かつては参詣者でにぎわった熊野通りを行けば、鎌倉時代創建の古社に辿り着く
北本通り(国道122号)志茂二丁目交差点から熊野通りを行けば、志茂熊野神社に突き当たる。住宅地を抜ける狭い道だが、何箇所にもわたって路面に大きく「熊野通り」と書かれていることを見ると、かつては参詣の道として利用されていたのだろうと想像される。
志茂熊野神社は、鎌倉時代末期の正和2年(1313)、下村(現在の志茂)の西蓮寺の住僧であった淳慶阿闇梨(じゅんけいあじゃり)が、熊野三社権現の分霊を勧請して創建したと伝えられている。以来、下村の鎮守として信仰を集めてきた。
100mほどの参道は真っ直ぐに本殿へと誘う。本殿の右には阿夫利神社、浅間神社、大六天神社、十二社神社の4社を祀る末社が立つ。これら4社は氏子たちによって組織された「講」による信仰が行われてきた。なかでも阿夫利神社を参詣する大山参りは、現在も毎年、熊野神社総代が春に参拝を続けている。
北区無形文化財の白酒祭は、五穀豊穣を祈って鬼を射る
参道に立つ梛(なぎ)の木は、熊野神社の神木。源頼朝と北条政子の恋の舞台となった伊豆山神社から分けてもらい、氏子が育成したもの。葉が落ちると茶色に変わるが、葉の筋が強く、手で切っても切れないことから縁結びのお守りとして珍重されている。落ち葉を財布の中に入れておくとお札と縁(円)が切れないというから、試してみるといい。
毎年2月7日には白酒祭が開催される。地域の五穀豊穣を祈る儀式で、約600年の歴史をもつ。悪霊退散を願って、2畳ごどの大きな白い紙に「鬼」の文字を書いた的を弓矢で射抜く御歩射(おびしゃ)が披露される。神楽殿では、古くからこの地に伝わる白酒作りの作業唄『白酒の唄』や『白酒節』が披露され、邪気を払うという甘酒や切餅が振る舞われる。
志茂熊野神社 詳細
取材・文・撮影=塙広明