硬派な焼き鳥の聖地『五味鳥』(北千住)
北千住駅西口から徒歩3分。1980年創業『五味鳥(ごみとり)』の年季の入った暖簾(のれん)の前には、開店前から客が列をなす。口開けにして満席だ。
注文は、端の席から順に伝える。好きな部位の串に、鳥わさや鶏の一夜干し。慣れた客たちは、リズムを乱すことなくよどみなく注文する。まるで某ラーメン店で見られる“コール”のごとし。緊張しながらレモンハイを注文すると、「何杯分?」と聞きなれない返し。よく分からないまま慌てて「……2杯!」と答えると、その後カウンターから「宝焼酎 JAPAN」の瓶がドンと置かれた。この瓶に杯数分の飲み物が詰められたのだ。700mlの空き瓶に、甲類焼酎300ml(多!)、レモン果汁、東東京の地炭酸「kagetsu」を調合し、グラスと氷と共に提供。なんてスムーズなのか。
いよいよ、ネタケースに整然と並ぶ串が焼かれていく。ピカピカに磨き上げられた焼き台で、無駄なく串を焼く様(さま)は美しく、次々に運ばれる焼き鳥は大ぶりでジューシー!
レバーはとろけるように柔らかく、噂(うわさ)の味噌焼は俄然、酒を誘う。つくねには麻の実やピーマンが入り、新鮮な風味がある。驚くのは、よだれ鶏だ。しっとりした鶏肉に辛くて深いうまみのたれ、極薄切りのトマトは超絶技巧の域。まさにレストランクオリティーだ。気づけば、緊張は去り、「うまい、うまい!」を口にしている。並んでも来たい理由はこういうことだったのか。
かつては女性だけでは入りにくいと言われる硬派な焼き鳥屋だったという。2代目・渡邊基さんは、17年ほど前に入店し、2020年に店を継いだ。ホテルの中国料理店で20年にわたって腕を磨いた兄・和則さんと共に厨房に立ち、万全の仕込みで客を迎えている。
割烹の風格と町酒場の懐の深さ『串のこたに』(綾瀬)
綾瀬駅近くにある『串のこたに』は1973年創業。初代は、営業マンから転身して飲食店未経験で開業した。「目玉が必要だ」と、こたにサワー・串揚げ・本マグロの3本柱を打ち立てた。その名物「こたにサワー」の価格は1杯165円、約5杯分のピッチャーなら1杯あたり154円という衝撃の安さ。一人客で頼む強者も少なくないし、定年退職を迎えたおじさんたちだってがんがん飲み進めている。
魅力は価格破壊級の安さだけじゃないのが『こたに』のすごいところ。しっかり焼酎が入るうえ、レモンや梅など独自ブレンドのエキスが加わり、柔らかな口当たりを生んでいるのだ。
現在は和洋中のつまみを網羅する料理の方は、天然本マグロを常備し、串揚げは驚くほどサクサク! “永遠のテーマ”として、創業から粉の配合を追求し続け、白絞(しらしめ)油でカラッと揚げる。それでいてどれも良心価格で、心配になるほどだ。
2代目・小谷昭仁さん、幸江さん夫妻は言う。
「『儲(もう)けちゃいけない』が先代の口癖でした。自分だけが利益を得るのではない『三方よし』の精神ですね。値段以上のもてなしを心掛けています」
割烹のような風情の店構えと、気さくなもてなしのギャップに感激。締めのチャーハンを食べる頃には、衝撃は感動になった。
門前町の名焼き鳥酒場『三ツ峰』(西新井)
全長約1km、わずか2駅を結ぶ東武大師線。その終点・大師前駅から住宅地を進むと、赤い提灯(ちょうちん)が元気に手招きする。1973年創業の『三ツ峰』である。
店名は秩父の三峯神社にちなんだもので、初代は西新井大師の近くで屋台から焼き鳥屋を始め、店を構えた。現在は2代目・伊藤仁さん、3代目・誠さん親子が受け継いでいる。
まずは希少な生ホッピーをいただく。焼酎、ホッピー、グラスをよく冷やす“三冷”スタイルだ。なめらかな喉越しで、最後まで薄まることなく楽しめる。
そして焼き鳥は、鶏を店で捌いて串打ちし、炭火で焼き上げる。1本130円。店内だけでなく、持ち帰りの客もいるから、多い日には300本が売れる。そのため仕込みは毎日10時30分から。それでいて、厚揚げの上のショウガも、ガツ刺しに添えられるニンニクも、生から手ですりおろしたり砕いたりと手間をかける。感涙。
仁さんは店のモットーを「休まないことだね。嵐でも雪でも。そんな日でも、これまたお客さんが来るんだよ」と語る。店内は常連客ばかりでも圧がない。終始、平和で、初めてでもなじみ客のような気分にすらさせてくれる。
地元に根を張る酒場はギャップで満ちていた。手間を惜しまず、客を喜ばせる営みを、当たり前のように続けている。だから客も、応えるように一日のねぎらいのルーティーンに酒場を組み込む。その掛け合いの積み重ねに、足立区の酒場の強さを見た。
取材・文=沼 由美子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2026年9月号より






