柴又駅から徒歩1分の距離にあるおでん種専門店の大国屋はもちろん、柴又参道商店街のお店でもおでんが食べられる。また、矢切の渡しのある江戸川河川敷まで歩いて、ピクニック気分でおでんを楽しむのもいいだろう。

都内にいながら小旅行気分を味わえる街、柴又

江戸時代から柴又帝釈天(経栄山題経寺)の門前町として賑わっていた葛飾区の柴又は、「男はつらいよ」の舞台として現在も多くの人々に愛されている。古い時代の建物が数多く残っており、都内でありながらも小旅行気分を味わえる。

柴又周辺で営業するおでん料理店は少ないが、大国屋というおでん種専門店が営業している。また、高木屋老舗や大和家など、柴又参道商店街のお店でも食べられる。おでんを味わいながら、下町を散策してみよう。

柴又に来て最初に訪れるのは、京成電鉄金町線の柴又駅前にある広場だ。寅さんとさくらの銅像が有名で、柴又帝釈天の参道も目の前だ。建物の老朽化を理由に再開発が行われ、2019年から2021年(2019〜2021年)の工事を経て新しく生まれ変わった。カフェやコンビニエンスストアがオープンし、建物も現代的なものに一新された。

以前に比べて解放感がなくなったのは残念だが、今川焼の三河屋や立ち食い蕎麦の新華(三松に改称)など、再開発前から存在した一部の店舗が営業を続けているのは嬉しいところだ。

参道は200mほどの短い距離となっているが、古くから営業を続ける商店が軒を並べており、過去にタイムスリップしたかのような体験を楽しめる。2018年には「葛飾柴又の文化的景観」が国の重要文化的景観に選定された。

柴又帝釈天(帝釈天題経寺)は寛永6年(1629)に創建され、約100年後に所在がわからなかった御本尊が発見されたことを機に江戸じゅうの人々から注目を集めるようになった。縁日は庚申の日となり、毎回多くの人出で賑わう。なお、参拝の際にはぜひ彫刻ギャラリーを見学しよう。帝釈堂の周囲に施された多数の精緻な彫刻に圧倒されることだろう。

高木屋老舗で草だんごとおでん、茶めしを味わう

それでは早速、柴又でおでんを楽しめるお店を紹介していこう。まずは柴又を代表する有名店、明治元年(1868)創業の高木屋老舗だ。

木造瓦葺きの建物が創業当時の風情を漂わせている。参道を挟んで2軒が営業しており、テイクアウトやお土産販売、もう一方は喫茶店となっている。おでんは喫茶店での販売となる。

最初に入り口にある券売所で会計を済ませよう。券売所のカウンター下におでんと茶めしの料理見本を発見できた。今回はこれらのほかに、有名な草だんごをオーダーすることにした。

店内は広く、座席も多いのでのんびりとくつろげる。温かいお茶を飲んだり店内を見学しながら、料理が運ばれてくるのをじっくり待とう。

高木屋老舗は「男はつらいよ」の撮影の際に休憩や衣装替えのために部屋を貸していたことでも知られている。また、寅さんの実家のモデルにもなっているそうだ。店内には撮影当時の写真や山田洋次監督ゆかりの品などが飾られている。

店内のメニューにもおでんと茶めしがあることを確認した。ただし、暑い時期は提供していないので注意が必要だ。訪れたときは、草だんご、焼だんご、磯おとめが同時に楽しめる「おだんごセット」をオーダーするお客さんが多かった。

柴又の名物となる草だんごを味わってみる。高木屋老舗のWebサイトによると、特選のコシヒカリを毎日使用する量だけ粉をひいて、筑波山麓の澄んだ空気のもとで育んだよもぎの新芽を使い、餡は一級の北海道産小豆を使用しているそうだ。もっちりと柔らかな食感とよもぎの爽やかな香りが素晴らしい。餡は甘さをおさえてあり、上品な味わいだった。

お次は本命のおでんと茶めしをいただくことにする。茶めしにはたくあんなどの漬物がセットになっている。このおでんを楽しみにやってくる常連客も多いという。

おでんはさつま揚げ2種、焼きちくわ、はんぺん、こんにゃく、玉子の6種類。さつま揚げは通常の平たいものと、豆腐を混ぜたふわふわのものだ。お蕎麦屋さんで提供されているおでんそばやうどんと同じような構成のようだ。おでん汁は昆布と鰹節の出汁だが、鰹の風味がより強い印象だ。

茶めしはふんわりと出汁の香りが漂い、味付けの濃さもちょうどいい。おこげが香ばしく、味わうとほっこりとした気持ちになる。

大和家で天丼とおでんを味わう

高木屋老舗に隣接する天ぷら屋の大和家でもおでんを提供している。店頭で揚げているごま油の香りに多くのお客さんが引き寄せられている。

大和家は明治18年(1885)から続く老舗で、山田洋次監督や俳優の渥美清さんも撮影時に通っていた有名店だ。天丼や天ぷら、おでんを味わえるほか、テイクアウトで草だんごを販売している。

