自宅でも温泉に浸かりたい! 望みを胸に検索開始

ふだんはシャワー派だが、疲れている時は湯船に浸かりたい。さらに、「〇〇温泉の素(もと)」などの入浴剤を入れるとテンションが上がる。しかし、これはあくまでも“温泉気分”が味わえるだけ。本物の温泉に比べると効能も泉質も遠く及ばない。自宅まで天然温泉を宅配してくれるサービスがあればいいのに――。

あるんです! ところが、ネット検索で出てきたいくつかの会社に問い合わせると、「東京への宅配も可能だが、料金がかなり高くなりますよ」という回答。各社の料金は3万円から9万円と、かなりの幅がある。温泉地から離れている東京への配送料はどうしても高くなるのだ。

しかし、さらに頑張って探した結果、1万円台で運んでくれる会社を発見した。群馬県太田市にオフィスを構える「湯運(ゆはこび)からさわ」だ。群馬県を中心とした6つの温泉から、家庭、施設、企業などに宅配しているそうだ。

宅配当日。マンション前の道幅とホースの長さもクリア

温泉ソムリエでもある社長の川井彰さんは言う。「私自身が幼少の頃からアトピー性皮膚炎に悩まされており、学校のプールや入浴施設には入れませんでした。しかし、温泉に入ると肌が改善されていくのを実感したんです。だからこそ少しでも多くの方に温泉をお届けして、その効能を体験してほしいという強い思いがあります」

ついに、その日はやってきた。
杉並区の自宅マンションに3トンのタンク車が横付けされる。心配だった道幅も難なくクリア。

マンションに横付けされた温泉宅配専用のタンク車。
マンションに横付けされた温泉宅配専用のタンク車。
事情を知らない人が見たら、ちょっと驚く風景。ナンバーはもちろん「1126(いい風呂)」です。
事情を知らない人が見たら、ちょっと驚く風景。ナンバーはもちろん「1126(いい風呂)」です。

「ホースの長さは30mまでなんですが大丈夫でしょうか」
おっと、その問題もあったか。しかし、こちらもギリギリ届いた。うちは1階だが、2階以上の場合はポリタンクに詰め替えて台車で運ぶそうだ。

というわけで我が家の狭いユニットバスへの温泉放水が始まった。ブシャーっという派手な音が期待をかき立てる。

ホースがエントランスを通って我が家へ。
ホースがエントランスを通って我が家へ。
何の変哲もないユニットバスが温泉に変わる瞬間。
何の変哲もないユニットバスが温泉に変わる瞬間。

「今回お届けしたのは、群馬県太田市にある『百石(ひゃっこく)温泉 月見の湯』です。鉄分を含んでいるためよく温まり、肌をきれいにする成分も多く含まれています」
お湯に触れてみると、思わず「アツっ!」と声が出た。川井さん、これ当分入れないですよ。
「48℃ぐらいで湧出している源泉をそのまま運んできていますから(笑)。ちょっと冷ましてからお入りください」

温泉ソムリエの資格を持つ社長自ら給湯してくれた。
温泉ソムリエの資格を持つ社長自ら給湯してくれた。
はるばる群馬からありがとうございました。
はるばる群馬からありがとうございました。

ぬめりとほのかな硫黄臭が温泉気分を盛り立てる

すぐ入りたいからって、水道水で薄めるなんて野暮なことはしたくない。ひと仕事終えた川井さんをお見送りしてから30分ぐらい経った頃だろうか。待望の入浴タイムが訪れた。気分を高めるための温泉セットも用意している。

おうち温泉気分を高めるグッズはこれだ!

《 とっくり&ぐいのみ 》

ヒノキの桶とともに、それぞれネットで1000円台で購入できました。
ヒノキの桶とともに、それぞれネットで1000円台で購入できました。

《 ヒノキの桶 》

温泉にはやっぱりヒノキの香りが必要ですよね。これは今後も使える。
温泉にはやっぱりヒノキの香りが必要ですよね。これは今後も使える。

《 手ぬぐい 》

非売品のweb「さんたつ」手ぬぐいは人形町の戸田屋商店で作ったもの。
非売品のweb「さんたつ」手ぬぐいは人形町の戸田屋商店で作ったもの。
「さてさて~、温泉セットも揃えて万全の態勢ですよ!」
「さてさて~、温泉セットも揃えて万全の態勢ですよ!」

では、失礼しますよ。おっと、薄黄色のお湯はぬめりがあり、ほのかな硫黄臭がする。正真正銘、本物の温泉だ。これは最高すぎる。じつは数日前に転んで、目の周りにアザができているのだ。湯治効果で早く消えてほしい。

群馬の温泉に思いをはせつつ熱燗をクイっ。最高か……。
群馬の温泉に思いをはせつつ熱燗をクイっ。最高か……。

お湯に浸かりながら川井さんから聞いた話を思い出す。ある時、娘さんから「末期がんのお母さんにプレゼントしたい」という依頼があり、自宅に届けた時のこと。
「旅行好きのお母さんはとくに群馬県の温泉がお気に入りだったとのことで、その日は何度も何度も入浴して『やっぱり温泉はいいわねえ』と言いながら鼻歌を歌っていたそうです」
たかが温泉、されど温泉。人によっては、思い出作りにもなるというエピソードだ。

「いやあ、入浴剤とはまったく違うお湯でした」。
「いやあ、入浴剤とはまったく違うお湯でした」。

温泉地に出向くことを考えると決して高くない

なお、杉並区の我が家への宅配料金は1万4300円だった。同じ23区内でも群馬に近いエリアだと1万円ちょっとで運んでくれるとのこと。こちらから温泉に出向くことを考えると、決して高いとはいえないだろう。うんうん、オススメですよ。

 

湯運からさわ
群馬県太田市吉沢町3963-18 ☎080-3248-4158

取材・文=石原たきび 撮影=吉岡百合子(編集部)
『散歩の達人』2022年1月号より