坑道へ誘ってくれるのは炭鉱トロッコの人車
池島炭鉱のツアーは閉山後の2003年に開始されました。ツアーは閉山後の振興策として始まり、実際の坑道を使用してのツアーは池島ならではの体験となりましたが、2026年度末で終了予定です。あと1年を切ってしまいましたが、炭鉱遺構に触れられるまたとないチャンスなので参加しました。
ツアーは「長崎さるく」のサイトから申し込み、池島へ現地集合現地解散です。池島は船の連絡のみとなっており、時化(しけ)などで運休という事態もあり得ます。私は前日入りしていたからツアーに参加できたのですが、当日は強風による時化で全ての船が運休となり、他の参加者が来島できませんでした。日帰りでも島内宿泊でも、余裕ある日程を組むことが望ましいです。
なお、帰りは穏やかな晴天の凪でしたが、午前中にフェリーが故障してしまい、幸いにも修理が直って事なきを得たものの、危うく帰れなかったところでした(その翌日はまた時化予報で運休予定だった……)。
と、前置きが長くなったところで、ツアーに参加した体験をお伝えします。リアルに廃坑となった坑道へ入坑するのは、なかなか体験できるものではありません。
坑内体験ツアーは私1人の参加となってしまったのですが、通常は定員が20人前後となり、午前と午後の部に分かれ、それぞれ内容は同じです。ガイドは元炭鉱マンの方が説明するので、貴重な体験話が聞けます。
ツアーは最初に池島炭鉱の生い立ちと、現役時代の映像を用いて概要を学び、休憩後にヘルメットを被ります。坑内はトイレもなく食事も禁止なので、済ませることは済ませておきます。ヘルメットはキャップランプ付きで、ツアーが終わるまで被ったままとなります。
いよいよ坑内へ! 移動は炭鉱トロッコです。バッテリー機関車には作業員を乗せる人車(いわゆる客車)が連結され、ドアもない骨組みの車両に乗車します。坑内を走行した車両のため小さく、屋根は鉄板剥き出し。中腰で座ろうとすると頭を打ち、早くもヘルメットに助けられました(笑)。
軌道は前回紹介したもので、一見すると廃線跡のような線路を走行します。レールの繋ぎ目と路盤の振動が直に伝わり、旅客車両では味わうことのできない小刻みな揺れに驚きました。
この軌道は本来の役目を終え、いわば廃線跡となります。それがツアーとして復活して生かされていることに感動しました。軌道は貯炭場の真下へと延び、その先はトンネルの坑口が口を開いていました。水平坑道です。
坑道は閉山後にコンクリートで坑口を堅く塞いで密閉するため、全国各地にあった坑口はどこも密閉されているはずです。池島炭鉱も海底へと続いていた坑道のほとんどは密閉されましたが、閉山後も鉱山技術を学ぶ技術支援施設となり、現在はツアーとして一部の坑道が活用されているのです。人車に揺られ、坑道へと吸い込まれながら、こうして入坑体験ができる。なんとも言えない高揚感に包まれます。いま走っている軌道は廃線跡であり、島内唯一現役の鉄道でもあります。廃線ファンの目から見ても興奮します。
模擬坑道で掘削技術と緊急事態の対処を学ぶ
高揚感に包まれているのも束の間、人車は300mほど坑道を走行して停車しました。直前にトンネルが二股へと分岐し、地面に埋もれかけたレールが右へと分かれていくのが非常に気になります。ツアーは「坑内体験」と銘打っているだけあって、レールよりも坑内作業に重きを置いています。ガイドさんに置いてかれないようついて行きましょう。
坑内はコートを着ているためか寒くもなく暑くもなく、温度計は摂氏11℃を示していました。外気温とさほど変わらないですが、夏場は摂氏20℃ほどで涼しいとのことです。軌道を辿りながら坑内を進むとまた二股へ分岐しており、左手の軌道はプツッと途切れています。いいねぇ、こういう途切れ具合。レールがしっかりとした車止めで終わるのではなく、前触れもないままにプッツリ途切れる姿は大好物です。
レールの先の坑道は閉塞していました。ここは石炭採掘の研修用に用意された擬似坑道で、大型の掘削機械が鎮座し、坑道を支える支柱が並びます。掘削機械は先端が強靭な爪の付いたドラムカッターで、回転しながら岩石を掘削し、石炭を掘り続けていきます。機械は眠りについていますが、ひとたび動けば相当な音と振動が坑内に轟いたのでしょうね。
擬似坑道ではガイドさんから支柱の設置方法のレクチャーを受け、さまざまな設備の説明を聞きます。全てを紹介すると、今後ツアーに参加されるかもしれない方に楽しみと驚きが減ってしまうので割愛します。
ひとつだけ。あるタイミングで照明が落とされます。というのも、坑内は観光用に照明が追加されて煌々と灯されているのですが、実際の坑道は真っ暗でした。
「このキャップランプだけで作業したのですよ」
とガイドさん。頭に取り付けたキャップランプが頼りだったのです。光量はそれなりにあるのですが、光軸が直線的に灯されるため、周囲が闇に包まれていると思うと、どうしても恐怖感がじわりと伝わってきます。
坑内は事故発生を想定し、いくつもの安全対策が施されており、緊急避難所になっていた坑内救急センター跡地も見学できます。地上では常にモニターで坑内を監視し、不測の事態が発生した際はすぐ救助活動が実施される体制でしたが、場合によっては救助に時間がかかります。その間に酸素不足や光源の喪失などならないよう、至るところにある酸素の管を使用し、複数人の場合はどちらかのライトを消す。そうやって生命線を確保し、しばらく坑内へ滞在せざるを得ない場合も想定し、要所に緊急避難所が設置されていました。
海底へと掘り進められていった坑道には、炭鉱マンを守るための設備がいくつも用意されていたのです。
気になる軌間は610mmか?
坑内探検ツアーは時間に限りがあります。“廃なるもの”の視点でササっと見ていきますと、やっぱり気になってしまうのは坑道内の軌道です。ツアーは見所が多く実測できなかったのですが、軌道幅は610mmくらいだろうかと推測しました。
池島炭鉱の現役時代末期、海底坑道へと迅速に輸送する高速人車が2編成導入され、その軌間が610mmでした。この高速人車の愛称は「女神号・慈海」と呼び、第2立坑前の銅像が由来だといいます。車両はドイツ製で、VVVFインバータ制御の蓄電池機関車は時速50kmという高速運転が可能でした。ガイドさんに尋ねたところ「高速人車はもう無いんですよ」とのこと。高速人車がどんなものか見たかったです。
軌道は斜坑にも敷かれており、かつては人車がケーブルカーのように昇降していました。斜坑は200mほど先に明かりが見え、現在も外界と繋がっています。軌道のレールも光の先へと続いていて、その先が気になりますが現在は立入禁止となっています。
坑内のレールを観察できるのもツアーならではの体験です。残念なことにツアーは2026年度末で終了してしまいますが、あと1年間はツアーで炭鉱を体験できます。
坑道ギャラリー
取材・文・撮影=吉永陽一








