海外のお客さんも歓喜する本格志向
吉祥寺駅北口から伸びるサンロード商店街を歩くこと5分。ブレッツェルの看板を掲げたドイツパン専門店『リンデ』がある。海外のお客さんからは「本物のドイツパンがある」と喜ばれるほどの本格派。全ドイツクリスチャン製パン協会のマイスター(職人の上位に与えられる称号)直伝のドイツパンが味わえるお店なのだ。
『リンデ』へ訪れたら、ドイツの代表的なパンであるブレッツェルは外せない。まずは表面の美しい光沢部分の歯ごたえを堪能しよう。口に含めば香ばしいかおりが広がっていく。ふっくらとしたホクホクの部分、カリっと仕上がる細い部分の食感の変化を味わっていこう。塩がアクセントになって味を引き締め、食欲を刺激してくれる。
ライ麦がギュッと詰まった大きなパン
200種とも1000種ともいわれるドイツのパン。ライ麦をたっぷり使っているのが特徴だ。ドイツでは寒冷な気候を活かし古くから小麦よりもライ麦がさかんに栽培されていた。ライ麦で作ると小麦粉で作られたパンのようには膨らまず、ギュッと中身が詰まった重たいパンになる。大きな塊のパンは7~8ミリにスライスして食べるのが定番だそう。また、ライ麦のパンの場合、サワー種という酵母を使うので酸味が効いた味わいに仕上がる。
ロッゲンフォルコンブロート584円はライ麦の全粒粉が100%のパン。硬さがあるのに、中はしっとりとした質感。ライ麦の全粒粉を粗びき、中びき、粉の3種類にひいてあり、口にするとツブツブとした食感があって楽しい。ライ麦パン独特の香ばしさと酸味がたっぷり。
『リンデ』の人気No.1のロッゲンミッシュブロート584円はライ麦70%のパン。酸味は少なく、硬すぎず柔らかすぎない食感で食べやすさ抜群。食事のメインにぴったりで、ドイツの伝統的な食卓にもよく登場する。何にでも合わせやすく、肉や魚、野菜、チーズをたっぷり用意してオープンサンドや、サンドウィッチにするのがおすすめ。
アルペンブロート648円はその名の通り、山をイメージした三角形のライ麦パン。南ドイツやスイス地方で親しまれている。ひまわりの種やライ押し麦、オートミールがふんだんに使用されているのが特徴だ。チーズが練り込まれているので食べやすく、そのまま食べても少し焼いても美味。
ドイツパンはライ麦をメインにした酸味のあるパンだけではなく、小麦粉がメインのパンもたくさんある。南ドイツやオーストリアでなじみのあるカイザーは小麦粉からできているお食事パン。トーストにもサンドウィッチにも合う、あっさりとした味わいが魅力。
『リンデ』のドイツパンにある人間へのあたたかいまなざし
現在『リンデ』に並ぶパンはすべて三鷹の工場で作られている。工場のある三鷹市下連雀6丁目に場所を移し、工場長・中村春一さんに話を伺う。
『リンデ』の創業は1997年。開業準備にあたり、中村さんはドイツ南部のシュトゥットガルトという都市へパン作りを習いに行った。日本のパン作りとはだいぶ違い、当時は戸惑ったそうだ。
「日本のパン業界の人たちからもドイツパンなんてやめておけ、流行らないぞとか言われましたね。今では笑い話ですが、開店当初は焼きたてを買ったのに酸っぱくて硬い、なんてクレームをいただきました。それほどドイツパンは日本にはなじみがないものでした」。
それでも「なるべく一生懸命作る」をモットーに、コツコツと作り続けた。現在は中村さんのほか、常に3~4名でパンを作る日々。
「個人的な意見よ。一生懸命になれない日もある。朝から気分がのらない日もある。失敗する日もある。ミスもありますよ。人間だからさぁ。責めたってミスするし、反省したってミスするし、ミスするなって言ったってミスするし。やった瞬間にまたミスをする(笑)。今日は何があるんだろうって思いながら工場に来ています。毎日そんな感じ」。
その口ぶりにはどんな人間も丸ごと肯定するようなあたたかさがある。
「ドイツの人がそうなのよ。塩を入れ忘れたり、違う材料を入れてしまうなんてしょっちゅう。でもね、ドイツの人は失敗すると“新しいパンができたぞ”って言うんです(笑)。なるほどと思ったね。経験って、失敗の数だと思いますね。失敗すると新しいことを発見しますから。今でも発見だらけです」。
たくさんの苦労と失敗がありつつも、人間らしさを受け入れ、認めていく中で作られてきた『リンデ』のドイツパン。だからこそ、多くの人たちから愛されているのだ。
構成=フリート 取材・文・撮影=宇野美香子