高木屋と同様に「男はつらいよ」の撮影合間の休憩場所としても親しまれた。倍賞千恵子さんや前田吟さん、佐藤蛾次郎さんなどおなじみのメンバーの指定席があったそうだ。

店内は手前にテーブル席、奥がお座敷席となっている。休日の昼時は行列ができるので、午前中に訪れることをおすすめする。

メニューは非常にシンプルで、料理は天丼(上と並)、天婦羅(上と並)、おでんのみ。飲み物も酒、ビール、ジュースと潔くて気持ちいい。今回は天丼(並)とおでんをオーダーすることにした。

天ぷらを揚げている間におでんが運ばれてきた。おでん種はさつま揚げ、ごぼう巻、ちくわ、はんぺん、こんにゃくとなる。

おでん汁は昆布と鰹節のスタンダードな出汁だと思われるが、それぞれのおでん種に味がしっかりと染みていた。からしにも非常によく合う味付けだ。

おでんを味わっていると、天丼が運ばれてきた。からりと揚がった衣にたれが満遍なくかかっている。並は海老とキス、ししとうの組み合わせ。おでんと一緒に食べるなら、上より並のほうがいいだろう。お漬物と味噌汁も付いてくる。

ごま油で揚げた衣はからっとしていて非常に食感がよい。甘辛いたれもあとをひく美味しさで、さすがのひとことだ。店内に飾られている山田洋次監督の色紙に「旅先でいつも想う故郷柴又 なつかしい大和家の天ぷらの味」と書かれているが、その言葉に非常に納得できた。

おでんを味わえる柴又のその他の店舗

おでんを味わえる柴又参道商店街のお店は、大和家や高木屋老舗のほかに2軒ある。門前とらやと亀家本舗だ。

門前とらや(葛飾区柴又7-7-5)は明治20年(1887)に「柴又屋」として創業、「男はつらいよ」第1作目から第4作目まで寅さんの実家として撮影されたお店として有名だ。亀家本舗(葛飾区柴又7-7-9)は明治34年(1901)創業、こちらも「男はつらいよ」で寅さんの実家のモデルになったお店だ。

どちらもおでんは冬季のみの提供となっており、季節や気温の様子を見て開始するそうだ。直接うかがってみたところ、通常は12月頃となるようである。

柴又のおでんの大本命、おでん種専門店の大国屋

ここまで柴又でおでんを提供するお店を紹介してきたが、やはり大本命はおでん種専門店の大国屋となる。柴又駅から柴又帝釈天とは逆方向に進み、徒歩1分の場所にある。

店主は京島の大国屋の店主の弟さんで、1987年から柴又の地でおでん種を販売している。大国屋(柴又)の詳細は「大国屋(柴又)のおでん種」という記事でも紹介しているので、あわせてご覧いただきたい。

自宅調理用のおでん種も販売しているが、今回は現地で味わいたいので店頭の鍋で調理されたおでんを購入することにした。柴又参道商店街のおでんは夏季に販売休止することが多いが、大国屋(柴又)では年間通して販売しているため、好きなときに味わうことができる。ただし、日曜や祝日はお休みのため注意が必要だ。

鰹節と昆布、塩と醤油で味付けされたおでん汁にたっぷり浸かったおでん種たちが美味しそうだ。たくさんの種類のおでん種が入っているため、さまざまな旨味が汁に溶け込み、複雑でまろやかな味わいとなる。

食べたいおでん種を指差してオーダーしてもいいが、メニューが鍋の上に掲げられているので、そこから選んでもいいだろう。

こちらのおでんはその場で食べたい旨を伝えると、発泡容器に入れてくれる。からしもつけてくれるので、欲しければ遠慮なくお願いしよう。お持ち帰りの際はポリ袋に入れてくれるが、容器を持参すると割引してくれる。

今回は矢切の渡しがある江戸川河川敷でおでんを楽しむ予定なので、お持ち帰り用にしてもらった。通常はおでん汁をたっぷり入れてくれるが、扱いやすさを考慮して少なめにしてもらった。

自宅調理用のおでん種も見ていこう。店頭にはさまざまな種類の揚げ蒲鉾が並んでおり、午前中は揚げたてが揃っている。11時頃までに電話すれば、希望のものを必要なだけ揚げておいてくれる。店主によると、柴又参道商店街のお店にもおでん種を卸すこともあるという。

