昭和のキャバレー文化が盛んな時代にパーカッショニストとしても活躍した土佐男さんは、極めて明るくラテン系な人物だった。土佐男さんの妹で2代目店主・マリさんの時代、当時客だった里香さんが店を継ぐ決意をしたのは、「この店が続くほうがいい」という、夫・英治さんの一言だった。英治さんは高校時代から店の常連で、高知を中心に活躍するプロのドラマーだ。
「この店は狭いけど1階がジャズ喫茶で、2階がライブハウスなんです。レコードの楽しさも存分に味わえ、月に数回は、全国を回るミュージシャンの演奏を聴きに地元のジャズファンが押しかけてくる。2階の床が抜けそうなほどすごい熱気で」と、店を継いで12年目に入る里香さん。
四万十市出身の里香さんは、高校時代にジャズ好きな友人から教えを受けただけの普通の女子だったそうだ。「今ではその友達は普通の主婦で、私がジャズ喫茶のママになってしまったの」とジャズに出会ってこその人生の不思議さをうれしそうに語っていた。
【店主が選ぶ一枚】Elvin Jones,Richard Davis “HEAVY SOUNDS”
木馬といえばエルヴィン日本人の新譜もよくかかる
ママの里香さんと夫の英治さんが「木馬はやっぱりコレでしょ!」と選んでくれた一枚。初代の土佐男さんが大好きだったエルヴィン・ジョーンズとリチャード・デイヴィスの大ヒットアルバム『ヘヴィ・サウンズ』(1968)だ。紫煙立ち籠めるジャケットもさることながら、このエルヴィンの芯ある冴えたドラミングに痺れないジャズファンはいない。大野えりやTReSなど、日本のいきのいいミュージシャンの新譜もよくかかる。
取材・文=常田カオル 撮影=谷川真紀子
散歩の達人POCKET『日本ジャズ地図』より