お話を伺った人
小谷輝之さん
1972年、東大阪市出身。大学卒業後、上京。出版社勤務を経て、2022年4月に葉々社を開業。新刊・古書を扱う書店のほか、小規模出版も手掛ける。2025年3月、開業までの道のりと、開業してからの日々を記した『本をともす』(時事通信出版局)を上梓。
本がたくさん売れる本屋になりたい
『葉々社』が企画する「梅屋敷ブックフェスタ」は、2025年11月に第10回が開催された。23年の夏に始まったこのイベントは、翻訳家が参加する回と、独立系書店や小規模出版社が参加する回を交互に開催。第10回は翻訳家の回で、参加したのは英米文学だけでなく、ポルトガル、アラブ、イタリア、韓国と多彩だ。翻訳家は自分が翻訳した本を各々のブースで販売し読者と交流する。座談会では、あまりなじみがない言語圏の文化や背景の話に、多くの人が聞き入った。
『葉々社』の文芸のラインアップは、海外文学が充実している。「日本の作家は少ないんですよ。自分があんまり読んでこなかったので。選書して並べるときに、誰と誰の本を隣に置けばいいか分からなくて」と店主の小谷輝之さんは話す。アメリカ文学を読み始めるきっかけになった翻訳家の柴田元幸さんが、開店間もないころに来店し交流が始まると、海外文学の裾野を広げたいと思うようになった。
「海外文学を熱心に置いてることを発信すると翻訳家の方が見つけてくれるようになったんです。自分が発掘してたのが、向こうが発掘してくれる」
イベントでは、翻訳家自身に手売りしてもらう。
「人となりを知って、その方のファンになったら応援したくなり、新刊が出たら手に取ってくれるかもしれない。仮説ですけど、そう信じてます。だから翻訳家の方に表に出てきてもらいたいんです。僕も汗かきますけど、翻訳家にも汗をかいてもらう」
店舗の2階の分室では、「○○の日」として、出版社や著者と対面で話す会を開催している。
「一般的なトークイベントは、話す人、聞く人、と一方通行になりがちなので、それを解決したいなと思って。著者や編集者が座ってるので会いに来てくださいという趣旨ですね。歌人の穂村弘さんのときは、人生相談してる人の話を同席してるみんなが聞いてました。見ず知らずの人が集まって、予想できないことが起こる。豊かな時間だなと」
分室では、おやつを持ち寄って最近読んだ本についてなどを話す「本とおやつ」、本づくりや本屋を自分でやりたい人の相談に小谷さんが応じる「本屋と相談」などを月に1回程度開催。4〜5人が本屋を開業したという。
「本屋としての目的はただ一つ、本をもっと売りたいということなんです。残念ながら並べてるだけだとまったく売れないんで、どうやったら本に興味をもってもらえるかをいつも考えています」
5坪の広さに2500冊が並び、雑誌や漫画は置いていない。値が張る単行本を買ってもらって売り上げを上げないと、店を存続できないのが現実だ。
「万人向けの本屋ではないですね。店に入ってきて5秒で出て行く人もいっぱいいますから。開店当初は、単価が低い文庫本は少なかったんですけど、若い人たちが1冊でもほしいと思えるものを置きたくて増やしました。そういう気持ちの変化はあります。お客さんのために何ができるのか、考え続けたのが、今のラインアップ」
本は、どの店で買っても内容は同じ。だから、この店で買いたいと思ってもらえるように、売る側で意味づけをする。小谷さんはいま、思いつく限りの種を蒔いている。日々、根気強く、各方面に気を配り、いかに豊かな土壌をつくるかが、腕の見せどころだ。
葉々社
人文、社会科学、自然科学、海外文学、詩歌、写真など、店主が厳選した本が揃う。奥には小上がりがあり、壁面は展示スペース。「小さな海外文学」シリーズなど自社出版も多数。
取材・文=屋敷直子 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2026年2月号より







