美味しいのはカレーだけじゃない。『デリー 銀座店』で味わうインド・パキスタン料理
地下鉄銀座駅・日比谷駅などから徒歩約3分。こじんまりとしたビルの3階に、『デリー 銀座店』はある。ビルの前には大きな看板などもなく、知らなければ素通りしてしまいそうな立地。しかし、ランチ時ともなれば、あっという間に満席になる人気ぶりだ。
『デリー』といえば、カウンター席とわずかなテーブル席のカレーハウスとして営業する上野店をイメージする人が多いかもしれない。が、インド・パキスタン料理専門店として様々なメニューを提供する銀座店もまた、根強い人気を誇る。
店内は銀座らしい落ち着いた雰囲気で、扉で仕切れる半個室も用意されている。ファミリーやカップルなどで訪れてもゆったりと過ごせそうだ。
インド料理をたっぷりと味わえるコース料理なども用意されているが、もちろんカレー単品での注文も可能。店内の壁にはおすすめメニューなどが掲げられており、カジュアルに楽しめるのが嬉しい。
今回出迎えてくれたのは、『デリー』レストラン部取締役の田中 源さん。現社長の息子であり、4代目として『デリー』を支えるため、インドでの料理修業を経て、現在はレトルト食品の開発などに携わっているという。
さっそく田中さんに、『デリー 銀座店』に来たら食べるべきおすすめ料理を出していただいた。
やっぱり一度は食べて欲しい。『デリー』の代名詞・カシミールカレー
最初に頂くのはやっぱりこれ、『デリー』名物のカシミールカレー1020円。創業当時インドカレーと名付けて提供していた辛いカレーを、お客さん達の要望に応えてより辛く、よりシャバシャバにと、改良を重ねて行った結果生まれたのが、このカシミールカレーだ。
サラッとしたカレーソースは独特の黒い色をしていて、運ばれてきた瞬間から刺激的なスパイスの香りを漂わせている。
具材はゴロッと大きな鶏もも肉の塊が3つと、ジャガイモが1つ。非常にシンプルだが、食べ進めれば、このカレーの主役は、このインパクト抜群のカレーソースなのだということがわかる。
さっそく、ホカホカの白米にこのカレーソースをかけて食べてみると、一口目からブワッと汗が噴き出す。余計なトロミが無い分、複雑なスパイスの香りと辛さがシャープに感じられて、辛い物好きにはたまらない刺激だ。不思議なのは、激辛なのにいつまでも辛さが後を引かないこと。スッとさわやかな辛さの後には、カラメルやガーリック、ブイヨンなどが絡み合ったコクと旨味、そして白米の甘さが印象に残る。
「『デリー』のインド料理は、本場の味をそのまま再現したものではないんです」と、田中さんが美味しさの秘密を教えてくれた。カシミールカレーは、インドでは使わないラードを使用し、ブイヨンや醬油など西洋料理や和食の素材を取り入れることで、コクと旨味を強め、日本人の舌に合うカレーに仕上げているのだという。
辛いものが苦手でなければ、ぜひ一度挑戦して欲しい一皿だ。
濃厚スパイシーな『デリー』のサグカレーは、野菜が主役なのに、どっしりとした存在感が魅力。
次に頂いたのは、銀座店限定メニューのひとつ、サグカレー1120円だ。こちらにも白米がセットになっているのだが、せっかくなのでインドの手焼きパンであるクルチャ550円と、サフランライス550円を追加で注文した。
ほうれん草のピューレをたっぷりと使ったサグカレーのルーは、掬ったスプーンからなかなか流れ落ちないほどぽってりと濃厚。食べてみると、ほうれん草の香りと優しい甘さに加え、しっかりとした辛さと旨味も感じられて、一般的なサグカレーに比べてかなり食べ応えのある味わいだ。
田中さんにその理由を聞いてみると、通常のサグカレーは、色を鮮やかにするためにマサラ(スパイスとタマネギなどで作るインドカレーのベース)の量を控えめにすることが多いのだという。
『デリー』では、見た目よりも美味しさを追求した結果、マサラが多めの、濃厚でスパイシーなサグカレーになったのだという。具材の鶏もも肉は、スパイスに漬けてからカリッと香ばしく焼き上げたもので、とってもジューシー!
一緒に頼んだクルチャはほんのり小麦の甘味を感じる素朴なパンで、トロリとしたサグカレーとの相性は抜群だ。サフランライスは、バスマティライス(細長く香りのあるインドの高級米)を使用していて、何もかけずに食べても美味しい。プリプリとした独特の食感が、これまたトロミのあるカレーにぴったりだ。
こういうのが食べたかった! ソースたっぷりジューシーなタンドーリチキン
せっかく銀座店に来たなら、ぜひカレー以外のインド料理も味わってほしい。中でも人気なのが、骨付きのままカリッと焼き上げたタンドーリチキン1820円(ハーフサイズは1100円)だ。一般的なタンドーリチキンといえば、鶏むね肉を使用しカラリとドライに焼き上げているものが多いが、『デリー』では日本人の味覚に合わせて鶏もも肉を使用し、更にソースを添えてしっとりと仕上げている。鉄板の上でスパイスたっぷりのヨーグルトソースがぐつぐつ煮立つ様子に、思わず歓声を上げてしまう。
ナイフでチキンを切ってみれば、表面はパリッとしているのに、中はとってもジューシー。熱々のソースをたっぷりつけて頬張れば、まさに至福の瞬間! タンドーリチキンによくあるパサパサ感は一切なく、スパイシーでコクのあるソースは、カレーのように最後の一滴までスプーンで掬って食べてしまいたい美味しさ。お酒好きなら、ビールを頼みたくなること請け合いだ!
『デリー』が一貫して目指す、本格的なのに気軽で親しみやすいインド・パキスタン料理。
ところで『デリー』のカレーソースの一部は、レトルト食品としても購入できる。コロナ禍にはうれしい限りだが、『デリー』がテイクアウト用のカレーソースの販売を開始したのは1972年と、その歴史は古い。「レストランと同じ味を提供したい」という想いから、ほとんどの工程を手作業で行い、具材はカレーソースで煮込まないなど、一般的なレトルトカレーとは一線を画す商品づくりを行っている。
嬉しいのは、ホームページにカレーソースやペーストを使用して作れるインド料理レシピが多く掲載されていること。今回教えてもらった本格的なサグカレーのレシピが難しいと感じる人は、まずはこちらから試してみて欲しい。
さて、取材を終えるころには夕食時が近づき、店内には次々とお客さんが現れ始めた。
1956(昭和31)年の創業以来一貫して、インドやパキスタンの料理を、日本人に美味しく食べてもらえるようにと工夫し続けてきた『デリー』。かつて子どもの頃に食べた味が忘れられないと、親子2代、3代で通う常連も多いという。激辛のカシミールカレーが話題に上りがちだが、意外にその間口は広く、老若男女誰もが楽しめる親しみやすいお店なのだ。
/定休日:無/アクセス:地下鉄銀座駅・日比谷駅より徒歩約3分
取材・執筆=岡村朱万里 撮影=島村 緑