写真の構図とは、文章で言えば全体の構成や段落分け
構図は例えば文章に置き換えるならば、全体の構成や段落分けのようなもの。内容もさることながら構成や段落だって、読みやすくするためにはとても大事な要素ですよね。それらがうまくいっていなければ読みづらく、内容が頭に入ってこないこともあるように、写真の構図も、自分の撮った時の意思を伝えるためにはとても大切なファクターなんです。
料理写真では、前回までに伝えたカメラや光の使い方ももちろん重要なのですが、構図作りはシャッターを押す前に決める最後の締にあたる写真の要約作業になります。
料理写真の構図とは?
構図とひとことで言っても、そんな簡単なもんじゃないですよね。まずは料理写真の構図がどのように形成されているのか分析してみたいと思います。
例えばまったく異なるジャンルのスポーツ写真なら被写体が動いても構図は変わります。もちろん撮り手のテクニックや分析力あってこそというところもありますが、思わぬファインプレーが生まれれば、スペシャルな構図になることもあります。
ところが料理はお皿が意思を持って動くわけではないので、構図作りの全ては撮り手に委ねられているのです。つまり料理写真では自分が何か行動しなければ構図は作れないということになります。
撮影時にスマホを縦や横に構えることも構図。膝を曲げた低めのアングルや、背伸びをした高めのアングルも構図。被写体である料理の器を少し回すのも構図作りの一部です。まず料理写真ではカメラを持つ者の行動=構図ということが言えます。
それから、料理写真に写るものとしては、メインとなっている料理だけではありません。料理が盛りつけられている器や、それを食べるための箸やカトラリー、また時に酒やドリンク類も写真の中に登場しますし、料理が置かれているテーブルやテーブルクロスだって、料理写真には重要な登場人物です。
どういうアイテムがあって、それがどのように配置されているのか、つまりスタイリング=構図ということも言えます。
料理写真の構図は「撮り手の行動」と「スタリング」で形成されていると私は考えており、それぞれで何をしていくと自分の考えが写真で伝わるのかこれから解説していきます。
縦、横、正方形
スマホを縦に構えるか、横に構えるかで構図はがらりと変わります。それからアスペクト比を1:1やスクエアに変えると正方形にだってなります。動画のカメラならば横で撮るのが普通。でも、写真は縦も横も自由なんです。
もちろんルールはありません。でも、結果として撮った写真をどこで使うのかによってどうすべきなのか、何がベストなのか考えてから写真を撮ると適当な写真ではなくなってきます。
例えばインスタグラムは正方形が中心になりますよね。であれば、最初から1:1やスクエアで設定して、ベストな構図で撮影するのがいいと思います。私は料理本などで撮影する時は本が縦のことが多いことに合わせて、縦の構図が必然的に多くなったりします。
この記事のようなwebの記事では、写真と一緒にある程度文章を同時に見てもらった方が分かりやすいので、横中心で写真を載せたりもしています。とても単純なことですが、スマホだと何も考えずつい縦で撮ったりしませんか?
テレビではハプニング映像など視聴者投稿の動画が流れますが、テレビが横なのに対してほとんどが縦動画だったりするのは特に結果を踏まえておらず、とっさにスマホカメラを回しているからという表れだと思います。料理はハプニングではなく自分の意思で食べるものなので、自分が表現したいメディアや媒体を想像してスマホを構えてみるところから始めてみましょう。
アングルを決める
アングルとは角度です。料理写真で一番よく見るのは斜め上からのアングル。これは食べる人目線ですよね。
作り手は食べる人のために作っていて、食べる人の目線で見栄え良くしているのが料理ではないでしょうか。すると自然と斜め上からのアングルになるのも納得できます。
私もお店の内観などを撮るときにはよく入り口側から撮ったりしますが、入り口から入ったときに魅力的に見えるように建物やインテリアが出来上がっており、作り手の思惑を読み取ると自ずとそうなってくるというのはあります。
ただ、ものによっては低めのアングルでカメラを正面に向かって撮る方が似合う料理だってあります。
例えば高さを強調したいとか、ケーキなど層になっている様子を写したいなど理由はいくつかありますが、撮りたい料理のどこをよく伝えたいのか考え、それが叶うアングルを考えていきます。
あとは写真撮影では俯瞰(ふかん)という言葉をよく使いますが、真上から見るアングルもよく見るようになりました。
10年前でいったらあまり多く見かけなかったし、仕事の撮影でも求められることが少なかったのですが、SNS、特にインスタグラムで俯瞰写真を投稿する人が多くなったことから流行ったなという実感があります。今や市民権を得たよくあるアングルの一つですが、美味しそうというより、写真がデザイン的に見えるおしゃれな要素を持っている気がします。
