いきなりこの汚さはどうかとも思いましたが、これはむしろ風格と呼ぶべきでしょう。
かなり年季の入った看板で劣化が激しいのに加えて、悪ガキたちのタギングの格好の餌食になっています。それでも字面をたどって読んでいくと「当駐車場は職員専用です。他車…無断駐…した場合…は警察…レッカーを……します」と、書いてあることはだいたいわかるのですが、その先がどうにもさっぱり読めません。
サンドウィッチマンのコントで聞き覚えのあるあのフレーズ、「ちょっと何言ってるのかわからない」がぴったりなこの面構え。じわじわと笑いがこみ上げてきます。
落書きまみれの「過言板」は一見わかりにくいですがよく観察するとストリート文化なりの地域性が反映されています。最初に紹介したのは渋谷区の渋谷川周辺ですが、こちらは世田谷区の国道246号線沿い。黄色い看板がステッカータギングの群れに包まれてご覧の通りカラフルなオブジェに。
元は「自転車・バイク駐輪禁止」と書かれていたであろうことは想像できますが、こうして自転車が停められてしまっている様子を見ると、もはや警告看板としての効果は皆無といってもよさそうです。
新宿南口近くの電柱にくくり付けられたスリム看板ですがこれまたステッカーの餌食になってしまいました。モノトーンでチープなタグが西新宿らしさを醸し出しています。
一見無秩序に貼られているようですが同じ種類のアトランダムな連貼りが表現としてなかなか効いていて、不特定多数のコラボレーションがもくもくと雲のように湧き上がる躍動感に包まれています。
遠目に文字はまったく読めませんが、目を凝らして字を追っていくと「赤い部分は駐停車禁止」と書かれていたらしいことがわかります。これに気づかずに駐停車していて違反切符を切られたりしたら大変です。
六本木通りの一本裏道です。デザイン的に洗練されたステッカーが多い気がしますが、土地柄から外国のグラフィティ・ライターのステッカータグも混じっているのかもしれません。
お互いに干渉しないように適度に距離を保って貼られている様子はなんだか学校の集合写真みたいで、テレビの学園ドラマによくある落ちこぼれクラスを連想しました。みんな札付きのワルなのに個性的で仲良しな様子が微笑ましいです。
ここまで紹介してきた「過言板」とはちょっと部類の違う傑作です。
東京の都心部からだいぶ離れたJR青梅線青梅駅南口ロータリーの近くで見つけた古い看板。これもいくつものステッカーが貼られていたようなのですが、かなり昔のものなのかどれも紫外線と雨にやられて白いシルエットを残すだけになっています。
もともとはまちの緑化にあたって街路樹や花壇の植物について書かれた説明看板だったようですが、経年劣化が激しくて内容はほとんど読めません。
ところが、近寄ってみると小さな文字がプリントされた事務用ラベルテープが2本貼られているのです。そんなに古いものではなさそうで、こう書かれています。
マフラーやストールがほどけていくようなものだろ
冬に始まっていつかは泣くなら
短いながら完全に詩です。ストリート詩人の仕業なのでしょうか。それとも何かのアートプロジェクトなのか、私にはわかりませんが、路上の言葉はやがて春の訪れとともにいつか消えていっても構わないというこの存在自体が、儚くも美しい詩情にあふれていると確信しました。
文・写真=楠見 清