殺風景な店内でも行列ができる人気店
THE 昔ながらのラーメン屋という感じで、映えに一切媚びない内装。それでも、お昼には行列ができ、女性一人客もチラホラ来店するのは、味が確かである何よりの証拠だ。
最も人気のある特製らーめん塩味1300円は、チャーシュー、鶏つくね、味玉、海苔……と、いわゆる全部乗せしたメニュー。
豚バラを使用した1cmほど厚みのあるチャーシューは、口に入れると自然と溶けていき、噛まなくて良いほどトロットロだ。
その一方で鶏の香りが強いつくねは、大きめで食べごたえがあり、とてもおいしい。どこか水炊きのような雰囲気がある鶏白湯スープも、これまたつくねとよく合う。
これら全て手作りなのだ。
この塩味の鶏白湯スープは、パンチがありながらもさっぱりとしていて全く飽きない上、少し硬めの中太麺もツルッとしていて、スルスルと胃に入っていく。
まさに、店前の看板に書かれた「鶏だしのうまいらーめん」である。
まだお昼まえの時間ということもあり、「無理して食べなくて大丈夫ですからね!」と、店長の細川さんが気を遣ってくれたのだが、あっさりと完食してしまった。
今回は注文こそしなかったものの、くずれチャーシューめし200円は、口コミでも「200円のクオリティではない!」と驚かれる人気商品だという。次は絶対に食べたい。
ラーメンへのこだわりについて、「旨味は濃度と粘度が高いほど出るんです」と、店長の細川さんは話す。
これまで1000回以上、この圧力鍋を使ってスープを作ってきたが、食材の質や気圧によって微妙に味が変わるため、全く同じ味になることはないという。
微々たる違いであれば、どれを食べてもおいしいと感じてしまいそうだが、濃度と粘度にこだわり続けてきたからこそ、高評価レビューばかりの隠れた名店へと変化を遂げたのだろう。
2011年12月、戦友と一緒に開店
なぜ店名の“田”だけ漢字なのか質問すると、「定かではありませんが、とみ田や、つじ田など、ひらがな+漢字の田の法則に則ったと聞いています」と店長の細川さんは教えてくれた。
『らーめん なが田』という名前は、前オーナーとお店関係者の方の二人の名前から付けられたもの。開業当時は従業員だった細川さんの名前は、実は入っていない。
料理人であった父親の影響もあり、高校を卒業してすぐに料理の世界へ飛び込んだ細川さん。
これまで京都で和食の修業をしたり、東京に戻ってきた際は帝国ホテルで働いたりと、10以上のお店を転々とし、料理の腕を磨いた。
そのなかで出会ったのが当時、自身が働いている飲食店を経営していた前オーナーだったそう。
しかし、そのお店は10年ほどで閉店。「次はラーメン屋を一緒にやろう」と、前オーナーの誘いを受け、最初は従業員として『らーめん なが田』に携わっていたが、数年後に思わぬ形で1人となり、「お店を潰したくない!」と、細川さんがこのお店を継承した。
かつて人を雇ったこともあったというが、もうかれこれ数年以上1人で営業しており、早朝2時にお店に来ては仕込みを行うという生活を送っている。
一緒に『らーめん なが田』を立ち上げた前オーナーさんについて訊ねると、「そうですね……。一緒に働いていたお店は10年で倒産しちゃいましたしね」と答えた後、「でも、嫌いじゃなかったんですよ」と続ける。
「15年くらい一緒に働いた戦友ですから。流れを読む力があって。人を呼び寄せる力がある人でしたね。僕はそういうところに憧れていたのかもしれません」と懐かしそうに語ってくれた。
10年を優に超え、2024年12月には開業13年を迎える『らーめん なが田』。店名に自身の名前はない。それでも戦友と作り上げたこのラーメン屋は、細川さんによって今後も守り続けられていくことだろう。
取材・文・撮影=SUI