お座敷文化を楽しむ新感覚ライブハウス
主宰者の塩見ふみ枝さんは、赤坂芸者を引退してこの場を立ち上げた。「お座敷や芸者衆のことを知らなくていいんです。まずはライブハウスのように気軽に体験して遊んでほしい。いらしてみてください。絶対に楽しいから」と話す。
プレオープニングイベントに参加してみると、その言葉は噓ではなかった。なにより舞台が近い。三味線や太鼓の音が心地良く響き、芸者さんの踊りも所作が優雅。正にライブ。一流の芸を“遠くの高い舞台”ではなく、息づかいを感じるほどの近さで体験できる。
「三味線や鼓などは座って演奏するもの。お座敷で目線が低いからこその一体感ですね」。
舞台のあとは、芸者さんたちと歓談。一瞬、何を話せばよいのか緊張が走るが、洗練されたユーモアにあふれた話術で場が和んでいく。接待のプロなのだ。
今回参加したのは、浅草の芸者さんのお座敷だったが、今後は赤坂、神楽坂、八王子など都内の芸者衆だけでなく、金沢や名古屋といった日本各地の芸者さんたちを呼べるようになりたい、と塩見さんは話す。衣装や髪型、演目など、お座敷にも地域性があるという。荒木町に花街はもうないが、だからこそ『津の守』が新たな文化の発信地となるはずだ。
取材・文=屋敷直子 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2023年6月号より