ラズウェル細木 著、スズキナオ・パリッコ 選・文『そこそこでいいんだよ 「酒のほそ道」の名言』(太田出版)

一期一会な日常の楽しみと、その美学を分かち合いたい

ラズウェル細木 著、スズキナオ・パリッコ 選・文/太田出版/1980円。
ラズウェル細木 著、スズキナオ・パリッコ 選・文/太田出版/1980円。

グルメ漫画『酒のほそ道』の数ある場面から厳選した、酒飲みに染みる名言集。解説するのは、酒場ライターのパリッコ氏と、『散歩の達人』本誌でも連載中のライター・スズキナオ氏。パリッコ氏は2025年11月号の池袋特集にも登場し「ロサ会館」を案内してくれた。施設内のボウリング場ではお酒を飲みながらプレイし、写真ではそれこそ漫画かと思うくらい完璧なフォームだったが、叩き出したスコアはなんと54だった。さすがに低すぎる!

話は逸れたが、この漫画の主人公・岩間宗達たちもさまざまなシチュエーションでお酒を飲んでいる(さすがにボウリング場はなかった)。お酒好きなら思わず唸(うな)ってしまう“あるある”に富んだ場面が数多く登場するのだが、共通して感じ取れることは彼らの「創造力」だと思う。彼らはお酒だけを楽しんでいるのではない。料理、人、場所、季節、時間、さまざまな要素と寄り添いながらお酒を飲んでいる。贅沢(ぜいたく)をするわけではない。日常そのものを創意工夫しながら楽しむ。さすが酒呑みだな!と突っ込みたくなる行動も愛おしい。

私もお酒が好きだが、「どんなお酒が好きですか」と聞かれると、いつも適当なことを答えてしまう。ワインとかですかね。日本酒も好きです……。そんなの気分次第だ。誰かが「生ビールの人~?」などと言えば周りにあわせて手をあげてしまう。むしろ「ボウリングをしながら飲むお酒です」と答えるのが一番適切なのかもしれない。どんな場面でどのようにお酒を楽しんでいくか、その美学を再認識する一冊だ。(小野)

再開発によって日々風景を変える池袋の街のなかにあって、50年以上も変わらぬ姿で人々に娯楽を提供し続けてきたロサ会館。そこには今なにがあるのか? ディープさと新しさが入り混じる魅力のスポットの全貌に迫る。
東京に住んでいた頃、家の近所を隅田川が流れていた。川沿いの遊歩道を散歩したり、橋の上から水面を眺めたりする時間が日常の中にあって、いつも心が落ち着いた。その後、何度か引っ越して川から離れた場所で暮らしてみると、自分にとって、流れる川を気が向いた時に見ることができるということが、思っていた以上に重要なことなのだと気がついた。大阪に移り住むことになり、ほとんど土地勘のない状態でやってきたのが大川という川の近くの街だった。大阪で最も広く知られる川と言えば淀川だと思うのだが、大川はその淀川の支流である。そもそも、淀川が明治時代の大規模な治水工事で現在の位置を流れるようになる前、淀川の本流だったのが大川で、そのため大川は“旧淀川”とも呼ばれており……と、細かい話はいいのだ。とんでもなく川幅の広い淀川を土手からぼーっと眺めるのも好きだが、大川は私にとって、もう少し身近に感じる川なのである。その大川沿いを散歩していて、時々見かけるのが「大阪ダックツアー」の車両だ。高さは3.65mあり、一般的なバスよりも大きい。車体にはカラフルなラッピングが施されていて、牛乳パックを横にしたような独特の形状をしている。この車両は水陸両用で、大阪の街なかを走り、そのまま大川に入って船となり、優雅に川の上に浮かぶことができるのだ。

辛島いづみ『松本隆と風街さんぽ』(文藝春秋)

辛島いづみ 著/文藝春秋/1650円。
辛島いづみ 著/文藝春秋/1650円。

作詞家・松本隆は変わりゆく街並みの中で何を思うのか。南青山、新宿、鎌倉、京都……氏の代名詞である「風街」をめぐる一冊。街ごとに語られる氏の思い出話は文化的遺産のようで、ファンにはたまらない逸話ばかりだ。「聖地巡礼」という言葉が定着したいま、改めて楽曲を聞きながら巡るのも楽しい。風をあつめながら。(中島)

井川直子『小さな店をつくりたい 好きな仕事で生きる道』(家の光協会)

井川直子 著/家の光協会/1760円。
井川直子 著/家の光協会/1760円。

多様な価値観が尊重されるようになった現代で、“自分らしく”生きることを選んだ10坪程度の飲食店の物語。仕事柄、私も多くの個人店と接するが、本当に店の数だけ人の人生があるな、と痛感している。その人柄や哲学に触れ、自らの人生も見つめ直せる一冊。『デリカ』(『散歩の達人』2026年2月のP.87)も掲載されているので、合わせてご覧ください。(高橋)

日野原健司『モチーフで読む浮世絵』(筑摩書房)

日野原健司 著/筑摩書房/1210円。
日野原健司 著/筑摩書房/1210円。

富士山、幽霊、遊郭など、浮世絵を“モチーフ”という観点から分析。数ある題材から見えるのは、江戸の人々のイカした暮らしぶり。映える景色や美男子の大首絵など、さながらSNSを見ているかのよう。鬼や河童も生き生きしていて、そこにちょっぴり憧れます。妖怪のみなさん、現代でも元気に振(ふる)舞(ま)ってもらいたいものです。(守利)

『散歩の達人』2026年2月号より

『散歩の達人』本誌では毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している。街歩きが好きな人なら必ずや興味をそそられるであろうタイトルが目白押しだ。というわけで、今回は2026年1月号に書評を掲載した“サンポマスター本”4冊を紹介する。
文学作品の表現の一節に“散歩”的要素を見出せば、日々の街歩きのちょっとしたアクセントになったり、あるいは、見慣れた街の見え方が少し変わったりする。そんな表現の一節を、作家・書評家・YouTuberの渡辺祐真/スケザネが紹介していく、文学×散歩シリーズ【文学をポケットに散歩する】。今回は、織田作之助、太宰治、永井荷風、西行の作品・文章をご紹介します。これまでの本シリーズでは、キーワードを設定して、散歩に役立つ気持ちや視点を考えてきました。だが散歩とは具体的な「場所」あればこそ。そこで今回は「聖地巡礼」をテーマに、東京や上野といった実在の場所を描いた作品を味わってみたい。