ピエール瀧

1967年、静岡県出身。1989年に、石野卓球らと電気グルーヴを結成。音楽活動の他、俳優、声優、タレント、ゲームプロデュース、映像制作などマルチに活動を行う。
近著は『ピエール瀧の23区23時 2020-2022』(産業編集センター)。

遊具ゼロ、ネイチャーメインの渓谷公園

自然のままなのか。ちょっと不安だな(笑)。しかも団地の駐車場の奥が公園の入り口になってる。通りがかりで偶然遭遇する公園ではなさそう。公園というよりは遊歩道っぽいね。奥の方に自販機とか無さそうだから、ここで飲み物を買ってから向かおう。

入り口横の表示板になんか不思議なことが書いてある。
「メッセージが散らばって
います、あちこちに。受け取ってみましょう、試してみましょう。素晴らしい瞬間が訪れるかもしれません」
だって。そこも注意しながら歩いてみようか。

ではスタート!
まずはしばらく下り道が続くと。この公園には遊具とかはないの?

――ゼロのはずですね。

ネイチャーを便利に使いすぎじゃない? つまり何もない可能性も大なわけだ(笑)。

最初の方はひたすら鬱蒼(うっそう)とした藪(やぶ)と林が続くなあ。あ、あそこになんか書いてある。
「深い森のはなし。この辺りでは、人が全く手を加えないと、常緑の広葉樹の森に変わっていきます」
だってさ。でもそれってさ、日本全国どこでもそうじゃね? っていう感じはするよね(笑)。本州の特徴の話のような気がする。

現れた! 樹木の幹にメッセージ発見。

「裏側のはなし。ヒノキによく似たサワラという木があります。遠目では区別がつきませんが、葉を裏返すと白い部分があり、ヒノキはY、サワラはXに見えます」
だってさ。この葉っぱは、……裏返すとYだ。じゃあこれはヒノキなんだ。サワラの葉はどこにあるのかな? サワラはXだったよね。これもヒノキか、そっちは?

――これもヒノキですね。

こっちの木は……コナラかよ! この文言を書くならサワラの木をすぐ近くに植えとくべきじゃない?(笑) 葉っぱ同士を比較して確認してみたいのに。

さてと、ちょっと開けた場所にやってきた。一応ベンチとかも設置してあるんだな。マイナスイオンとまでは言わないけどさ、割と体感としてひんやりはしてるね。

あちこちにドングリが落ちてる。子供が飼ってるハムスターが死んじゃったら、ここに埋めに来るかも。「渓谷公園に埋めてあげよう」って。あとはカブトムシとか。
渓谷ゾーンはこの先なの?

――はい。このまま降りていくと渓谷があるはずですね。

ここはさ、いつ来るのが一番いいんだろうな。夏がいいような気もするけど、意外と結構蒸し暑いのかもしれないし、蚊とかもすごそう。そうなると秋が妥当かもね。

うわ! びっくりした! 木の上にリスがいた!

身軽だなあ。そっか、ドングリが落っこってるんだもんね、リスの棲家としては最高かも。

この渓谷の上に走ってる高架の道路は高速か何か?

――環状2号線みたいです。

そうなんだ。あ、今度はカナヘビがいた!

サイズかなりデカいな。やっぱ虫がたくさんいるから、いっぱい食べて大きくなるのかな。意外と生き物が見られる公園だな。

こっち側に進んでいけば渓谷か。ちゃんと「渓谷へ」って書いてあるわ。行ってみよう。渓谷がこの公園のメインなんだもんね。
うわ、すげえ下まで道が続いてるじゃん! 木に囲まれてて、この雰囲気だと昼でもちょっと不気味かも。しかもなかなかの急斜面。

階段にはなってるけど、落ち葉で埋まって坂みたいになっちゃってる。
うわ、見てよ。あそこの倒木にキノコみっしり生えてる! 山の雰囲気そのものだな。ん、足元の扉になんか書いてある⁉

「そっとしておいてください」だって。思わせぶりだなあ。

――開けてみたくはなりますね。

これは開けろってことだよね。でも正直開けたくないなあ(笑)。キモい虫がワラワラ出てきそうで。
まあでもここは開けるけどさ……なんにも無いのかよっ!(笑)。
ただ土で埋まってるだけだったわ。想像と違ってた、なんにも無いってねえ(笑)

まさかの人工物に一番感動することに……?

