「これって代官山アドレスの裏?なんかモニュメントとかある方が入り口じゃないの?」
「こっちの方が駅から近いし先に見ていこう」
「そうね。あら。なんかの碑がある」
「ここさ、旧同潤会アパートの建て替えと再開発で建てられたんだよ。半数近く再開発前からの居住者が入ったんだとか」
「旧同潤会って、なんか名前いかついけどどんな会なの?」
「震災被害の救済機関として内務省によって設立された財団法人で、災害復興住宅を建設しているんだ。代官山以外にもあるんだよ」
代官山アドレスの「市街地再開発事業」
36階建ての超高層マンションを中心とした複合施設である「代官山アドレス」は、2000年に突如現れた。と言いたいところだけどもちろんそんなことはない。それどころか、かなりの苦難の末に竣工にこぎつけたらしい。
600名を超える権利者とデベロッパー、行政のまさに手に汗握る展開のすえ再開発を行ったらしく、調べれば調べるほど、いやーギリギリの「薄氷の勝利」=再開発の実施であったようだ。
この一連を書いた本の帯には「マンションを買う人、デベロッパー、行政マン必読の書」とあって、まさにそのとおりですわ。
とはいえ、「再開発物語」というとなんかほんわかしていい感じですけど、でもその正体は「市街地再開発事業」です。「市街地再開発事業」とはなにかというと、以下。
都市再開発法(第2条)抜粋
市街地再開発事業とは、市街地の土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図るため、都市計画法及びこの法律で定めるところに従って行われる建築物及び建築敷地の整備並びに公共施設の整備に関する事業並びにこれに附帯する事業をいう。
キーワードは「市街地の土地の合理的かつ健全な高度利用」と「都市機能の更新」だから、まぁかんたんいうと、いわゆる「スックラップ&ビルド」です。つまり「いったん更地にして(更新)そこに高層ビルを建築(高度利用)しましょう」という工事です。
「権利変換」という手法
どんなところで施行されるかというと、大都会のにぎやかなエリアにある「戦後復興期に近い状態にある老朽化したエリア」や、あとは「大規模な工場などが移転した跡地を含めた一帯」などが、もったいない、ということで対象となりやすい。
そんでね、「市街地再開発事業」の“手法”なんだけど「権利変換」というものです。かんたんにいうと、もともとの住民のみなさんが各自所有している小規模な土地を集めて「大きな土地」にして、そこに新しく高層ビルを大手デベロッパーに建築してもらって、そしてそこに「戻り入居」するというもの。
このプロジェクト(要は建て替え)に参加する大手デベロッパー(実際に高層ビルを建築する大企業)は、新しく建てた高層ビルの部屋を販売用(保留床といいます)として入手し、それを売却して利益を出す。
もともとの住民のみなさんは、相場よりかなり安い価格で専有部分(部屋ですね)を入手して、そこに戻り入居できるのです。
なので、大企業が所有していた“工場などの跡地”を含めた一帯での「市街地再開発事業」だったら権利者も少なくて楽チンなんだろうけど、ここ代官山は「そもそも大勢の人が住んでいた」という同潤会アパート(何棟も建っていた団地)での市街地再開発事業だもんね。
そのため、先ほども出た「権利者600名余。同潤会アパートの20年にわたるドラマチックな再開発物語」となるわけです。
いま東京では、高度経済成長期に作られた “老朽化したエリア”での市街地再開発事業が目白押し。いずれやってくる首都直下地震に対する備えというのも背景にあるんだけどね。
みなさんも散歩の途中、大規模な建築工事現場があったら、もしかしたら「市街地再開発事業」が施行されているのかも。工事現場のフェンスに「市街地再開発事業」の説明が掲示されてたら読んでみてね。
分譲マンションの課題。「区分所有法」と「マンション建替え円滑化法」
「代官山アドレス」見て宅建知識に思いをはせていたらおなかすいちゃった。
周囲を適当に進みます。
そうそう、都市再開発法の「市街地再開発事業」というプロジェクトではないけれど、似たようなゴタゴタが起こりえる話として「老朽化した分譲マンションの建て替え」というのがあります。
こちらは「区分所有法」と「マンション建替え円滑化法」によるものなんだけど、お察しのとおり、この手法による分譲マンションの建て替えはほとんど行われていないんだよね。
人も土地も“広大な範囲”を対象としている「市街地再開発事業」と比べれば、単なる一棟の「分譲マンションの建て替え」だから権利者も60とかなんだろうけど話はまとまらない。
ザンネンながら事実上、分譲マンションの建て替えはできない(区分所有法とマンション建替え円滑化法に基づく建て替え事例はほとんどない)わけです。だから、これからさらに進む「2つの老い(住民の老いと物件の老い)」の対策として、行政はなにをどう打ち出していくのか、はたまた新しく立法してそれに対応していくのか、乞うご期待という感じですね。