ただ、先ほどの正面からのアングルとは裏腹に高さという情報は全く伝わらなくなるので、真上にしておけばなんでも格好がついてしまうというわけではないと思います。
どのアングルも一長一短ですが、それぞれのアングルでよく見えたり、強調される部分というのがあるわけですから、まずは何を見せたいのかよく考えて、それからその見せたい部分が一番よく見える角度はどこなのか探してみると答えは出てくると思います。
飲食店などでいただくものを撮りたい時は、注文した料理が届くまでに、頭の中でイメージしておくといいですよね。
寄りと引き
前回はスマホカメラのズーム機能を使って望遠側で撮ることについてお話ししました。倍率は2〜3倍程度がいいという話でしたが、その倍率はキープしつつカメラを被写体に寄せたり、引いたりしても構図は変化します。変化すれば写真を見た人の感想も変わります。
一歩引いて料理全体を伝えてみたり、空間を作って写真の中に間をつくり静かさを表現してみてもいいと思います。また逆にうんとクローズアップして料理に没頭するような目線で写真を撮っても迫力があって面白いでしょう。
正直ルールやマニュアルはないので、自分次第でいか様にも出来る分迷いもでるものですが、料理は時間が経つと状態の劣化が進むので、ここはスピード勝負です。
構図をどうするべきかは撮る前からある程度頭の中で「こうしてみようかな」という当たりはつけておいた方が賢明だと思います。
引いた写真では器の全貌が見えるくらい自分が下がってみればその他の空間も生まれ、そこにスタイリングをする余地が出てきます。
料理写真は料理の美味しさだけでなくその料理がいつ、どこで、誰が、どんな風に食べているのかというバックグランドも大事にされます。
スタイリングで臨場感をプラス!
構図を形成するものとしては他に、スタイリングもあります。
料理以外にある要素。下地だったり、カトラリーだったり、グラスやパン、ご飯など主役の料理を引き立たせるための名脇役達がいますよね。
この2枚の写真は似たような構図ですが、メインになっているハンバーグやサバの味噌煮以外にそれらを食べるための道具が同じ画面の中に入っていたり、後方にスープやご飯といったメインではないものも入っています。
また、ハンバーグの写真は下地が白ですが、サバの味噌煮の方は水色の布が敷かれています。メインの料理以外にいろいろなものが入っていると、それがどのようなシーンでなのか……だとか、時にはどこで食べている料理なのか……といった背景を見た人が想像できるようになり、写真に臨場感が出てきます。
よく見えればありえない配置かもしれませんが、写真の画面では舞台と同じように手前にあるものが目立ちやすいので、主役級の被写体は前の方へ、脇役は後ろへ回し、家族写真の時のように複数いる被写体は距離を空けずに近くに寄せてみましょう。
本来の食卓では、器と器は少し距離があるものですが、写真撮影で現実と同じように離して配置すると散漫な構図になりやすいので、あえて近づけてみるのもよいかと思います。
インスタグラムなどで見かけるこういったスタイリングは当然飲食店で撮ることはできないので、まずは現実にあるものを取り入れるという意味で箸やカトラリー、飲み物を入れるなど簡単なところからスタートしてみましょう。
料理を並べるときのアドバイス
あれこれものが増えるとその配置に困るものですが、2つなら対角線上に、3つなら“く”の字、4つ以上になるとジグザグにというのを覚えて置くとちょっと楽になるかもしれません。
料理写真で構図を考える時に、よく本などで見る三分割法などは正直全然意識したことはありませんが、この「対角線、くの字、ジグザグ」についてはそうなっている写真が世の中に少なくなく、みんなが無意識にやっている安定する構図なのだと思います。
構図は「その料理の魅力のどこを伝えたいか」で決める
私が主催している料理写真の教室ではよく構図について「パターンがない」という悩みを受けたりします。けど、こうして動きでみると、構図なんて無数にあるし、その料理の形状、自分が言い表したいことによって変わっていくのでパターンなんて覚えていたらきりがないと思うんです。
根本は、「写真で何を表現したいの?」ということ。したがって、構図はパターンという型にはまったものではなく、自分の思いが伝わる見方を考え、行動するというのが一番合っていると思います。
「縦?横?」「寄る?引く?」「斜め上?正面から?真俯瞰?」「スタイリングする?しない?」など自分に対して別々で問うてみて、一つずつ答えを出していけば、どうするべきなのか決まっていくのではないでしょうか。
撮影・文=佐藤 朗