チャラン・ポ・ランタン
もも(唄・妹)と小春(アコーディオン・姉)による姉妹ユニット。バルカン音楽、シャンソンなどをベースにあらゆるジャンルの音楽を取り入れた無国籍のサウンドやサーカス風の独自の世界観が特徴。大道芸をはじめとした路上ライブから各種フェスまで多数出演するほか、映画やドラマ、舞台への楽曲提供など活動の範囲は多岐にわたる。
幼い頃に読んだ物語がわたしたちの音楽の軸
——アルバム『紆余曲折集』には、アコーディオンをベースにシャンソンやバルカン音楽など、さまざまな曲調が詰まっています。お2人は、どんな音楽を聴いて育ったのでしょうか。
もも 小春が7歳、私が2歳のときに家族で観に行った「シルク・ドゥ・ソレイユ」のサーカスが、音楽人生の始まりです。きらびやかな衣装や、ダイナミックなパフォーマンス、いろいろな国や人種が混ざった音楽といった、サーカスの世界観から影響を受けました。『アレグリア』という作品だったんですけど、音楽が生演奏で、客席を練り歩くアコーディオン弾きがいたんですね。通路側に座ってた小春が興味をもって、そこからアコーディオンが入っている音楽をいろいろ聴くようになって。
小春 バルカン音楽もアコーディオンが入っていることが多いから、中学生くらいから聴いてました。
——アコーディオンと唄で、誰にも真似できない世界観をつくり上げていて、しかもどの曲も似ていない。アコーディオンという楽器の特性ならではでしょうか?
もも 曲の特長として、小春のアコーディオン節みたいなのはあるかもしれないですね。ギターとかピアノとか、みなさんの身近にある楽器をサウンドとして入れてこなかったので、そこが独特な曲調と、とらえられるのかもしれないです。
小春 私がアコーディオンで曲をつくり、ユニットを始めたので、当たり前すぎて自分では独特かどうか分からないんです。私たちの普通と、一般的な普通がすれ違っていることが結構ある。楽器の特性でいうと、アコーディオンは息つぎがなくても大丈夫なので、私がつくった曲は歌うのがたいへんで、息が苦しいっていうのはよく言われますね。
もも サウンド的に、ちょっとしたスパイスや効果として、アコーディオンの音を盛り込むことはよくあると思うんですけど、私たちの曲は軸になってる。よく驚かれるんですけど、小春自身は、ピアノや他の楽器は弾けないんですよ。
小春 私たちほんと不まじめなので、コード進行とか、ジャンルをかみ砕いてとかじゃなくて、こんな曲つくってみるか~って感じで。いろいろなジャンルをかじった結果、『紆余曲折集』みたいなアルバムができあがるんです。
もも 何カ月もかけて仕上げるなんてことはやったことないと思う。瞬発力でつくってる。前もって準備しても何も生まれないんじゃないかな。
——歌詞の内容が具体的ですよね。歯痛の歌とか、輸入手続きの歌とか。
小春 私たち、絵描きの夫婦から生まれたんですけど、絵本や物語の本が家にたくさんあったんです。たとえばイソップ物語って、短い話がたくさん載ってるじゃないですか。話のなかで突然“おじいさんは殺されました”とか“娘は死にました”ってストレートに書かれていて、人物の心情には触れずに淡々と物語が突き進んでいくのが、すごく好きだったんですね。歌詞では、歯痛とか、私のことを書いてることが多いんですけど、私自身が歌うと、自分の話だから余計な感情が乗っちゃう。ナルシストみたいな気持ち悪い感じになる。だから、ももがフィルターを通して歌うことで、世に出せてるんじゃないかと思うんです。
もも 小春ちゃんの恋愛の曲とか、まったく共感できないです。何言ってるのかよく分かんないで歌ってる。
小春 私が書き手ではあるけれども、どこか他人事になってることもあるし、よく分かってない人が「そうらしいよ?」って歌うことで、みんなにライトに伝わるんじゃないかと。本当のホラーにならないというか。だから、これまで聴いてきた音楽というよりは、小さい頃に読んだ物語の本が、自分たちの音楽の軸になってます。曲の構成を考えているときは、本をつくるような感覚なんだろうなと思うんですよね。