個人的には区分所有権(分譲マンションというしくみ自体)の廃止がいいと思っているけどね~。
大通りに出たら「代官山ヒルサイドテラス」。
「え、ヒルサイドテラスの中に塚があるんだけど!」
「都会の中にある静けさ、なんか良いね」
「ほんとに。心洗われるというか、パワーもらえるよね」
「古墳登ったらおなかすいちゃった」
そうだ、代官山アドレスを出たときすでに腹減ってたからそろそろ限界か。
「あ、あれ代官山の蔦屋だよね?」
旧山手通りがステキな理由
散歩の達人『東京散歩地図』にも代官山は「オトナ女子に人気のおしゃれタウン!」とあります。つまり魅力があるということで、「代官山アドレス」を中心としたにぎわいもあるし、ちょっと足を延ばしたこちら、旧山手通り界隈も魅力の源泉になっていることはまちがいない。
なにがどう魅力的なのか。
宅建ワンポイント的に検討してみますと。
「この旧山手通りは都市計画法の『地区計画』というものが指定されていて、その地区計画に基づいての『まちづくり』が行われているから」……というのも一つの答えになるかと。
ではどんな都市計画なのか、少しご紹介します。
地区計画の名称「旧山手通り地区 地区計画」
【地区計画の目標】
旧山手通りは、渋谷区都市計画マスタープランにおいて、渋谷区の中でも良好な景観をもつ道路の一つとして、今後とも現在の良好な沿道景観を維持していくことが掲げられている。
このことから、旧山手通り沿道において、緑と街が調和し、さらに広い空が見える開放的で魅力的な街並み景観を形成するとともに、個性的で落ち着きのある市街地環境の維持、増進を図ることを目標とする。
【土地利用の方針】
旧山手通り沿道にふさわしくない土地利用を規制し、住宅と商業、業務、教育、文化等が調和した適正な土地利用を図る。
では以下、具体的な「基準」です。抜粋してみます。
▶建築が禁止されるものとして、具体的には、風俗営業関連のお店、カラオケボックスその他これに類するもの、倉庫業を営む倉庫となっている。
▶建築物の高さの最高限度は20mとされている。
▶「建築物の色彩は、落ち着きのある、緑と調和した色彩とするとともに、 形態、意匠は周辺の街並みと調和したものとする」や「屋外広告物等の色彩、形態、意匠は、周辺の街並に配慮したものとする」。
▶道路部分に面して垣又はさくを設ける場合、その面する部分は生け垣又は透視可能なフェンスとし、緑化に努めるものとされている。
とまぁこんな感じで、いろいろな基準があって、それに沿って街づくりが行われているわけです。
宅建知識があると見慣れた街が、いつもの風景が、また一味ちがって見えてくるかもしれません。そんな「散歩の味変」もお楽しみいただけたらと。
2人の未来は……!?
そうこうしているうちに夕方になった。
お腹すいたといいつつ、「代官山の魅力って、新旧のバランスがいいからかもね」とエルボーはいう。
「あとさ、コンパクトシティっていうんだっけ?」
「あ、まぁまぁ最新の都市計画の手法だよね」
高度経済成長期以来、人口増を前提に都市を拡大させていこうというのが従来の都市計画のコンセプトだったけど、それの逆回しで、最新のトレンドは、身近にいろいろ揃っている人にやさしい街作りという考え方だ。時代とともに考え方は変わり、スクラップ&ビルドで新たな街へ生まれ変わっていくのだろう。
「わたし、色々な街を歩いてみたけど、新しい時代もそんな感じがいいと思うのね」
「そうだね」
「世界の都市には、そんな街はたくさんあるんでしょ?」
遠目に見える「代官山アドレス」に夕日が降り注ぐ。
きれいだな。
エルボーはあらためてオレを見た。
「ね、いっしょに行ってみない?」
「え? 海外に?」
「海外もそうだけど」
まったくもう、といいながらエルボーはオレを見る。
「最後の最後まで、はっきり言わないから、わたしから言っちゃったじゃない」
え、え、えーーーー!!!
エルボーは、とりあえずご飯を食べに行こうと、オレを誘う。まいったな、と思いつつ、そんじゃ「代官山アドレス」に見習って、オレたちの関係もいったんここで、スクラップ&ビルドっていうことか。
置いてくわよ、とエルボーは軽く走り出す。
よし行こう。
エルボーといっしょに、次の街に。
ということで突然ですが(笑)
今回をもちまして、「宅建デートは突然に!」は最終回でございます。
いままでおつきあいくださいました読者のみなさん、ありがとうございました。
この場を借りまして御礼を申し上げます。
でね、もしもですよ、「宅建試験を受験したい」なんてことになりましたら、どうぞ「宅建ダイナマイト合格スクール」にご一報ください。
また、不動産取引につきましては「RE/MAX Dynamite(ダイナマイトアマゾネス)までご用命ください。
これからも我々は我々らしくやっていきたいと思っています。
引き続きまして、今後ともお付き合いのほど、どうぞよろしくお願いいたします。
取材・文・撮影=宅建ダイナマイト執筆人