古着は高円寺より下北沢の方が趣味に合う

下北沢といえば、闇市がルーツの市場と開かずの踏切が懐かしい。どちらも再開発で姿を消したが、街は新陳代謝を繰り返すもの。致し方ない。

しかし、ふと思った。ならば、そこに集まる若者たちの様子も変化しているのだろうか。というわけで、駅周辺を歩く“令和のシモキタ新人類”たちにインタビューを敢行。YOUは何しにシモキタへ?

「Kanariaの『酔いどれ知らず』を弾きました!」。
「Kanariaの『酔いどれ知らず』を弾きました!」。

中川奏さん(21歳・大学生)
「家は藤沢、大学が渋谷。気が向いた時に途中下車して、この「まちピアノ」を弾きに来ます。下北沢は古着のイメージ。自分は着ませんけど」

生まれ変わった街で目を引くものの一つが、駅前に設置されたストリートピアノ。さまざまなメロディが街の風景に彩りを添えている。取材当日に弾いていたのは3歳からピアノを習っているという男性。「演奏よかったよ」と隣の『猿田彦珈琲』で買った温かいコーヒーを差し入れてくれた人もいるとのこと。

「下北沢はやっぱり古着のイメージ。僕はユナイテッドアローズとかで買ってますけど」

「オススメは裏通りにある古着屋さん!」。
「オススメは裏通りにある古着屋さん!」。

まなとさん(20歳・大学生)
「町田在住。自分で洋服をリメイクするので、下北沢はその素材を買い集める街。人混みでデニムの裾を踏まれまくるのが悩みですね」

次に声をかけたのは、個性が爆発したファッションに身を包む男性。すべて古着だが、デニムは自分でリメイクしたものだそうだ。

「高円寺にも古着屋は多いんですけど、下北沢のお店の方が自分の趣味に合っています。おじいちゃん、おばあちゃんとも一緒に住んでいるので、再開発前の街の話はよく聞きますね」

ディズニーシー、ピューロランドのついでに下北沢

「2泊3日の東京旅行で下北沢に!」。
「2泊3日の東京旅行で下北沢に!」。

みーちゃん(右:19歳・ 専門学校生)
「家は大阪で、ねーちゃんは小学校からの同級生。古着屋をのぞいたり街をウロウロしたけど、大阪のアメ村より全然きれいですね」

ねーちゃん(左:20歳・フリーター)
「私も大阪住み。服はネットで買うことが多いです。あと『こびとづかん』のガチャガチャにハマってて、今日も原宿で回して来ました」

古着の街というイメージが全国的に広まっているようで、東京旅行のついでに下北沢に寄ってみたという女性2人組もいた。この日は帽子とお香をそれぞれ購入。なお、旅の目的は東京ディズニーシー、サンリオピューロランド、そして下北沢。街の磁力としてはなかなかのものだ。

「下北沢はザ·東京っていう感じ。ほら、スカイツリーも見えるし。あ、あれ違うんですか。代々木のドコモタワー?」

「大学の男女混合バレーボールサークルが楽しい!」。
「大学の男女混合バレーボールサークルが楽しい!」。

S.K.さん(18歳·・大学生)
「川越在住。下北は初めてで、これから姉とごはんです。セーターはZOZOTOWNで購入。グラデーションの色味が気に入っています」

お次はカレーが食べたいという姉のリクエストに応じて初めて下北沢に来た青年。しかし、彼はカレー以外のものを食べたいそう。

「さっき検索したら『プロパガンダ』というカフェがおいしそう。僕自身も料理を作ります。得意なのはペペロンチーノです」

再開発で開かれた街に進化した?

「小田急線で1本なのでよく来ます!」。
「小田急線で1本なのでよく来ます!」。

さくらさん(24歳・アパレル)
「狛江在住。下北沢は古着とおいしいごはん屋さんのイメージ。今日は友達と飲むために来ました。今日の靴はセカスト。安いんですよ」

アパレル系の仕事をしている女性も個性的なファッション。白のロンTは原宿にある海外のファストファッションの店で買ったが、下北沢の古着も好きだという。

「服は海外のファストファッションをよく買っていますが、下北沢の古着屋さんも好き。お酒が大好きなので楽しい街だと思います。最近のお気に入りは芋焼酎の赤兎馬(せきとば)をソーダで割ったやつです」

「声をかけると2割ぐらいの人が来てくれます!」。
「声をかけると2割ぐらいの人が来てくれます!」。

しゅうごさん(26歳・お笑い芸人)
「『アホガード』というコンビで芸人やってます。家はよみうりランド駅から徒歩3分。これから無料ライブに出るので通る方々を勧誘中です」

最後に話を聞いたのは、駅前でひときわ目立つアフロヘアの男性。グレープカンパニーという事務所に所属するお笑い芸人だった。

「ピーコック4階にある『THRASH』で定期的にライブをやってます。通りがかりの人に声をかけると結構来てくれるんですよ」

よく見ると、あちこちでお笑いライブ宣伝中の人たちが。この光景は以前にはなかった気がする。音楽、古着、演劇などに加えてお笑いもシモキタの若者カルチャーとして定着してきたのだろうか。

 

結論から言うと皆さん、何かしらの目的を持って割と遠くから来ていた。雑多な雰囲気が薄まったせいか、昔と比べてクセが強い人は減っているように感じる。しかし、その分、開かれた街に進化したと言えるのかもしれない。シモキタ新人類は、一見大人しそうに見える人でも自分の趣味や嗜好を熱く追い求めている印象だった。

取材・文=石原たきび 撮影=山出高士
『散歩の達人』2025年1月号より

下北沢『BASEMENTBAR(ベースメントバー)』はインディーズの注目バンドから海外ミュージシャンまで、さまざまな音が鳴り響く場所だ。このハコは感度の高い音楽を届け続け、下北沢だけでなく、東京、全国、そして世界から注目される。今回は、店長のクックヨシザワさんに思う存分、語っていただこう。
プレイヤー、リスナー、あらゆる音楽フォロワー憧れの的である下北沢『SHELTER(シェルター)』。全国的にも知名度が高く、小沢健二の楽曲の歌詞にも登場する。足を運んだことがない人も、その店名は耳にしたことがあるかもしれない。今回はこの歴史あるライブハウスの店長、義村智秋さんにお話をうかがい、店の重ねてきた30年以上の歴史を追体験し、今のライブハウスのスタンスについても考えていく。 ※TOP画像提供:『SHELTER』 ankライブ風景撮影:Akira“TERU”Sugihara
松重豊氏が監督・脚本を務める『劇映画 孤独のグルメ』。その主題歌を担ったのは、40年来の友人である甲本ヒロト氏だ。二人が出会った下北沢『珉亭(みんてい)』にて、出会いからタッグに至るまでを語っていただいた。