料理店などで提供されるサザエのおでん

サザエの旬は採れる地域によって変わるが、春から初夏。3月から8月くらいまでが産卵時期となり、栄養をたっぷり体に溜め込んでいるという。

北海道南部から九州まで生息しており、漁獲量は長崎県、山口県、三重県の順で多い。潮の流れによって角(棘)の長さが変わり、たとえば関東のものは長く、瀬戸内海のものは短いという。

代表的な調理法はなんといっても壷焼きだろう。殻の中に溜まった熱々の出汁と香ばしい醤油の味わいは、サザエの魅力を十分に堪能することができる。また、刺し身にするとこりこりとした食感を楽しめる。

『蒲吉商店』(板橋区大谷口北町)のサザエ串。
『蒲吉商店』(板橋区大谷口北町)のサザエ串。

おでんの貝類といえばつぶ貝やバイ貝のほうがメジャーだが、魚介類をメインに扱う料理店で提供される場合がある。東京のおでん種専門店でも扱っている場合があり、板橋区大谷口北町の『蒲吉商店』では殻から出した身の部分を串刺しにして販売されている。

茹でて煮るだけ、簡単でおいしいサザエのおでん

ここからはおでんのサザエの調理法を紹介していこう。身だけの冷凍物を用いてもいいが、ここでは殻付きのものを使用する。

サザエを量販店などで購入する場合は砂抜きは不要だ。採った直後のものを購入した場合は、網袋に入れて海に2、3日ほど吊るしておくと砂抜きできる。

サザエを購入したら、殻についている汚れを落とす。ボウルに水を張ってタワシでごしごし洗おう。殻を直接触ると怪我をするので、軍手をはめると安心だ。

ボウルの水の汚れがある程度までなくなったら、キッチンペーパーで水気を取る。次に鍋にサザエを入れて水を注ぎ、火にかける。最初は中火にして、沸騰したら弱火にして5分から10分ほど茹でる。これで下ごしらえは完了だ。

あとはおでん汁で煮るだけだが、食べやすくしたい場合は身を切っておこう。殻の先端を上にして本体と蓋の上側の隙間に串を刺し、反時計回りにぐるりと殻を回して中身を取り出す。串では難しい場合はスプーンやフィッシュナイフを使うといい。

左上:蓋、右上:貝柱と内臓、左下:身(足)とヒモ(外套膜)、右下:生殖腺。
左上:蓋、右上:貝柱と内臓、左下:身(足)とヒモ(外套膜)、右下:生殖腺。

身(足)と蓋の間に包丁を入れて切り離し、さらに身と貝柱、肝を切り離す。基本的にサザエは固い部分以外は食べられるが、苦味が苦手な場合は取り除くといいだろう。

身には固いくちばしが隠れているので取り除く。赤い色をしているので見分けやすい。貝柱に付いているのはヒモといわれるひらひらとした外套膜だ。これは苦いので取り除く。

肝は上部の内臓と下部の生殖腺に分けられる。内臓は苦味や食感が気になる方は避けたほうがいいだろう。ちなみに内臓部分には砂袋が付いている。生殖腺は雄がクリーム色、雌は緑色となっており、苦味が少ない。好みに合わせて切り分けて味わうといい。

内臓を切り離した場合、細かく刻んで醤油と合わせれば肝醤油になる。サザエにつけてもいいし、生野菜につけて食べてもおいしいだろう。

食べやすい大きさに切り分けたら蓋を裏返して殻に詰め、その上に可食部を盛り付ける。おでん汁を沸かしたらサザエを入れ、弱火で10分ほど煮る。蓋が付いたものならそのまま煮るだけでいい。また、身や貝柱の部分だけ串に刺してもいいだろう。好みに合わせて楽しみながら調理したい。

より味を染み込ませたいなら火を止めて粗熱を取り、冷蔵庫で一晩寝かせよう。食べる直前に温め直してもいいし、冷やしおでんにしてもおいしい。

肝の苦味は磯の香りを楽しめ、身や貝柱は豊かな海の恵みを感じ取れる。旬の季節は手頃な値段で手に入るので、見かけたらぜひおでんにして楽しんでいただきたい。

取材・文・撮影=東京おでんだね