そしてお目当ての渓谷に到着と。意外とキレイな水が静かに流れてる。
やっぱり水の近くに来ると、ひんやりして気持ちいいわ。この足元のやつは川床の岩盤だよね。一見硬そうに見えるけど、意外に柔らかい。泥が堆積して岩になって、後に隆起したんでこうなってるんですよっていう感じかな。でもこの公園さ、そういうジオパーク的な説明って一切ないんだよね(笑)。それしてくれるとありがたいんだけどなあ。
このゾーンに限って言えば、夏が良さそう。足だけ水に浸かってバシャバシャやったりしてさ。子供びしょ濡れって感じの。

お、ここから向こうには入れないのか、ロープが張ってある。
「ホタルの赤ちゃんがいます」だって! ここ夏にホタル飛ぶみたいよ。水がきれいなんだなあ。

「この渓谷には少しの蛍しかいません。巻貝は蛍の餌です。1ミリ以下の小さな幼虫です」
だって。ここってさ、別に夜に来ても大丈夫な場所なんだよね? 夏の夜中にホタル眺めにくる人とかいるんだろうなあ。
いいなあ。横浜なのに渓谷の地層を観察できて、さらにホタルもいるなんて、この辺の子供たちの夏の課外授業とか自由研究にはちょうどいいテーマかもね。となると、やっぱ夏に来るべき公園だわ、ここ。

――渓谷の向こう側からも上がれるみたいなんで、行ってみましょうか。

そうね、行ってみようか。

こうして上からみると、やっぱり泥が堆積してたとこなんだな。そういう地質なんでしょう。
うわ、この道路の橋脚群すげえ! 実はこの公園の見どころこれじゃない?(笑)

あそこの柱に書き殴ってあるタギングは、おそらく団地の子の仕業だろうな。近隣の子たちと夜中ここに集まってっていう感じだろうね。あっちのタギングはすげえ上手に書けてる。
しかし、この道路の下側部分の構造はすごいな。なんか圧倒されるモノがある。コンクリートを流し込んで橋脚作ってあるけどさ、すごいきれいに出来上がるもんだね。自然の中に神殿の柱があるみたいだもんね。
ここまで歩いて来て、結局人間の手で作ったものに一番心が動かされる感じになっちゃってるけど(笑)。

あ、そして突然終わった。いきなり住宅地が出てきてエンドポイントだ。

ファンキー度はともかく「保土ケ谷」の地名は体感できた!

――環状2号線に沿って歩いていくと入り口まで戻れるので、渓谷の上を歩いてそこまで行きましょうか。

うん、そうね。この公園ってさ、正直言うとファンキー度としてはゼロだったよね(笑)。でもさ、ここ横浜市保土ケ谷区なんでしょ? 地層が見られて、渓谷があって、土と谷を保っているワケでさ。
「保土ケ谷」って言う地名の由来が何なのか俺は知らないけど、ここには確実に文字通りの「保土ケ谷」っぽさがあったね(笑)。

陣ケ下渓谷公園 Data

リスびっくり度  ★★★☆☆
自由研究度    ★★★★☆
保土ヶ谷度    ★★★★★

水飲み場:あり  トイレ:あり
自販機:あり  灰皿:なし

※駐車場あり。トイレ・自販機は駐車場にしかないのでご注意を。

住所:神奈川県横浜市保土ヶ谷区川島町1514/営業時間:入園自由/定休日:入園自由/アクセス:相模鉄道本線上星川駅から徒歩15分

構成=カルロス矢吹 撮影=横井明彦
『散歩の達人』2023年6月号より