マティス展の横で見つけた入場料10円(実質無料)の『和様の書展』
東京都美術館で開催中の『マティス展』を見に行き、人の多さに恐れおののき、ロビーのソファで肩を落としているとき、ふと目に入った「いまよう」の看板。うまいんだか下手なんだかよくわからないけど、やけにかわいい字だ。『今様の書展』ってなによ? 気になるではないか。
受付で確認したところ、招待券が偶然入り口にあるため、実質無料とのこと。こわごわ中を覗いてみると、そこにあったのは、いわゆる書の展覧会とは全く違う、自由で、かわいくて、カラフルで、笑える書の数々。
というわけで、いきなりだが、目に付いた作品を紹介していこう。
まずはこいつに引き込まれた。キースへリングのようであり、谷岡ヤスジのようでもあるが、あきらかに両者ともに違う。4辺を織り込んだ仕上げもしびれる。
お次は、アクリル板の中にドライフラワーと一緒に飾られた「宇宙とひとつになれるゆっくり体操。」。なるほど。
こちらは大賞30万円(!)を獲得した作品。なぜ「曜と響」なのかは、よく見ればわかります。
ネコの写真を和紙にプリントしたものに文字が書かれた作品。ここまでくると、書というよりも、レイアウトとかフレームワークとか、そういう問題か。
文字を書くのは紙だけではありません。こちらは皿に書いて焼き上げた作品。「青菜をつまみに一献!」実用的ですね。
え、Tシャツ? そうTシャツです。新潟県の燕温泉を表現したものだそうですが、よく見るとUT。もうなんでもありですね。
洋画家・高橋由一の有名な絵をモチーフにした作品。「鮭」という字の分解の仕方にひねりがあって感動しました。個人的には高ポイントな作品。
親鸞上人が書いたとされる正信偈(しょうしんげ)を掛け軸仕様に。これが床の間に飾ってあるようなお茶会ならゆるゆるリラクッス気分で参加できそうだな。お茶やらないけど。
「そりゃそうだろ?」と突っ込んだあと、タイトルプレートを見てツボった。
これを家に飾る人って大物だと思います。
で、扉をあけたらこれがあったりして……。到底使う勇気はありません。
以上がメインの展覧会『和様の書展』から。ここから先は、同時開催の「#クセ字コンテスト」でツイッターなどで集まった一般参加の作品。作品は小さいけれど、結構いい味出ていたのでこちらも紹介します。
『#クセ字コンテスト』もニンマリの連続
見た瞬間大爆笑。タイトルを見てまた爆笑。
確かにそっけないですね。
かゆいのはお尻のほうでは?と突っ込みたくなった。
なんだかわからんけど、目立ってた。
なるほど~。
完成度高い。横光利一の作品から。万年筆の字が美しい。
あふれ出るパッションを感じますね。
おっと、いきなり著名人登場!しかも規定の紙に書いてないというルール無用の狼藉。でもこれはこれでかわいいか。
主催者・うどよしさんに聞きました
と、まあ「和様の書展」本展が公募50点にプロの作品20点、「クセ字コンテスト」のほうはが110点で計180点の和様の書が楽しめるこの展覧会。なにがどうしてこうなっているんでしょう? 主催者の書家・うどよしさんにお話を伺ってみました。
武田 いやもう本当に面白いですね。
うどよし ありがとうございます。
武田 第11回って書いてありますが、結構長くやってるんですね。
うどよし はい、年に1回。コロナ前までは会場が東京芸術劇場でしたが、2022年からここでやらせてもらってます。
武田 出展されているのはどういう人なんですか?
うどよし 私の書道教室の生徒さんが8割。あとは一般の公募です。
武田 うどよしさんの書道教室ではこういう字ばっかり教えてるんですか?
うどよし そうです。誰でも読める現代文を書くのが特徴です。書道初心者が苦手な、はね、はらいも少ないです。
武田 書かれている文字もモダンというか、ものすごく身近な題材ですね。
うどよし おもしろいでしょ。現代文を書で書きましょう、というのが私の流儀なんです。
武田 現代文を書で……って、そんなに特殊なことなんですか?
うどよし そう、子供の書道はちがいますが、本格的な書は、古文や漢文を書くものなんです。こむつかしい話をすると、明治の言文一致運動で口語が書き文字になったわけですが、ちょうど活字技術が西洋から輸入された時期と重なったので、筆で現代文を書く必要がなくなった。だから、書は現代文を書かないんです。そして、時代を経るにつれて皆さんが書を身近に感じられなくなった。でもそれってだめじゃん、というのが私の主張です。
武田 なるほど、そして、このうどよしさんの作品は飛ばしてますね。
うどよし 現代アートはデュシャンの便器から始まってますから。
武田 それはなんとなくわかります。でもこの「ゑ」というのは?
うどよし この「ゑ」は実はプリントなんです。そこに私かじかに書いた「1/48」というサインこそが書の特徴である「一意性」を体現しているということを表した作品となります。
武田 すいません。なに言ってるのかよくわかりません(笑)。でも、きっと説明してもらってもわからないと思うので大丈夫です。そして全体的に説明がなくても十分楽しい展覧会ですね。最後になりますが、この紙袋にお〇じギャグ炸裂の絵と文字を書いているのも作品ですか?
うどよし これは神田の焼肉屋のご主人の作品で、おみやげ用の紙袋にこういうの書き始めたら、おみやげがすごく売れるようになったと。
武田 なるほど~。書には経済効果もあるようですね。
うどよし 書って本来これぐらい身近で、見る人の心にアピールするものだったと思うんです。現代文の書で、それを皆さんに伝えられたらいいなと思っています。
武田 今日はいいものを見せていただきました。ありがとうございました!
というわけで東京都美術館の『和様の書展』、超おすすめです。偉業というか異形というかその中間というか。『マティス展』で人疲れしたら、ゆっくり見られてしかも実質無料のこちらも覗いてみてくださいませ。
取材・文・撮影=武田憲人(さんたつ/散歩の達人統括編集長)