ライオンのたてがみをモチーフにした白髪ネギ入りラーメンが看板メニュー
店名の「らいおん」は、たてがみを模した白髪ネギをトッピングしたメニュー・らいおんラーメンに由来している。
5種類のスパイスと細かく刻んだチャーシュー、ごま油を絡めた白髪ネギは、一番人気の味玉らいおんらーめんのほか、辛いおんらーめん、つけ麺らいおんなど複数のメニューで味わえる。
そして多くのラーメンでそれぞれに醤油、味噌、塩の3つの味が用意されている。醤油ダレは2種類の醤油にみりんなどを加えたもの、味噌ダレは、3種類の味噌にピーナツバターなどをブレンドし、塩ダレは煮干し出汁を使って2日がかりで準備。
今回はいちばん人気だという味噌味の、味玉らいおんらーめんをいただこう。
最初にまろやかさ、次にピリッ。個性をまとめる味噌味
ライオンの立て髪をモチーフにした白髪ネギは、スパイスとごま油の風味、ネギの辛味とが相まって食欲が湧くだけでなく、ビールも欲しくなるような味わい。
半分にされた味玉が3切れものっていて、贅沢だ。
チャーシューは、群馬のブランド豚・上州せせらぎポークを使用。部位は肩バラ肉で、「赤身と脂身のバランスがすごくいいんですよ」とオーナーの佐々木領(ささきりょう)さん。
店で凧糸で巻くところから下ごしらえし、ベースのスープで煮込んだあと、醤油ダレに漬け込んでいる。厚切りにしたものが2枚のっていて、脂身のトロッと柔らかい部分と食べ応えもある赤身部分は確かにバランスがいい。
味噌味のスープは、パッと口に含んだ瞬間、甘みを感じるようなコクとまろやかさ。飲み込むときに、ピリッと辛さを感じるところも人気の秘密だろう。
ベースとなるスープは豚の背ガラと鶏ガラを7対3の割合で煮込むのだが、スープに臭みが出ないように背ガラの下処理もしっかりやるのが府中本店から受け継いだ“らいおん流”。
生の背ガラ、鶏ガラは一度しっかりとゆでてから水洗いをしてあくを落とす。この工程で余分な臭みが取り除かれる。次にもう一度水から長時間煮込む。仕上げに前日のスープを種スープとして注ぎ足すことで、旨味が重なり厚みあるスープが出来上がる。
麺は喉越しのいい平たい中太麺。スープはもちろん、特に白髪ネギのトッピングも、チャーシューもそれぞれに個性的。それなのに、まとまりと安心感のある一杯だ。
太っ腹! もうひとつの名物、餃子にまつわるサービス
『国分寺らいおん亭』は餃子も名物。
「店で肉だねを作って包んでいます。中粗挽きのひき肉とは別に肉汁を仕込んで混ぜ込んでいるのが特徴です」と佐々木さん。
卓上にある自家製の餃子用味噌ダレと酢にコショウを加えたもの、両方を使うのがお店のおすすめ。そのため、餃子のタレ用の小皿は2つに分かれたものを採用している。
餃子は底の部分が香ばしく、それ以外の皮はしっとり柔らか。皮の中から出てくる肉汁も口の中に感じて満足感が増す。メニューとして3個、6個、9個があるので、おなかの減り具合と相談してラーメンにプラスしたい。
お財布事情さえ気にならなければ何個でも食べたい味。そう伝えると「実は」と、食券を裏がえしてガシャっとスタンプを押して見せてくれた。そこには「餃子サービス券」の文字。
「ラーメン1杯を召し上がっていただいたら、餃子サービス券として差し上げています。次回以降来店時に3枚出してもらったら3個、5枚なら6個サービスです。だからサービスで食べる人が多いですね」
15年以上前から行われているこのサービス。期限もないというたいへん太っ腹なもの。「このお店が続く限り使えますよ」とのこと。大学の先輩が後輩に渡して、『国分寺らいおん亭』に食べに行くように促すこともあるそうだ。
引き継がれる店の文化
現オーナーの佐々木さんは2代目。国分寺近くの専門学校で音楽を学んでいた18歳の時、アルバイトとして『国分寺らいおん亭』で働き始めた。その後社員となり、そして2019年に先代からお店を引き継いだ。アルバイト先として選んだ動機は、一人暮らしの部屋と学校の間にあってが都合がよかったことと、賄いがついていたこと。それがもはや『国分寺らいおん亭』歴20年だ。
券売機の横にアンティークのコカコーラの自動販売機がある。古いもの好きの先代オーナーが設置したものだ。佐々木さんもアンティーク好きで今は機能こそしていないが、引き続き置かれている。
他にも代々引き継がれているのが学生アルバイト。チャーシューを凧糸で縛る仕込み、メンマの塩抜きなど、卸業者が驚くほど自家製にこだわるこの店の戦力となっているのが、近隣の大学に通う学生アルバイトたちだ。
なにが引き継がれるのかというと、アルバイトの学生が卒業間近になると、部活や学科の後輩を紹介するのが慣わしになっていること。「別に決まりではないから、紹介してくれなくても大丈夫だよと、いつも言うのですが……」と佐々木さんは言いながらもうれしそう。自身もアルバイトからスタートしたオーナーだから、スタッフを大切にしているのだろう。
20年以上という歴史を紡いできた店は、アルバイトを経験した人はもちろん、ラーメンを食べに訪れてきた近隣の常連客にとっても思い出が伴う大切な存在だ。
「赤ん坊のときに両親に連れられてきた人が、高校生になって彼女を連れてきて、さらに結婚しますとか、子供が生まれる予定ですとか話してくれます。この店がお客さんの人生の一部になっているのかと思うと、本当にありがたい」
やさしく安心できる味のラーメンを食べる時間は、提供する人と食べる人、どちらにとっても暮らしの1ページになっている。その歴史に参加してみてはいかがだろうか。
取材・撮影・文=野崎さおり