小出祐介

1984年12月9日、小岩生まれ。バンド「Base Ball Bear」ギター・ボーカル、音楽プロジェクト「material club」主宰。2001年にBase Ball Bear結成。ほかアーティストへの楽曲提供など幅広い活動を行う。

子供の頃から、どこか緊張感のある街でした

—— 小岩での少年時代について聞かせてください。

小出 この辺は学区が細かく区切られているせいか、小学生の頃なんかはどこの子も縄張り意識が強かったなと。「ここの学校の子たちは、この駄菓子屋」という暗黙のルールがあって、その狭間(はざま)の駄菓子屋に行くのはちょっと勇気が必要。他校の子と鉢合わせたりしたら、ヒリヒリした空気が漂うなか、知らぬ顔同士で駄菓子を選びつつ、無言で意識し合う、みたいな感じでした。子供にとっても、どこか緊張感のある街でしたね。

—— 血気盛んな子も多そうですね。

小出 正直、多かったです。同級生もどんどんヤンキー化していってしまう(笑)。僕は中学から私立の学校に行ったので、地元の友人とのつながりはそこまで強くないんですけど、それでも「あいつまでヤンキーに!?」みたいな情報を度々聞いていましたね。

—— 何やら象徴的なエピソードがあるんだとか。

小出 おしとやかで文化系、図書委員で飼育係、みたいな、黒髪ショートで背が高い同級生の女の子がいて。学校じゃ恥ずかしいからって、バレンタインに家までこっそりチョコを持ってきてくれたりした、淡い思い出があるんですけれども。卒業後、彼女は地元の公立中学へ進んで、僕は私立なので会わなくなってしまった。高校生になり、シュウちゃんという同じクラスの友達ができて。彼は地元が小岩だったから、よく遊ぶようになったんですね。「シュウちゃんと定期テストの勉強してくる」と親に言って、夜中、コンビニで何か買って公園で食べたり、語らったりしていて。

—— 誰しもが経験するやつですね。

小出 はい。で、ある日、いつものようにシュウちゃんと夜中に、「寒いからおでんでも買おうか」とコンビニに入ろうとしたら、入り口前にしゃがんでおでんを食べているガングロギャルがいて。蛍光ピンクのミニスカートに厚底ブーツの。そのギャルが「おっ、シュウちゃん!」って声をかけてきたんです。彼の中学の同級生だったんですね。そしたら今度は、僕を見て「あれ? 小出じゃん」って。自分にはガングロギャルの友達なんていないはずだったから、一瞬戸惑ったんですが……。

—— 嫌な予感がしてきました。

小出 その子が、あのおしとやかで文化系な子だったんですよ。

——やっぱり……。

小出 ちくわにかぶりつきながら、池袋のマクドナルドでバイトしてるって言ってましたね(笑)。どんなにおとなしかった子でも、いつからかシャカシャカのジャージを着て、軽自動車のダッシュボードに雪みたいなものを積もらせたりしますから。

—— そんな環境のなかで、小出さんご自身はどんな感覚で小岩と向き合っていたんですか。

小出 自分は絶対にヤンキーになりたくなかったんですよ。地元にいながら地元に染まりたくない気持ちがすごく強くありましたね。

—— 小岩に対して、苦手意識があった?

小出 いえ、当時も今も地元のことは大好きで、愛着はあるんです。でも同時に、コミュニティーの狭さみたいなものも感じていて。下町の良いところでもあるけど、外に向かうエネルギーよりも内側の結び付きが強いというか。好きだけど、ずっとここにいたら、一生出ていけない気がしていましたね。

小岩で育まれた自身の音楽性

——そういう街で育ったことは、ご自身の音楽作りや歌詞を考えるに際しての言葉選びに何か影響していると思いますか?

小出 精神的な部分への影響は大きかったでしょうね。小岩は、とにかく緊張感がありますから(笑)。あと、祖母が「孫に地元に染まってほしくない」と思っていたみたいで。祖母の要望で私立中学に行きましたし、教育方針として、図書費がお小遣いとは別だったので、本や漫画やCDを買ったり、レンタルビデオをじゃんじゃん借りてくれていて。そういう文化的な家庭環境と、外とのギャップをすごく感じていたからこそ、音楽をやり始めてからは、自然とポップなものを作りたくなったのかもしれないですね。

——Base Ball Bearの楽曲から感じるポップさやクレバーさは、街で受け取っていた緊張感への反動でもあるんですね。

小出 ただ、僕らは元々「カウンター」の立場のバンドでもあるんですよ。トレンドの音楽やサウンドに対して、それらを観察していきながら、どういうものを作るかを考えているんです。ポップになるのは、中身のエッジを伝えやすくするための手段でもあって。こういうスタンスになったのは、この街の出身だからかもしれないですよね。「周りとは違う」とか「周りを見ている」ということへの意識が強いです。

—— 少年時代、小岩に音楽を始めるきっかけとなるような場所や環境はありましたか?

