Blackbird (『The Beatles(White Album)』1968年)
アコギ1本で弾き語る名曲で歩き出そう
リズムを取るポール・マッカートニーの靴音が心地よい。曲中で歌われるのは「dead of night」に囀る鳥なのでイメージとしては真夜中なのだろうが、「Blackbird」は逆境の中で生きる黒人女性の隠喩であり、彼女たちに「fly Into the light」と語りかける内容を考えると、むしろ夜明けが似合う。
Here Comes The Sun (『Abbey Road』1969年)
太陽が昇り、光が差す、暖かな“夜明け”の曲
ジョージ・ハリスンの名曲。本プレイリストの作成時点で、Spotifyではビートルズの「人気曲」として一番上にこの曲が挙がっていた。確かに傑作ではあるが、ジョンとポールの曲を差し置いて一番手とは……ジョージ、なかなかやるなあ。
近年のジョージ再評価については、『東京ビートルズ地図』の対談で永沼忠明氏とカンケ氏が触れている。
I’ll Follow The Sun (『Beatles For Sale』1964年)
ドラム代わりに膝を叩く音がアクセント
「Here Comes The Sun」で陽が昇ったら、そのSunを追いかけよう……という安直な曲順だが、これも散歩にうってつけ。ポールがデビュー前の10代の頃に書き上げていた曲で、比較的初期(1964年)の発表だが、中~後期の曲が多いこのプレイリストにもなじむ落ち着きがある。
Norwegian Wood (This Bird Has Flown) (『Rubber Soul』1965年)
シタールの気だるい音色と6/8拍子の絶妙なマッチ
歌詞にも登場する「Norwegian Wood」の正しい訳は「ノルウェー製の家具」だという説もあるのだが、「ノルウェーの森」という邦題で“木漏れ日が揺れる森の朝”をイメージしている日本人が多いはずだ。かくいう筆者もその一人で、公園に差し掛かったころに聴きたくなるジョンの曲。
When I'm Sixty Four (『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』1967年)
64歳になっても一緒に散歩してくれる?
この曲も「I’ll Follow The Sun」同様、ポールがデビュー前に書いた曲で、リヴァプールのキャバーンクラブでも演奏したことがあったという。「64歳になっても僕を愛してくれる?」という歌詞の中で思い描く将来の穏やかな日常が、“休日の朝”によく似合う。
Martha My Dear (『The Beatles(White Album)』1968年)
散歩中にスキップしたくなる
軽快なピアノが続くかと思えばブラスとストリングスが乗っかってきたり、体になじむイントロも実は変拍子だったりと、親しみやすさの中に変化球もあるあたりはポールお得意の曲といえるかもしれない。「Martha」は当時のポールが飼っていた牧羊犬の名前で、犬好きならたまらなく愛おしく感じられる歌詞も魅力だ。
Penny Lane (『Magical Mystery Tour』1967年)
ぼちぼち人が動き出した商店街を歩くときは
「Penny Lane」というのはリバプールにある通りの名前で、街とそこで暮らす人々の様子がテンポよく綴られたポールの曲。軽快なトランペットは活気ある街の頭上に広がる青空のようで気持ちがいい。ちなみに、吉祥寺には「ペニーレーン商店街」なるものもある。
Strawberry Fields Forever (『Magical Mystery Tour』1967年)
“サイケデリック期における最高傑作”と名高いジョンの名曲
美しいけれどどこか物憂げなメロディ、そして少々ニヒルで難解な歌詞が、まだ眠りを貪る朝の街によく似合う。ちょっぴり不気味なアウトロで、まだ薄暗い路地にうっかり足を踏み込んでしまったような気分になる。
All Together Now (『Yellow Submarine』1969年)
後半のテンポアップで駆け出したい
アニメ映画「Yellow Submarine」のサウンドトラックでもあるこの曲で、そろそろ歩調を早めよう。出だしの「One, two, three, four…」に合わせて階段を駆け上がるもよし、テンポアップする気の抜けた大合唱に合わせて大股でどんどん歩くもよし。コミカルな曲調からか小粒感があってないがしろにされがちな(気がする)曲だが、運動にはもってこいだ。
Revolution (1968年)
暴力革命を否定するメッセージソング
歩きだして20分過ぎ、体もぽかぽかしてきたら、ジョンのクレイジーなシャウトから始まるこの曲を。もとのテイクにあたる『The Beatles(ホワイト・アルバム)』収録の「Revolution 1」もあるが、結果的にシングルとして発売されたこのテンポアップバージョンが散歩には最適だろう。
For You Blue (『Let It Be』1970年)
ジョージが綴る、一癖あるラブソング
ブルースだけど割と能天気なラブソングで、ちょっぴり気だるい雰囲気もある、一筋縄ではいかないジョージの曲。その雰囲気に大きく貢献している不思議な高音はポールが弾くピアノで、弦とハンマーの間に紙を挟んで作った音だとか。静まり返ったガード下を歩くときなんかに似合いそうだ。
The Ballad Of John And Yoko (1969年)
肩の力の抜けた軽快なナンバー
「ジョンとヨーコのバラード」という邦題(感傷的なスローテンポの「バラード」ではなく、「バラッド(=物語詩)」の意味)の通り、ふたりの結婚とそれにまつわるできごとを綴った曲。当時はバンド崩壊寸前の時期だったが、この曲のレコーディングはスムーズに和気あいあいと進んだいう。そんな逸話も納得の、リラックスしているのに勢いがあるナンバーだ。
Old Brown Shoe (1969年)
踊るベースラインに身を委ねよう
「The Ballad Of John And Yoko」のシングルB面に収録されたジョージのナンバー。ポールのベースプレイは他人の曲になると俄然調子よく“歌う”のはファン周知の事実だが、この曲ではもはや踊り出す勢いだ。このベースラインに合わせて階段を駆け下りるのが気持ちよさそう。
Your Mother Should Know (『Magical Mystery Tour』1967年)
BPM=120、正真正銘”散歩向き”
哀愁漂う曲調と弾むようなピアノのバランスにポールらしさが表れている曲で、雨の日の散歩にも似合いそう。個人的な話だが、筆者の歩くリズムとばっちり一致するので散歩中のBGMとしてはとても心地いい。調べたところ、この曲のBPM(Beats Per Minute。1分間の拍数)は120で、ウォーキングに最適なテンポの目安なのだそうだ。
Two Of Us (『Let It Be』1970年)
あてもないおでかけの帰り道には
ラストアルバムとなった『Let It Be』の収録曲で、オープニングナンバーではあるものの「帰り道」「旅の終わり」の曲。「行く先にのびる道よりもずっと長い思い出が、僕たちふたりにはあるじゃないか」というポールの歌詞は、すっかりバンドから心が離れていたジョンに向けた言葉だという説もある、ちょっぴり哀しい曲だ。「We’re on our way home」のフレーズを口ずさみながら、家に帰ろう。
「晴れた日は『Good Day Sunshine』だろ!」「朝の散歩でしょ?『Good Morning Good Morning』はどうした!」などなどお叱りの声が聞こえてきそうだが、この15曲に絞るために30曲以上の候補を断腸の思いでボツにした筆者の思いもお察しいただけると嬉しい。また、“朝さんぽ”のイメージゆえ、中~後期のポールの曲に偏りがちな点もどうかご容赦を。
音楽に夢中になるあまり周囲の音を遮断して歩くのは大変危険なので、ほどよい音量で(できればインナーイヤー型イヤホンで)楽しみましょう。
文=中村こより(編集部)