういう縁ができてきました。なかでもジャーマン通りの『デイリーダイニング・バラック』は、オーナーの方がよくうちに来てくれて。それで「コラボ営業しよう」って話になって「出張ワルツ」につながりました。
——先日、矢口渡の『KNOT』(眼鏡と生花を扱う店)にも行きましたが、会話にこちらのお店の名前が出ました。
秋山 『KNOT』さんには2025年の春に2回、イベントに呼んでもらいました。元々は僕がお客として眼鏡を作ってもらったのが始まり。今かけている、この眼鏡がそれです。レンズを調整するのに、どんな時に眼鏡が必要か、普段どんな仕事をしてるのか聞かれて「焙煎をするのに豆をより分けたりします」と答えたら、「実はイベントでコーヒーを淹(い)れてくれる人を探してる」って。『KNOT』さんとも、『デイリーダイニング・バラック』さんとも、一緒にごはんを食べに行く仲です。イベント当日は和やかで、いい雰囲気でした。
——『COFFEE ワルツ』ならではの「街のコーヒー屋さん」の雰囲気もそのまま持っていったんでしょうね。
秋山 そこは大事にしているかも。
——実店舗があるのに、そんなふうに身軽に行動できるのはなぜですか?
秋山 忙しくないからかな(笑)。うちはのんびりしたお店ですから。
——テンションが、日常と地続きなんですよね。だから居心地がいい。ネルドリップでじっくり抽出された深煎りのコーヒーも心身をじわじわほぐしてくれますし、明日の英気が養われます。
常連客 私は秋山さんとコーヒーの話をするのが何より楽しいです。
秋山 そうですか。僕もそれがお店をやる楽しみの一つになっています。
取材・文=信藤舞子 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2026年2月号より