もも 聴いてきた音楽も、線でつながってるわけじゃなくて、そのときどきに聴いた曲を、時代も歌い手も知らずに「なんかいい!」って吸収してきたものなんです。しかも、いちばん近くの人が書いた歌詞の意味も分からないで歌っちゃってて、良いのか悪いのか……。でも、気持ちが一緒じゃないと良いものがつくれないと感じたことは一度もないです。分かんないことは当たり前だから、分かろうとしない。そういうユニットです。
アコーディオンひとつ携えて、大道芸で生きていく
——お2人は屋内のステージだけでなく、大道芸フェスティバルなど屋外で演奏することも多いですよね。
小春 中学生の頃から大道芸人になりたくて、17歳のときに東京都公認の大道芸ライセンスを取得しました。サーカスの影響で7歳からアコーディオンを弾き始めて、将来、アコーディオンで生活することを考えなきゃと思ったんです。実家を出なきゃいけないだろうし、会社員は無理そうだし、他人とうまくやっていく未来も見えなくて。お客さんから直接お金をもらえる大道芸人しかない、と。
もも 人とかかわるのが嫌なのに外に出るっていうのが、すごいよね。
小春 なるべくたくさんお金をもらうことだけを考えて、道端で弾くようになって。でも、曲と曲の間にしゃべらないとお客さんがいなくなることが分かってMCをやるようになりました。自分が明るい性格じゃなくても、気さくにやっていかないとお金がもらえない。本当にただお金が欲しかっただけで、自分の音楽を多くの人に届けたいとは思っていなかったんです。でもふと気づくと、フランスのシャンソンとか有名な曲は聴いてくれるけど、オリジナル曲はぜんぜん聴かれないことに気づいて、欲が出てきたんです。
——ももさんは、小春さんに誘われて歌うようになったんですよね。
もも はい。誘われて大道芸も一緒にやるようになるんですけど、360度お客さんがいて、全部見られてるのかって最初はびっくりしました。自分よがりな感じでやっていたら聴いてもらえない。でも何かしら工夫をすればするほど、人は立ち止まってくれる。お客さんが先払いでチケットを持っているライブと、大道芸では、全然つくり方が違うんです。大道芸は最初のつかみが大切で、そのときどきで全体の空気を読みながらやっていくので。
小春 セットリストもないです。
肌で感じる街ごとの空気。夢は自走で全国行脚?
——街の個性を感じることはありますか。
もも・小春 あります!
小春 下北沢は半年に1回、『下北線路街 空き地』でやってるんですが、どこからともなく子供たちが湧いて出てくる。定期的にやってると、地域の恒例イベントとして浸透してきているのが伝わってきます。高円寺は、めちゃ音楽が好きな酔っぱらいが多いです。
もも 『空き地』の場合はステージがありますけど、「三茶de大道芸」みたいにホコテンになった道でパフォーマンスするのは、お邪魔させてもらってますっていう感じで、街に敬意をもってやりたいと思ってます。みんながみんな音楽が好きなわけでもないけど、ちょっと楽しそうかもって思ってもらえたらうれしい。
小春 もともと道端で弾くことから始まってて、見ず知らずの人がどうやったら聴いてくれるか、を考え続けてきたので、私たちは大道芸で音楽性が育ったんだろうなと思います。
——大道芸も、ライブも、どちらも続けていく予定ですか。
もも 大道芸は、下積みみたいなイメージがあると思うんですけど、私たちはまったく別のステージとしてとらえているんです。
小春 正直なところ、道端で弾くほうがたいへんですよ。良くも悪くも誰でも入って来られるので、スリリングですよね。自分たちのライブを見に来てくれる人たちの前で演奏するほうが、安心感があります。
もも 途中で帰っちゃう人もいるし、反省もあります。でも大道芸と室内のステージ、それぞれでやっていきたい。個人的な夢というか目標は、トラックの免許を取ってステージトラックをレンタルして、全国を回ることです。大道芸は、地域の人たちとのつながりがないとできないので、各地に『空き地』みたいな空間があるといいなと思ってます。
取材・文=屋敷直子 撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2025年10月号より





