大森立嗣 Omori Tatsushi

1970年生まれ、東京都出身。大学時代に自主映画を作り始め、卒業後は俳優、助監督などで活動。2005年『ゲルマニウムの夜』で監督デビュー。代表作に『さよなら渓谷』(13)、 『日日是好日』(18)、『タロウのバカ』(19)、『MOTHER マザー』(20)など。

映画『星の子』
愛情たっぷりに育てられた林ちひろは中学3年生。両親は、病弱だった幼少期のちひろを治した“あやしい宗教”を深く信じていた。ある日、ちひろが一目ぼれした新任のイケメン先生に、夜の公園で奇妙な儀式をする両親を見られてしまう。そして、彼女の心を大きく揺さぶる事件が起きる――。TOHOシネマズ日比谷ほか 全国公開中。
出演 芦田愛菜 永瀬正敏 原田知世 ほか
監督・脚本 大森立嗣
原作 今村夏子『星の子』(朝日文庫/ 朝日新聞出版刊)
配給 東京テアトル、ヨアケ
©2020「星の子」製作委員会
今村夏子『星の子』
朝日文庫/ 朝日新聞出版刊
──今村夏子さんの原作を読まれたとき、どのような印象を受けましたか。
大森

少女の揺れ動く繊細な心が描かれていて、結論がはっきり言われないままになっている。“あやしい宗教”についても、宗教を信じている=いじめられているみたいなステレオタイプではなく、“それって本当にいいの?” と友達が言ったり、ちひろ自身も聞かれたときに「うっ」となったり、フラットに描かれていますよね。わかりやすい言葉で言えないけれども、それでもちゃんと感情がある。そういうことを表現できるかなと思ったのがこの映画をやりたいと思った一番の理由です。言葉にしにくい部分を、映画は人間で表現するので。

──原作のなかで、この感情は理解できない、と感じた部分はありますか。
大森

小説を読むときに、論理性を持って理解する、ということはあんまりしないんですよ。“わからない感情だな”っていうのも好きなんです。わからないってことを大事にしたい。ちひろはちゃんと考えてるし、勉強もそこそこできる。ただ、両親が自分のために入った宗教で友達や先生にはあまりよく思われていない。そういう、本当に微妙なところを描きたいなと考えていました。

──頭に描いていたちひろを芦田さんが演じることで、発見はありましたか。
大森

俺はあんまり頭に描かないんですよ。だから芦田さんが役として決まった時点でもう、芦田さんがやることが基本的に全部正しいというか。どの役者さんに対しても、そういう風に作るので。ただ、芦田さんは背が小さいから、その小さい体で得体の知れない宗教とか両親の思いとかに向き合っていく姿は、上手に撮りたいなと思った。

俳優さんは肉体がすごく重要なので。考えていることとか、演技とか、もちろんあるんだけど、映像にした瞬間にそれよりも肉体が勝っちゃう。そういうのを生かしたいと、いつも考えてます。

特殊な環境にある子供たち

──原作はちひろの目線で周囲を見ている感覚でしたが、映画では大人の存在も大きく感じました。頭にタオルをのせている両親の姿も強烈で。
大森

文章で読んでいるときはそのまま受け取るけど、実際に永瀬さんと原田さんにやってもらうとなったら……。緑のジャージも、衣装合わせのとき大丈夫か? って一瞬思いました(笑)。でも、俳優さんもそれはそれで楽しみだすので。

特別な生命力を宿すという“水”、「金星のめぐみ」を頭にかけ合うちひろの両親。
──(笑)。保健室の先生も印象的でした。熱を出したちひろが「この水飲むと風邪ひかないんです」「でもやっぱり、風邪ですか?」と聞いて、「風邪でしょう」と答えるシーンが特に。
大森

あの保健の先生が、ちひろにとってはお母さん以外の大人の女性として存在していて。自分が感じていることを受け止めてくれそうな気配があるんですよ。ささいなことなんですけど、「3組の林ちひろさん?」「2組です」って、間違える。そういうところに、ちひろはどこか少し心を許せる。

──“水”のことは否定せず、風邪と判断する。このシーンは原作にはないですね。
大森

淡々としすぎても伝わらないので、ちひろの気持ちが揺れ動いているのが、少しだけ見えるようにしようかなと。大上段で助けるとかそういうことではなく、自分で判断することでちゃんと大人になれるんだよってことを、感じてもらえたらいいなって思いました。

「なんでうちの親は普通じゃないんだろう、と思ってました」

──オリジナル脚本の『タロウのバカ』や他の原作ものも、監督がこれまで手がけてこられた作品は、子供を取り巻く環境が特殊であることが多いですね。
大森

なんででしょうね、こういう作品をスッと受け入れられるのは。……自分の父親(舞踏家・俳優の麿赤兒(まろあかじ)さん)が、白塗りで踊ってるんですよ。子供のときにずっと、この人何やってるんだろうなあって思ってて。嫌だし。

──嫌でしたか。
大森

やだよ! やめろとか言えないし、言えるわけがない。でも、なんで普通のサラリーマンじゃないんだろう、なんで下駄履いてるんだろうとか、そういうのを受け入れていくのはなかなか大変だったんです。ちひろと同じで、時間をかけて受け止めていくわけですよ。その過程を描くことが難しいんですよね。

──ご自身がそのような環境を受け入れられたのはどのタイミングですか。
大森

友達が笑ってくれたときとか。「むしろすげえぞこれ!」とか言ってくれて。高校生くらいになると、そういう価値観を少しずらしてくる人たちが現れるんだけど、それまでが苦しかった。

──お父さまが主宰する舞踏集団・大駱駝艦(だいらくだかん)が『タロウのバカ』に登場しますね。
大森

そうね、今はもう、作品に出てもらうくらいになってるんですけど(笑)。

わかりやすくしない理由

──作品を観て、「親は選べないからかわいそう」と感じる人もいるでしょうね。
大森

俺は全然そういう風に思わない。それは仕方ないでしょ、という。変えられるわけじゃないし、親のせいにしても仕方ない。難しいけどね。

──映画『MOTHER マザー』のラストの「お母さん好きなんですよ」というセリフもすごいなと。
大森

あれは最後に俺が付け足したセリフなんです。夏帆さんが演じる児童相談所の職員が、偽善まではいかないんですけど、ちょっと何か……人を救えると思ってる感じが、いかがわしく感じてて。

──監督が、あえてわかりやすくせずに映画にする理由が腑(ふ)に落ちました。
大森

でも、わかりやすい作品が求められる。本当は、教育から変えなきゃいけないと俺は思ってるんですけど……。そんな大それたことはできないけど、森下典子さんのエッセイが原作の映画『日日是好日』でも言っているように、ゆっくり時間をかけてわかることがあるんだっていうことを知ってほしい。全部がツイッターとかで言えるわけじゃない。

──本をよく読まれるとのことですが、最近はどんな本を読んでいますか。
大森

最近は、昔の人のインタビュー集とかを読むのが好きです。戦後あたりの、詩人の田村隆一とか、三島由紀夫とか。意外と価値観とかが変わってなくて。その人の素直な面とか迷ってるところが見えかくれするので、面白いなと。思い返せば“凄い人”だけど、その当時生きている中では、いろんなことを考えていた、その過程が見えるんですよね。

取材・構成=渡邉 恵(編集部) 撮影=三浦孝明
『散歩の達人』2020年11月号より