昔ながらの旧道に異色のオシャレダイナー
北千住駅西口。線路際を左に進めばすぐに有名な“飲み屋横丁”があるが、その巨大な誘惑に負けないように、駅からまっすぐ伸びる北千住駅前大通りを直進。100mほど歩くと、左右に商店街が続く旧日光街道にあたる。これを右折すると、昔は街道であったことを思わせる名の“宿場町通り商店街”。左右にびっしりと商店が並ぶ道へ入っていく。
ハンバーガーが評判のお店『Cafe&Diner KHB』は、この商店街を100mほど進んだ左側。こう言っては何だが、北千住の街並みの中で浮き立つおしゃれな店頭。全体が木目調に統一され、くっきりと白くKHBの文字。窓際にクラシックなベンチが置かれ、具材とソースが溢れるように重なったハンバーガーの写真が、このお店の実力を示すかのごとく迫力満点で展示されている。
扉の横には黒板が置かれ、英語と手描きイラストが早くも店内のおしゃれレベルを予感させる。インスタ女子なら、ここからもうすでに撮影開始といったところか。
店内に入りまず感じるのは、その解放感、そして温かな雰囲気。広々とした空間が店の奥まで続き、正面の広い壁には映像が映されている。高い天井には沢山の電球がともされ、温かさとともに、海外のお祭り屋台街のような、ちょっとわくわくするような雰囲気を作り出している。
絶品ハンバーガーだけじゃない、幅広いメニュー
その広々としたスペースの真ん中にはいくつかの木のテーブル。壁際にはいかにもリラックスできそうなソファも配置されている。もうお店全体が「ゆっくりお過ごしくださいね!」とメッセージを送ってきているようだ。
「もともと私は旅行会社に勤めていて、海外で暮らすことも多く、その経験からこのお店の料理と雰囲気を作ってきました」と、このおしゃれな空間が出来上がった理由を、店長の根津裕子さんは語る。
『Cafe&Diner KHB』が開店したのは2011年。もともと裕子さんのご家族がこの北千住で居酒屋などを経営。この地でもう一店舗を始めたいとの話があり、裕子さんが参加することになった。
店舗の方向性に関しては家族会議が何度も開かれ、ここで裕子さんの海外駐在の経験を活かし、大好きだったアメリカンダイナースタイルのお店を開くことになったとのこと。味は日本人の好みに研究、改良された。
いちばん人気のバーガーは推定標高13㎝!
さて、今回の注文は、お店いちばん人気のサルサアボカドチーズバーガー1460円。メキシコテイストでお肉が楽しめ、しかも女性が大好きなアボカド入り。まさにお店の魅力が詰まった一品だ。
バーガー到着。実を申せば、私はこの手の本格ハンバーガーは初体験。店頭の写真では予告されていたものの、目の前に運ばれてきたそれは、まさにそびえ立つ山。重なる具材を余すところなく見せ、その標高は推定13㎝。ここに大量のポテトがトッピングされ、立体感あふれるその姿はまさに「映え」そのもの。
ちなみに自分の口の口径を後日測ってみるとわずかに5㎝。しかし測るまでもなく手に負えない感が凄い。この先どう進んでいけばよいのか。
キビキビと立ち働くお店の店員さんをわざわざ立ち止まらせ「どうやって食べたら良いですか」と伺うと、「バーガー用の紙で包んで食べるか、女性のお客様の場合、ナイフ、フォークで食べられる方も多いですよ」と基本の知識を教えてくれる。
いただきます。ハンバーガーを紙で包みながら、上下方向に少々圧縮させ、限界まで口を開けて一口。アゴは少々疲れるが、そのかいあって、肉、サルサソース、パン、トマト、アボカドチーズの味が同時に口中に展開される。うまく行った! なぜかこういう時、人は食べた断面を眺めながら、うなずいてしまうものなのですね。
うま。肉は頼もしくみっしりしていて、パンはしっかり&ふっくら。そこにチーズとアボカドの味がサルサソースに包み込まれるようにやってくる。紙ナプキンの助けを借りながら盛大にしたたるソースと戦い、まさにぐいぐい食べ進んでいく。両手、口を駆使し、ハンバーガーのことしか考えていない至福の時間。お箸の世界では絶対に味わえない食の醍醐味。一気にお腹がいっぱいになる。
カウンター正面にある巨大な黒板に手書きされた解説によると、肉はビーフ100%パテ。地元ベーカリーに発注したお店オリジナルのバンズ。そしてオリジナルのサルサソース。すべてオーダーしてから調理を始める作りたて。これはうまいはずである。
北千住といえば飲み屋街というイメージが強いが、このお店では女性のお客さんが多いとのこと。「毎日コーヒーを飲みに来てくれる地元の年配の方もいらっしゃいます」と根津さん。しっかりと街にも溶け込んでいる。
飲んだ後、ラーメン代わりに締めのハンバーガーを楽しむ方も多いらしい。どんな楽しみ方も受け入れる、懐の深いくつろぎの空間なのであった。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=夏井誠