カレーボールや野菜揚など定番物もあるが、注目はおもち巻だ。大国屋のおかみさんも大好きなおでん種だそうで、揚げたてのものを味見をさせてもらったが感動するほど美味しかった。魚の旨味と餅のほのかな甘さが混ざり合い、表面に貼られた海苔の上品な香りが全体をまとめていた。餅の滑らかな食感も素晴らしく、おでんにしないでそのまま食べても美味しいだろう。

矢切の渡しのある江戸川河川敷でおでんを楽しむ

大国屋(柴又)でおでんを購入したら、矢切の渡しのある江戸川河川敷へ向かおう。柴又帝釈天から徒歩5〜6分の場所にあるので、参道を見学しながら向かうといい。

土手からは江戸川の緑が一望できる。上写真の中央あたりが矢切の渡しになる。近くには葛飾柴又寅さん記念館があり、すこし先には水元公園があるのでレンタサイクルでまわってみるのも面白いだろう。

矢切の渡しは千葉県の矢切と柴又を結ぶ渡船で、小説「野菊の墓」や歌謡曲で有名だ。対岸まで150m程度だが、まっすぐ江戸川を渡らずに上流をのぼって周辺を解説してくれる。

矢切の渡しの柴又渡船場近くにはベンチが設置されているので、そこでおでんを楽しむといい。トイレも近くにあるので安心してくつろぐことができる。用意するものは、底が深めの紙皿、割り箸、お手拭き、そしてゴミ袋。河川敷にはゴミ箱がないので、ゴミはきちんと持ち帰るようにしよう。

彼方まで広がる空と緑を眺めながら味わうおでんは格別で、このうえない贅沢な気分を満喫できる。春や秋がおすすめだが、目の前には花菖蒲田があるので6月もおすすめだ。

柴又とおでんを思う存分満喫したら、銭湯に寄って汗を流して帰るのもいいだろう。柴又駅と京成高砂駅の中間にある栄湯(葛飾区高砂8-15-12)、金町駅にある金町湯(葛飾区金町5-14-9)、北総線の新柴又駅にある興和浴場(葛飾区鎌倉4-17-14)がある。

大国屋(柴又)のできたておでん

最後に大国屋(柴又)のできたておでんを紹介しておこう。自宅用に8種類購入した。

時計回りに12時から、大根、もちキャベツ袋づめ、たまご、ちくわぶ、野菜しょうが天、つみいれ(中央左)、じゃがいも(中央右)、しらたき(中央下)。

鍋に移して弱火で温めるだけで食べ頃となる。すぐに食べない場合は冷蔵庫に入れておき、菌の繁殖を防ぐようにしよう。

大根は外側と色が変わらないほど、中まで汁が染み込んでいる。やさしくまろやかな出汁の風味を思う存分堪能できる。

たまごは褐色に染まった表面の色合いが美しい。黄身はクリーミーで、粉っぽさはまったくない。

野菜しょうが天はかなり大きく、非常に食べ応えがある。生姜、人参、ネギなどが入っており、それぞれの味が見事に調和している。

つみいれは大きく成形されており、魚の旨味がしっかり残っている。臭みなどはまったく感じられず、子どもでも美味しく食べられるだろう。2個1串での販売となる。

ちくわぶは煮崩れしておらず、もっちりとした食感を維持している。大国屋(柴又)では通称「ハダカ」と呼ばれる未包装のちくわぶを使用している。

しらたきは干瓢で丁寧に巻いてあり、ぎゅっと詰まったしらたきはたっぷりおでん汁を含んでいる。

じゃがいもも煮崩れしておらず、芯まで火が通っている。ふっくら、もっちりとした食感とほのかな甘みが素晴らしい。

もちキャベツ袋づめは大国屋(柴又)で最も大きなおでん種のひとつではないだろうか。油揚げの中には餅と刻んだキャベツがたっぷり入っており、ジューシーかつ非常に満足感がある。

柴又には名所旧跡や古くからの商店が多く残り、非常に見どころが多い街だ。都内にあるため気軽に訪れることができるのも魅力のひとつだ。おでんを味わいながら、旅行気分で下町散策を楽しんでみてはいかがだろうか。

大国屋(柴又)の基本情報

大国屋
〒125-0052 東京都葛飾区柴又4-11-3
03-3673-9489
定休日:日曜、祝日
営業時間:10:00~19:30

高木屋老舗の基本情報

高木屋老舗
〒125-0052 東京都葛飾区柴又7-7-4
03-3657-3136
定休日:無休
営業時間:10:00〜16:00(喫茶) 9:00〜17:00(お土産)

大和家の基本情報

大和家
〒125-0052 東京都葛飾区柴又7-7
03-3657-6492
定休日:不定休
営業時間:11:00~16:00頃(飲食) 9:00〜17:00頃(お土産)

取材・文・撮影=東京おでんだね