小出 子供の頃は、街のCDショップというのが割とあるエリアだった気がしますね。「SOUND STUDIO M」という老舗の音楽スタジオもあって。系列店舗の「SOUND STUDIO M2nd」、通称「M2(エムツー)」で高校生の頃はよくバンド練習をしていました。まさに今日行った『鳥勢』がある昭和通り商店街を通って行くんですよ。放課後でおなかもすいてるし、『鳥勢』で焼き鳥を買い、向かいのコンビニでおにぎりを買い、「M2」の煙たいロビーで、画面がヤニだらけのTVで流れる知らないメタルバンドのドキュメントを観ながら食べてましたね。『鳥勢』は安くておいしいのですごく助かっていました。

思い出深いスタジオ「SOUND STUDIO M2nd」の跡地にできた『Studio 2Times』前でパシャリ。
思い出深いスタジオ「SOUND STUDIO M2nd」の跡地にできた『Studio 2Times』前でパシャリ。

——ちなみに、街そのものを描いた曲ってありますか? たとえば「short hair」の一節に出てくる「地元の土手で見る夕日」は、やっぱり江戸川なんですか?

小出 あ、確かに。意識していなかったのですが、江戸川なんでしょうね。江戸川の土手で、夕日に染まる街を眺めるのが好きでした。あの景色を見ていないと、あのフレーズは浮かんでいなかったでしょうね。でも、「short hair」くらいかな。直接的に“小岩”や“地元”を題材としている曲はないかもしれません。僕の原風景ってなにせ下町ですから、そのまま書いたら『こち亀』みたいになっちゃうので(笑)。

今この街に漂う、漂白されていくような気配

—— 小岩には、今もよく帰ってこられるんですか?

小出 20~30代の頃は全然帰ってなかったんですが、最近は1年に数回は帰ってきています。実家はJR側ではなく、京成線の小岩駅寄りで、帰ってきても実家周辺のエリアにいることが多いですね。もう20年以上、小岩の外で暮らしているからこそ、子供の頃に過ごした小岩の印象がなかなか抜けなくて。たまに帰ってくるたびに「あのお店なくなったんだ」とか「こここうなったのか」とか、変化は常に感じているけれど、それでもタワマンが立っていることには毎度新鮮に驚きますね。

—— タワマン、この辺りにもちらほらと見かけますね。

小出 すごいデカいタワマンが立つっぽいですね。商業施設も入るらしいです。小岩は昔から商店街の数も多いし、個人商店も多い。僕の実家も商店街にある個人経営の金物屋なので、実家もお店、その周りもお店。JRの駅前から延びている大きな商店街は「フラワーロード」っていうんですけど、歴史の長い商店街の真ん中にズドン! とタワマンができたんです。10年くらい前かな。それから、周辺が次々と開発されていって。小岩って都内だけど、下町ならではのローカル感が結構あるじゃないですか。

—— ええ。店や人を見てもそう感じます。

小出 そうなんです。それが、漂白されていくような気配を感じ始めてますね。

やっぱり小岩にいると落ち着きます

—— 現在の小岩は小出さんの目にはどのように映っていますか?

小出 すごくとっつきやすい雰囲気になりましたよね。駅前もとてもきれいになっていて、「人を受け入れようと両手を広げている街」になっているなと感じました(笑)。でも、僕が育った小岩は「自分が異質」だと自覚できるくらい変な街だったわけで。小岩にしかない、良くも悪くもエグみがあった。今はどこもそうかもしれないですけど、便利できれいになる代わりに、「そこにしかないもの」が薄れていってしまっている気がします。だからこそ、たまに帰ってきた時に散歩して、一本狭い路地に入ったところで、昔と変わらない景色を見つけたりするとうれしくなりますね。ここは自分の縄張りでもあったんだなと、今では思います。

小出さん思い出の味!『鳥勢』

「この辺でいまだにやんちゃなやつらはみんな服役経験あるんだよ」と笑う店主の糸田正樹さん。もも肉、皮、白モツなど1本80円~で、セルフで注ぐ酒を片手に気軽に立ち飲みできる焼き鳥店。

住所:東京都江戸川区南小岩7-23-19/営業時間:15:00〜20:00LO/定休日:日/アクセス:JR総武線小岩駅から徒歩2分
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Base Ball Bear

2026 年1月28日 ミニアルバム『Lyrical Tattoo』リリース
&リリースツアー開催!

ミニアルバムには、ダウ90000の演劇公演「旅館じゃないんだからさ」の主題歌として書き下ろされ、2025年8月に配信リリースされた「夏の細部」を含む全7曲を収録。通常盤(CD)は2750円。なお、このアルバムを引っ提げた全国ツアー「Base Ball Bear Tour Lyrical Tattoo」の開催も。
詳しくはオフィシャルサイト(baseballbear.com/)をチェック!

取材・文=重竹伸之 撮影=三浦孝明
ヘアメイク=高城裕子
『散歩の達人』2026年1月号より