ラズウェル細木 著、スズキナオ・パリッコ 選・文『そこそこでいいんだよ 「酒のほそ道」の名言』(太田出版)
一期一会な日常の楽しみと、その美学を分かち合いたい
グルメ漫画『酒のほそ道』の数ある場面から厳選した、酒飲みに染みる名言集。解説するのは、酒場ライターのパリッコ氏と、『散歩の達人』本誌でも連載中のライター・スズキナオ氏。パリッコ氏は2025年11月号の池袋特集にも登場し「ロサ会館」を案内してくれた。施設内のボウリング場ではお酒を飲みながらプレイし、写真ではそれこそ漫画かと思うくらい完璧なフォームだったが、叩き出したスコアはなんと54だった。さすがに低すぎる!
話は逸れたが、この漫画の主人公・岩間宗達たちもさまざまなシチュエーションでお酒を飲んでいる(さすがにボウリング場はなかった)。お酒好きなら思わず唸(うな)ってしまう“あるある”に富んだ場面が数多く登場するのだが、共通して感じ取れることは彼らの「創造力」だと思う。彼らはお酒だけを楽しんでいるのではない。料理、人、場所、季節、時間、さまざまな要素と寄り添いながらお酒を飲んでいる。贅沢(ぜいたく)をするわけではない。日常そのものを創意工夫しながら楽しむ。さすが酒呑みだな!と突っ込みたくなる行動も愛おしい。
私もお酒が好きだが、「どんなお酒が好きですか」と聞かれると、いつも適当なことを答えてしまう。ワインとかですかね。日本酒も好きです……。そんなの気分次第だ。誰かが「生ビールの人~?」などと言えば周りにあわせて手をあげてしまう。むしろ「ボウリングをしながら飲むお酒です」と答えるのが一番適切なのかもしれない。どんな場面でどのようにお酒を楽しんでいくか、その美学を再認識する一冊だ。(小野)
辛島いづみ『松本隆と風街さんぽ』(文藝春秋)
作詞家・松本隆は変わりゆく街並みの中で何を思うのか。南青山、新宿、鎌倉、京都……氏の代名詞である「風街」をめぐる一冊。街ごとに語られる氏の思い出話は文化的遺産のようで、ファンにはたまらない逸話ばかりだ。「聖地巡礼」という言葉が定着したいま、改めて楽曲を聞きながら巡るのも楽しい。風をあつめながら。(中島)
井川直子『小さな店をつくりたい 好きな仕事で生きる道』(家の光協会)
多様な価値観が尊重されるようになった現代で、“自分らしく”生きることを選んだ10坪程度の飲食店の物語。仕事柄、私も多くの個人店と接するが、本当に店の数だけ人の人生があるな、と痛感している。その人柄や哲学に触れ、自らの人生も見つめ直せる一冊。『デリカ』(『散歩の達人』2026年2月のP.87)も掲載されているので、合わせてご覧ください。(高橋)
日野原健司『モチーフで読む浮世絵』(筑摩書房)
富士山、幽霊、遊郭など、浮世絵を“モチーフ”という観点から分析。数ある題材から見えるのは、江戸の人々のイカした暮らしぶり。映える景色や美男子の大首絵など、さながらSNSを見ているかのよう。鬼や河童も生き生きしていて、そこにちょっぴり憧れます。妖怪のみなさん、現代でも元気に振(ふる)舞(ま)ってもらいたいものです。(守利)
『散歩の達人』2026年2月号より










