まずはデートターン!
今回は、この間の続きでもあり『東京散歩地図』第9回目のルートでもあるお台場デート。お台場かー。高校生のときとかデートでよく来てたなー。懐かしい場所だ。
今日はお互い仕事が終わってからの夕方デート。明るい時間のデートが多かったからまた新鮮でいいな。なんてったってオレたちは付き合っているのだから。
「お腹すいてる?」
「ちょっとすいてるかなー。」
「じゃあ、行ってみたかったとこ行っていい?」
「どこどこ?」
「たこ焼きミュージアム!!」
まずはお腹を満たすためにデックス東京ビーチの4階にあるお台場たこ焼きミュージアムに行ってみる。大阪人お墨付きの名店が集まっているらしく、ずっと来てみたかったんだ。
たこ焼きをペロリとたいらげ外に出るとちょうど夕日が綺麗じゃないか。
「お台場ってなんかいいよねー。」
「そうだね。私も学生のときよく来てたなー。」
気持ちのいい潮風に吹かれながらエルボーと手を繋いで歩く。
ああ。
気持ちがいいから青海の方までお散歩だ。
「そういえばヴィーナスフォート閉館しちゃったね。」
「確か大観覧車も2022年8月31日に営業終了だよ。」
「なんか寂しいね。お台場のシンボルって感じなのにね。」
「観覧車はなくなって欲しくなかったなー。」
ああ。この観覧車もなくなってしまうのか。高校生だったころ、当時の彼女と、よくこの観覧車に乗ったなー。
観覧車は建築確認は必要でしょうか、どうでしょうか。
あ、そうだ。ではみなさん、ここでちょっと宅建知識。観覧車を建設する際、建築確認は必要でしょうか?ちなみに『建築確認』は、建築物を建築するときに受けなきゃいけない手続きです。
お察しのとおり、安全な建築物を建築するには、耐震性だのなんだのかんだの、さまざまな法的基準をクリアしている必要があるワケで、それらの基準をちゃんとクリアしているかどうかを確認するのが建築確認。
ちなみに建築基準法では、建築物をこんなふうに定義している。
「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの」
で、観覧車なんだけど、んー、たしかに土地に定着する工作物だけど、建築物とはいえないかなー。でも見てのとおりこんなにでっかいし、建築確認という安全性を担保するしくみをスルーして建設しちゃってもいいのかな、という疑念もある。
結局どうなっているかというと、建築物じゃない観覧車などの工作物でも、建設する際に建築確認を受けてね、というルールになっています。「建築確認を受けなきゃいけない工作物」としてこんなふうに定義されている。
「メリーゴーラウンド、観覧車、オクトパス、飛行塔その他これらに類する回転運動をする遊戯施設で原動機を使用するもの」
ちゃんと「観覧車は確認をうけようね!」と名指しされているのだ。
そしてここで一瞬のタイムスリップ。学校帰りだったから、いつもちょうど今頃の時刻だったな。彼女はチアリーダー部で、いつも元気いっぱいで動きまわっているんだけど、でもオレとこうしてふたりで観覧車に乗っているときは、いつもとはちがうムードを漂わせていたな。オレたちは観覧車に乗って、ゆっくりだけど確実に上昇して、そして頂点の付近で、軽く、ほんとに軽く、愛を確認していた。
愛の建築確認。
……彼女、元気かな。
なんて思い出に浸っていたらエルボーがこんなことを聞いてきた。
「パレットタウンって再開発のために閉館しちゃうの?」
あ、やばい。そうだ。いまオレの横にいるのはエルボーだ。出会った頃よりも確実に不動産とか街の話に興味を持ってきたぞ。さあ、オレの出番だ。
「ヴィーナスフォート」はなぜ閉店してしまうのか
先日、お台場界隈で人気を集めていた「ヴィーナスフォート」の営業が終わった。エルボーがいうとおり「この界隈を再開発しよう」ということで、2025年にスポーツやコンサートの会場となる多目的アリーナが開業するらしい。
でね、この「ヴィーナス・フォート」一帯の土地の利用権という観点から、ちょこっと歴史を振り返ってみると。
ここらへんは、もともとは東京都が所有していた広大な埋立地で、平成のはじめのころの話になりますけど、景気よくここで「都市博」というイベントをやろうと思っていたんですね。
だがしかし、バブル崩壊で計画が頓挫。
で、どうしようかと思案するものの、折しもの経済状況ゆえ身動きとれず、なので「とりあえず、誰かに貸しとくか」となった模様。つまり、暫定的に借地権を設定しようということだったみたいで、そんなニーズにピッタリなのが「事業用定期借地権」。
借りた土地に建てる建物が「事業用(店舗利用とか)」だったら、短期間で、かつ、更新なし(最初に決めた期間で借地権は終わり)とすることができます。
これがふつうの借地権だったら、いったん貸し出すと、借りた側が返すよといわないかぎり、貸した土地は返ってこないので、土地所有者側とすると、二の足を踏むことも。なので「いま使いみちがわかんないからとりあえず貸しとくか」と思っていた東京都にはまさにぴったりの借地権が事業用借地権で、それに基づいて東京都から借りた事業者がヴィーナス・フォートを建てて営業していたというわけです。
その後、東京都はこの界隈の土地をその事業者に売却したみたいです。
そして今般、再開発しようという機運となり「パレットタウン」や「大江戸温泉物語」が次々と営業を終わらせているのだ。
「へえー。そうなんだね!!!知らなかった!!」
そんなふうに反応してくれるエルボーが、愛おしい。
そうだ。観覧車が取り壊される前に、エルボーと観覧車に乗っておこう。観覧車の思い出を、オレは今宵、エルボーと塗り替える。
愛の再開発。
なんだろう、この感覚。体の芯から、湧き上がってくるシアワセの予感。
エルボー。
これからいっしょに、ゆっくりかもしれないけど、確実に上昇して、愛の頂点を極めよう。
オレは彼女の横顔を見つめる。いま、オレの横にいるのは彼女だ。彼女が軽く首をかしげ、オレを見る。
オレは言った。
「ねぇ、ミノリ……」
あっっ!!やべっ!!!
エルボーの名前を呼ぼうと思ったら高校時代の彼女の名前呼んじゃった!!!!
「ミノリって誰?」
「ア、ア、ア、あー、あれーーー!!!」
「誰よ?」
「ち…ちがうんだ!!!」
「何が?」
「いや、その…。」
「ありえないんだけど。帰る。」
エルボーは猛ダッシュであっという間に姿が見えなくなった。
「待ってくれ!!!」
……オレの再開発は頓挫した。
取材・文・撮影=宅建ダイナマイト執筆人(おーさわ校長・ひのきP)