青山通り沿いのビル一角にたたずむ純喫茶

渋谷駅から青山通り沿いを歩くこと約6分のビル一角。2020年10月に人知れずオープンした純喫茶『喫茶サテラ』が、渋谷の新しい憩いの場となっている。

この場所はもともと渋谷で48年営んでいた老舗喫茶「青山茶館」があった場所。店舗をそのまま引き継ぎ、改装して新たな喫茶店へと生まれ変わったのだ。SNSで投稿される趣のある店内と、美しいデザートやドリンクの写真が話題となり、オープンからたちまち繁盛店の仲間入りを果たした。

カウンター席とテーブル席が配された店内は、昔ながらの喫茶店の雰囲気はそのままに「青山茶館」時代からガラリと改装。新たな空間は、レトロ喫茶ならではの温かみ、都会の喫茶店らしい洗練された空気の両方をまとっている。

入り口付近にある趣のある柱は、以前の店からあったもの。現在は、一部を机の脚に利用している。このように、ところどころに残った歴史の欠片は新たに揃えられたアンティークに溶け込み、新しい時間を刻んでいる。

また、老舗喫茶の面影がありながら店内にはWi-Fiを備えるほか、テイクアウトは専用アプリで注文できるなど、渋谷のライフスタイルに合わせたサービスもうれしい。

「話しかける接客を心掛けています」と話すのは、スタッフの中村さん。
「話しかける接客を心掛けています」と話すのは、スタッフの中村さん。

昔からこの場所に通っていた人たちは、新しくなった店のことをどう思っているのだろうか。店の運営やメニュー開発を担当するスタッフの中村さんに尋ねてみると、「昔からこの店に通っていたお客さまも来てくださっていますよ。ありがたいことに、SNSや口コミで新しいお客さまも増えています」と話してくれた。

毎日のように通う常連も多いそうだが、程よい距離感で温かみのある接客も理由のひとつだろう。

小ぶりなのに大満足。本格派のミートドリア

唯一のフードメニュー、ドリア900円。
唯一のフードメニュー、ドリア900円。

『喫茶サテラ』には、唯一のフードメニューがある。それがリブ肉とチーズをたっぷり使ったドリアだ。見た目とは裏腹にボリューム満点の一皿は、ランチにはもちろんのこと夕飯代わりに食べていく人もいるという。

こんがりと焼かれたジューシーなドリアは、渋谷で人気の肉屋バル『bob’s ribs(ボブズリブズ)』のリブソースを贅沢に使ったこだわりの一品。「見た目以上に食べ応えがあると思いますよ。私もお気に入りなんです」と中村さんは言う。

期待しながら口に運ぶと、まず肉の旨味をダイレクトに感じられた。次に、肉々しさ全開のリブソースにとろけたチーズが絡みつき、肉の旨味をまろやかに包み込む。最後は、大胆にふられたブラックペッパーがピリリと効き、さらに食欲を増幅させてくれた。リブ肉とチーズの味わいのバランスが絶品のドリアは、一口食べるたびに随所にこだわりを感じられる本格派だ。

名物のプリンやオレグラッセを一緒に

濃厚な味わいで人気を博すプリン600円。
濃厚な味わいで人気を博すプリン600円。

「ドリアだけでは物足りない」という人には、2021年1月から提供を開始し、今やすっかり看板メニューとなったプリンもぜひ食べてみてほしい。一見シンプルで王道のプリンに見えるが、こちらもこだわり抜かれた一品だ。

練乳とクリームチーズをたっぷり使ったプリンは、まろやかな甘さとほろ苦さが濃厚に口の中に広がる。スプーンを通すとしっかりとした手ごたえがありながら、舌に触れるとふっ……と溶けていくような魅惑の食感も心地よい。試行錯誤をして、絶妙な焼き加減で完成されたプリンは、これを目当てに訪れる人も多い。

ガツンとしたドリアのあとに、優しい甘さが口の中をやわらげてくれる。

オレグラッセ750円は、かきまぜずにそのまま飲むのが主流。
オレグラッセ750円は、かきまぜずにそのまま飲むのが主流。

ドリンクは、コーヒーとミルクが美しく二層に分かれたオレグラッセを頼んだ。口元に運んだグラスを傾けると、オレグラッセ用に自家焙煎したマンデリンコーヒーの苦みとシロップを加えたミルクの甘さが、バランスよく口の中を満たしてくれる。調和のとれた華やかな苦みと甘みが食後にぴったりだ。

なにかと忙しいランチタイムは、「お腹を満たすこと」がメインとなりゆっくりと過ごせないことも多い。そんな毎日でも、ニューレトロな純喫茶の『喫茶サテラ』に足を運べば、ゆったりと流れる時間とこだわり抜かれたメニューで、いつもより豊かなランチタイムを過ごさせてくれそうだ。

取材・文・撮影=稲垣恵美