〈おすすめブックレット〉
植え升の世界へ導いてくれる『くにたちと中央線植えます植物』。生物多様性が専門の倉本宣さん(明治大学農学部教授)が、多種多様な植え升を案内、魅力を伝える。国立駅南口、旧国立駅舎のまち案内所で販売。660円。
『植え升』鑑賞~入門編~
街路樹の下に目をやると、コンクリートや石で仕切られた土のスペースがある。この土の区画を土木の専門用語では「植樹桝(ます)」 と言い、主に歩道に設けられている。本記事では今回、街路樹の下に加えて、植物が育つ土ある各所をひっくるめて“植え升(うえます)”と称して、注目してみた。
神田 ・ 神保町界隈を見渡すと、 民間企業の大きなビルや大学の校舎をはじめ、 公共施設、 集合住宅のエントランスや敷地内、あっちにもこっちにも緑があふれている。緑が多いなら、当然、植え升もたくさんあるに違いない。ここは、東京、いや日本を代表する“植え升パラダイス”なのだ。
植木の職人さんが定期的に手入れする庭園のような植え升もあれば、長い間放置されて雑草ぼうぼう、ネコジャラシ天国になっている植え升もある。また、近隣住民やワーカーが、自宅前や店先の植え升を有効利用して、好きな植物を育てている様子もうかがえる。街路樹の種類が同じでも、隣り合う植え升の中はまったく違う景色。いろんな植物がわさわさと生きている発見もある。
さらに、生物多様性の大切さを重視して、野鳥や昆虫がやってくる未来を描き、日本の在来種を植樹する通りにも遭遇。近づくと周囲の空気がすーっと変わり心地よく、チョウなどに出合える。
存在はなんとなく知っていても、名称は初耳、のぞいたことのない人も多いだろう。 そこで、 見過ごさず楽しむためのポイントをお伝えしたい。
{POINT1}街路樹
根元から枝の先まで通り全体を眺める
植え升から空へと伸びる街路樹。1升に1本だけ植えるソロスタイル、細長く大きな升に多種混在スタイルなど、街路樹と升のトータルバランスも見どころだ。冬でも緑濃い常緑樹と青空のコントラストに見ほれたり、落葉樹の枯れ葉をザクっと踏んだり、視界を広げて歩こう。
{POINT2}高層ビルの脇
ビルの裾野に広がる街のオアシス
公道と企業のビル敷地が同化して、驚くほど自然豊か。地形を生かしたゆとりある設計は圧巻で、物語あるシンボルツリー、手入れが必要なバラなど、多彩な樹種が育つ。お茶の水仲通りは、Ecom駿河台を中心に在来種を植栽。樹種を記した案内図も。おすすめは朝。
{POINT3}店の前
目の前の土で好きなものを育てる
庭がある家が極めて少なく、そこに土があるなら「何か育てたい」という気持ちが湧くのはごく自然なこと。何も生えていないより緑化にプラスになっている! 人気はアロエ。やけどに役立つ薬草で、他にも実用的な植物が多い。植えた人の気持ちを想像するのも楽しい。
{POINT4}まるでアート
ボディ全体に表現者のオーラあり
植え升の形は決まっているが、どう成長するかは植物の自由なのだ。ダンサーやゴースト、ヒョロヒョロにモクモクなど、ふっと笑えるユニークな表現に心惹かれる。艶(なまめ)か
しい容姿は道路向こうから眺めるとより美しいし、尋常じゃない生命力はグッと近づいて根の行方を確かめたい。
{POINT5}寄せ植え風
歴史や世情を植えるスペシャルな升
駅前や交差点、繁盛店前の植え升は、ギャラリーが多いせいか、作り手の気合を感じずにはいられない。行政や商店会、あるいは店主が時間をかけて築いた作品と言えるだろう。元土に特別な土や肥料を追加して、日々世話をして、独自の世界を披露している。
{POINT6}升の形
仕切り方や形状も個性は無限大!
正方形に長方形、歩道に沿って帯のように伸びるものなど、形は多種多様。さらに升の囲み方、囲む素材にも注目してみよう。さりげなくレンガを使えばヨーロッパの街角に、竹を組めば純和風になる。この違いが気になりはじめたら、もはや植え升上級者!
取材・文=松井一恵 撮影=鈴木愛子
『散歩の達人』2021年11月号より