寅さんの下町、柴又
柴又駅に到着したらすぐに会える、敬愛する寅さん、そしてその妹さくらの像。情緒ある街並みと相まって、まさに映画の世界にいるようだ。
寅さんは旅しながらマドンナと恋に落ちてふらっと柴又に帰ってきてはひと騒動起こすのがお決まりだ。
失恋したらまた旅に出る。寅さんが旅立つときに利用するのが柴又駅だ。
「わ〜。柴又、平日なのに人がいっぱいいるね!!」(エルボー)
「夏休みに入ってるし、柴又は人気の観光地の一つだもんね。」(オレ)
「浴衣いいな〜。」
「浴衣着てデートしたいね。」
「え、浴衣とか着てくれるの?男の人ってめんどくさいとか言いそうじゃん。」
確かにめんどくさい。けど、オレはエルボーの心をもう一度つかみたくて努力をしているところだ。
オレはいつもこう思っている。努力は必ず報われる……はず(汗
「国の重要文化的景観」とは
さて、帝釈天参道の入り口の看板をよく見てほしい。「国の重要文化的景観」って書いてあるでしょ。
では問題。文化的景観っていったいなんでしょ?
じつはですね。文化財保護法が改正されて、なんと「景観」が文化財となったのであります……という話をしても「?」みたいな感じになりますよね。
まぁそりゃそうだ。文化財っていうとたいていの人は「有形文化財」とか「無形文化財」とかをイメージするもんね。
ちなみに「有形文化財」とは「建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの」となっていて、なるほどそうかと。「無形文化財」は「演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの」だ。
じゃあ「文化的景観」とは?
文化財保護法によりますと「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの」と定義されています。
キーワードは「人々の生活・生業」と「地域の風土」かな。まず長い長い歴史があること。
そこにずっと人が住んでいて、その日々の生活に根ざして形成された身近な景観。生業(せいぎょう)というと、ほら、団子屋さんとか煎餅屋さんとか。
ついでに「地域の風土」の風土となにか?
新明解国語辞典(第8版)によりますと「〔住民の生活・思考様式を決定づけるものと考えられる〕その土地の気候・水質・地質・地形などの総合状態」とあります。
東京都の北西に位置する葛飾区柴又は、まさに下町。気取ったところがない、あの「寅さん」に代表される空気感。いいじゃないですか。
長い年月をかけて地域の風土と人々の営みが一体となって作り上げた景観がここにある。よし、ではそれを「文化財」として丸ごと保護していこう。
そんな「地域の風情や空気感を含めて丸ごと保護」というのが、いわば「単品」で保護していこうという「有形文化財」とかとはちがう考え方なのでしょう。
あとはそうだな。有形文化財とかは、もうそこで固まっているというか、そこから先の変化はないという感じだが、葛飾柴又の景観の場合、文化財は文化財なんだけど、でも日々ここでの暮らしは継続中。人の営みは続いている。
なので、かっこよくいうと「生きている文化財」という感じかな。
しばし盛夏の柴又散歩を
「なんか昔ながらな感じで風情があっていいね〜。やっぱり日本好きなんだよね私。」
「この古い建物たちいいよね。オレも古い建物にすごい興味あるんだ。」
「古い商店街とかも全く新しくするんじゃなくって古くて良い部分は残してあるところが好きなんだよね。」
「全部新しくしちゃうと商店街の良さっていうか温かみがなくなっちゃうもんね。」
夏の柴又もいいですよ。
新版の『東京散歩地図』(交通新聞社刊)には味のあるイラストの帝釈天参道マップが入っていて、それを見ているだけで柴又に行っているような気分になれます。
ぜひに!!
帝釈天参道に派手な看板のカフェとか出店できるか?
帝釈天参道は、用途地域として「商業地域」が指定されている。
商業地域はいいよね。お店が立ち並んでいるから歩いていても楽しい。とくにここの商業地域は下町風情が味わえる「お店」が立ち並んでいて、そして今日はどのお店も大繁盛だ。人気の商店街という言い方もできる。そんな商店街だから「よし、ここにお店を出そう」という新規参入者が現れるかもしれない。
それはそれでよし。
ところがだ、たとえばね、ここに原色バリバリのド派手な看板とかネオンで彩られた、いわゆる「若者の街」で幅を利かせていそうな「映え」がするコジャレたカフェやらショップやらを出すとなったらどうだ。商業地域だからド派手なカフェやショップはオッケーだ。用途地域として行政が口を出せるのは、建物の用途規制と建蔽率や容積率による規模の規制だ。
だがしかし、色彩や意匠については口を出せない。となると、えー、下町風情が……ここは文化財保護法による「国の重要文化的景観」にも選定されているのに~。そこで。また新たな法規制が登場です。
景観地区。
景観法という法律があって、それに基づく都市計画だ。どんな法規制かというと、その名のとおり、今いい感じになっている景観を守ろうというもの。
この界隈は「柴又地域景観地区」に指定されています。もちろん「地域住民が守り繋いできた伝統的な情緒や雰囲気を継承する参道周辺の街並み景観」を守るためです。
具体的には「建築物の外観(外壁、屋根、建具等)の色彩は、周辺環境と調和したものとし、蛍光色のほか次に掲げる色彩を使用しない。なお、色相及び明度、彩度の色彩に関する表示については、日本工業規格Z8721に定められた規格とする」として、赤系がどうした黄色系がなんだと、かなり厳密な決め方だ。
店の横に自動販売機を設置するにしても、おなじ。ふつうに街で目にする自動販売機とはカラーリングが異なります。
柴又で誓った永遠の愛
そんな大賑わいの帝釈天参道から裏の道に入ってみた。
夏の日の午後。歩いていくとなんだか良い雰囲気の場所に出くわす。『山本亭』だ。
『山本亭』の庭園は、アメリカの日本庭園専門誌で3位になったこともあるらしい。
『山本亭』を抜けると、階段が見える。階段を上がってそして下ると『葛飾柴又寅さん記念館』がある。
「せっかく柴又に来たんだし行ってみようか!!」
チケットを買って寅さん記念館に入ってみると、『男はつらいよ』の撮影に使われたセットや、昭和30年代の帝釈天参道をジオラマで再現したコーナーなどもあり、寅さんファンならめちゃくちゃテンションの上がる場所だ。
歴代のマドンナの写真があった。みんなきれいだ。
でも、エルボーがいちばんきれいかもな。
きれいなエルボーを、オレはずっと守りたい。長い年月、オレはエルボーといっしょに生きていく。帝釈天参道を歩いて、オレは決意をあらたにした。いっしょに過ごすこれからの長い年月、その日々の生活に根ざして形成しよう。
なにを形成するかというと、オレたちの愛。いつまでもカラフルな、愛。色彩はレインボーだー。
そんな決意を胸に秘め、記念館にある『TORAsan café』で、これまたきれいなメロンクリームソーダを飲む。「おいしー」と微笑むエルボー。彼女の表情は、いつもカラフルだ。よし。告ろう。オレはエルボーに向き合った。
そしたらいきなり「あのね、私、寅さんみたいになりたい。」
あれ?
「旅に出るわ」
あれ?
「寅さんみたいに、いろんな人に出会いたいかなー」
あれ、あれ、あれ………!?!?!?
取材・文・撮影=宅建ダイナマイト執筆人