学展
テーマ「他者を想像する」をめぐる審査員のメッセージと特別映像上映

非営利の芸術文化活動を行う「学展」(主催:一般社団法人日本学生油絵会)は、2025年8月9日、東京・国立新美術館にて第75回学展表彰式を開催した。この日、俳優・高橋一生が同団体の理事に就任したことが公式HPにて発表され、併せて高橋氏が伴走者として参加し、その過程を記録したドキュメンタリー映像作品《他者を想像する四日間》が会場で特別上映された。
学展は1950年の創立以来、全国の学生や若手アーティストに発表の場を提供し続けてきた非営利芸術文化団体である。理事就任について学展は「芸術を通じて人々の感性や想像力を育むという理念を共有し、その実現に高橋氏が携わっていく」と説明。
学展側は、高橋氏が積み重ねてきた表現と、その中にある文化的な視座に注目。 その姿勢は、創立以来75年にわたり次世代の芸術の担い手を育んできた学展の理念と深く響き合った。 高橋氏は、文化の価値や役割が見えにくくなりつつある時代に、芸術を通じて想像力と感受性を未来へ手渡すことの大切さを胸に、この役割を引き受けた。
今後は、高橋氏が自身の経験や表現力を生かし、若い世代を支えるプロジェクトに関わる予定だという。
式典の冒頭を飾った「他者を想像する」
ムービー表彰式の冒頭では、第75回学展受賞作品展のコンセプト「他者を想像する」をテーマとしたムービーが上映された。


特別映像企画《他者を想像する四日間》
上映されたドキュメンタリー《他者を想像する四日間》は、学展出展者の小中学生7名と高橋が4日間にわたり行ったワークショップの記録。身体表現や対話、共同制作を通じて巨大キャンバス2枚を完成させる過程を追ったもので、映画監督の二宮健が監督を務めた。子どもたちの瑞々しい表情や創造の瞬間が丁寧に映し出され、上映後には会場から温かい拍手が送られた。
この映像企画は、これまで学展が行ってきたフランス・パリ展示に合わせたゲストアーティスト企画とは異なり、国立新美術館講堂での特別上映を通して来場者と共有される新たな試みとして位置づけられている。


もう一つは審査員インタビュー動画で、「他者を想像する力を育むには?」をテーマに6名の審査員が自身の考えを語った。
ヒロ杉山(アーティスト):「絵を描く前に頭の中でイメージする想像力こそ、他者の気持ちを考えることにつながる」
皆川伸一郎(ビーズインターナショナル会長):「他人の作品を見て、作者の気持ちや技法を想像することが新しい発見や創作の糧になる」
佐々木香菜子(アーティスト):「植物や動物など、生命あるものにも耳を傾け、自己完結せず外に目を向けることが大切」
沓名美和(現代美術史家):「異なる環境の人と交流し、その経験を通じて他者理解を深めることが必要」
福島夏子(Tokyo Art Beat編集長):「知識を伴わない想像は独りよがりになりかねない。知識と想像を合わせて他者を思うことが重要」
牧正大(MAKI Gallery代表):「アートには文化や民族の壁を超え、人々を感動させ世界を変える力がある」


表彰式と受賞者
表彰式には幼少部から大学・一般部まで幅広い世代の入賞者が参加。審査員6名(ヒロ杉山、牧正大、佐々木香菜子、福島夏子、皆川伸一郎、沓名美和)が登壇し、審査報告や賞状授与を行った。




今年の学展では5部門(幼少、小学、中学、高校、大学・一般)で入選・入賞作品が選ばれ、各部門の最優秀賞や審査員特別賞を発表。GAKUTEN芸術大賞は菊池真白《7 -nana-》が受賞し、フランス・パリで開催される国際美術展「Salon des Beaux-Arts 2025」への出展が公式発表された。学展のSalon des Beaux-Arts参加は6年ぶり4度目となる。

左から、西田剛(学展代表)、佐々木香菜子(アーティスト)、沓名美和(現代美術史家)、福島夏子(Tokyo Art Beat編集長) 、菊池真白(2025年GAKUTEN芸術大賞受賞者)、ヒロ杉山(アーティスト)、牧正大(MAKI Gallery)、皆川伸一郎(ビーズインターナショナル会長)
学展の歩みと今後
創立75周年を迎えた学展は、未来を見据え、国内外での発表機会や教育的取り組みの拡充を進めている。高橋一生の理事就任と映像企画は、その歩みに新たな一章を加え、芸術の発信と教育・交流の新たな形を切り開くものとなっている。第75回学展は8月17日(日)まで国立新美術館にて開催中。全国から集まった多彩な作品を鑑賞できる貴重な機会となっている。
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