「おしゃべりな芸術祭」とは?
2020年11月、「アートパラ深川おしゃべりな芸術祭」が初開催された。会場は門前仲町、清澄白河、森下と広域に及び、障がいのある人たちのアート作品を街のあちこちに展示した市民芸術祭だ。なぜ深川でこのような取り組みが実現したのか、デザイナーで総合プロデューサーを務める福島 治さんに話をうかがった。
「私は15年以上、障がいのある方の創作活動を支援してきました。彼らの中には、色に対して敏感だったり、自然の移り変わりを感じ取れたりと、繊細な感性を持つ方が多くいます。また、うまい絵を描いてほめられたいのではなく、描きたいものを素直に表現する。それが見る人の感性を刺激するのでしょう」
福島さんのオフィスには、障がい者の絵画がいくつか飾られていた。写実的で精巧な絵という感じではないが、思わず「いいですね!」と、アートの素養がなくとも、つい声を出させる力があった。
ところで、このイベントには、「おしゃべりな芸術祭」というタイトルがつけられているが、どういうことだろうか。
「美術館と違い、街中では鑑賞しながら会話が弾みやすい。そして、街の人と遊びに来た人が偶然出会い、そこにも会話が生まれます。そんな自然におしゃべりをするきっかけをつくりたいのです」
他人と同じアートを見て、「ものの見方は多様だ」「自分は偏見や思い込みにとらわれている」と気づくのは、多様性社会実現への第一歩と言える。何をすればいいのかわからなくても、目の前にある作品を介せば、そこにコミュニケーションが生まれる。これも、アートの持つ力なのだ。
芸術祭が実現できるもう一つの理由
この芸術祭の驚くべき点は、それだけではない。富岡八幡宮と深川不動堂をはじめとする神社仏閣や、清澄庭園、複数の商店街を巻き込む大規模なイベントながら、市民主催で資金ゼロからのスタートだったという。
「ボランティアを募ったところ、600人も集まりました。『今年はもっと手伝いたい』という人が増え、実行委員は80人を超えています」
老舗呉服店『田巻屋』代表の田巻雄太郎さんは、今年の実行委員長だ。店は深川資料館通りにあり、この通りは「かかしコンクール」でもよく知られる。同店は、小学校へかかしの骨組みを提供するなど、地元へ取り組みも熱心に行っている。
そうか、わかった。この街のためならば、と協力を惜しまない心意気。粋で心優しい下町人情が、こうした市民協力型のイベントとなじむわけだ。互いに支え合う社会の原点が、深川にはある。
取材・文=木村悦子 撮影=加藤熊三 写真提供=アートパラ深川おしゃべりな芸術祭実行委員会
『散歩の達人』2021年7月号より