「落ちない」大仏に行こう。

なんとなくオレも調子がでてきた。「東京散歩地図」のコースではないところに行ってやろう。男はやっぱりオリジナルだ。

オレはここに、ヘンな大仏があるのを知っている。

じつはオレは宅建試験を受験したとき、こっそりここに合格祈願をしにいったのだ。

過去に何度も顔が落ちている大仏。そしてとうとう、体がなくなって顔だけの大仏になった。もう(これ以上)落ちないという合格祈願の大仏だ。

そのまま階段を下り、不忍池に行ってみたんだが。

池の水面なんて見えないじゃん!!!

向こうに見えるビル街も、アメ横とおなじく商業地域だ。あっちに行けばなんでもありありの路地がある。この池の「縁」が、まさに聖と俗の境目だ。

蓮と蓮の隙間、たまに見える水面に、大量の鯉が集まっていて、口をパクパクさせている。
なんか怖えー。

がしかし、エルボーは愛おしそうに鯉を見ている。
「鯉のあらい」でも食いたいのだろうか。

闇市マーケットの土地は、果たして誰のもの?

そうこうしているうちに夕方。
ようやく、待ちに待ったネオンタイム。
日中は聖なる上野。
ネオンタイムからは俗なる上野。

まさに「二つの顔が隣り合わせで楽しめるのが上野散歩の醍醐味」なんですね。

……っていうかエルボーと結局こうして、真っ昼間から夕方までいっしょに過ごせたことになる。我ながらすばらしい。間をもたせることができたじゃんオレ。よし次はアメ横だ。

終戦直後の闇市の雰囲気も少しは残っているのだろうか。
そんなガチャガチャした活気がオレを高揚させる。

終戦直後の昭和22年。ここ上野駅と御徒町駅間のガード下に、猥雑な活気そのままに、闇市が長く続いていたみたいです。もっとも闇市は、もちろん東京だけの話ではなくて全国で展開(?)されていたんだけど、東京でいえば、上野のほか、新宿、池袋、渋谷、新橋など、戦前から主要なターミナル駅界隈にもあったと。

 

さてここで闇市の歴史を、オレが得意とする宅建的な視点を加えて語ってみよう。

 

まず闇市は露天マーケットではあるものの、ある程度のマーケットを展開するには空き地が必要だ。

この空き地問題は、比較的かんたんに解決できる。
だってあたり一面、戦後は広大な焼け野原だもんね。そこにあったはずの建物はきれいに(といういい方が妥当かどうかはさておき)失くなっている。焼失した建物もあれば、建物疎開として強制的に取り壊された建物もあった。

そこに人々はやってきた。

ガチャっとしているのがいい。

次に「露天マーケットとはいえ、やはりそれなりの建物が必要だ」となると建物を建てるには土地が必要になる。ではその「闇市マーケットの土地は、果たして誰のものだったのだろうか」という疑問。不動産取引では、まずもって「権利の確認」が重要だ。権利がないのに「売る」とか「住む」とかは、そもそも議論にならないはずだが。

ちなみに、このガード下周辺の権利関係はどうだったのか。「東京のヤミ市」(松平誠著/講談社学術文庫)によると

『戦争末期、東京都はガード下の変電所を守るために、周囲を強制的に疎開させていた。そして1946年秋、東京都が管理していたこのガード下の道路を、まとまった露店街として借り受けたのは、なんと「下谷引揚者会」という引揚者団体である』。

戦地や疎開先から引き揚げてきた人たち、つまりまったくの素人がまとまって、なんとか今日と明日を生き抜くために、露店街を作ったということ、らしい。

カップルで住むならこの辺だな!

アメ横の歴史に思いを馳せている間に、いつしか宵闇せまる時間になってきた。
いいぞいいぞ。

「ねぇエルボー、メシ食ってかない?」
「いいけど。」

我思う。初デートはうまくいったんじゃなかろうか。
どうする。このまま『この街もあなたも気に入っちゃった。一緒に住んじゃおうよ』 とかになったら。

 

どうするオレ。

 

よし、となれば……。この辺りじゃ物価が比較的安い東上野あたりはどうだ。昭和通りの向こう側だ。いいかもいいかも。交通の便もバツグンだから出かけやすいし、それに近くには区役所がある。同棲したとたんに婚姻届を出すことも可能だ。

東上野の平均的な家賃は……よし、1LDKで10万円台とかあるな。
1LDKでも狭くない。なぜならば、愛があるからだ。
エルボーもきっと家賃の半分は払ってくれるはずさ。
生活費はちょっと多めに出してくれるかもしれない。

だってさ。それが愛ってもんだろ。

やばい、オレは、エルボーの愛に答えられるだろうか。
いや、その問自体が、ナンセンスだ。
だってオレ自身が、愛なのだから。

 

よし、となれば今宵、エルボーとの愛を確認する義務が、オレにはある。
よし、となればメシだ。メシを食って帰らねばっ!!!
ぜったいに、メシだ。

「でさ、メシはなに食べたい?」
「あ。」
なに、「あっ」て?

「わたし明日朝、早いんだったわ。帰るわ。」
「え?」

「ごめんね。」
白いスニーカーは、あっという間に雑踏に紛れていく。

「きょうは楽しかった。ありがと」
回転が上がるスニーカー。あいつ歩くの速いな!

「また明日、カフェでね」
くるっと振り向いて手を振るエルボー。

 

エルボーはもう振り向かなかった。

「メシ食ってこーよぉー!!!」

 

かくしてオレの絶叫は、闇に消えていった。

大澤茂雄
1964年生まれ。東京・新宿生まれ。生業は宅建講師。宅建ダイナマイト合格スクールを主宰。平成元年に某大手専門学校でデビューして以来、かれこれ30年以上もこんなことをやっている。持論は「不動産なんて街があっての話だ」。街を歩くのが受験勉強だと強弁し、街角の風景を取り入れたエンタメ系講義を得意とする。相棒は「さんたつ好き」の檜木萌。待ってましたとばかり、今回の企画の原案・モデル・ロケハン・撮影などをやっている。

取材・文・撮影=大澤茂雄(宅建ダイナマイト合格スクール株式会社)

スタート:JR・地下鉄・私鉄上野駅ー(すぐ)→上野恩賜公園ー(3分/0.2㎞)→国立西洋美術館ー(2分/0.1㎞)→国立科学博物館ー(3分/0.2㎞)→東京国立博物館ー(17分/1.1㎞)→寛永寺ー(9分/0.5㎞)→旧東京音楽学校奏楽堂ー(8分/0.6㎞)→上野東照宮ー(7分/0.5㎞)→清水観音堂 ー(3分/0.2㎞)→不忍池ー(4分/0.2㎞)→下町風俗資料館ー(3分/0.2㎞)→アメ横ー(5分/0.3㎞)→ゴール:JR山手線御徒町駅今回のコース◆約4.1㎞/約1時間10分/約5900歩