大地の恵み豊かな村でボーっと過ごす贅沢を
ずっと手を当てているとしびれるほど冷たい。ひと口飲むと、まろやかでなんと雑味のない味なんだろう。
「井戸から湧くこの水でお酒を仕込みます。年間とおして14~15度なので夏は冷たく感じますよ」と『松崎酒造』の6代目・松崎祐行(ひろゆき)さん。
天栄村に嫁いできて、水のおいしさに驚いたのは『鈴木醤油店』の鈴木洋子さん。蛇口をひねれば、最低限の殺菌処理をした山からの湧き水を飲めるそう。もちろん醤油を仕込むのもこの水だ。
夫の良浩さんに、特別に醤油蔵を案内してもらうと、もろみの発酵の香りがかぐわしい。
「140年近く使い続けているこの木桶は僕らの宝。木材は夏に伸びて冬に縮むので、伸縮を140回繰り返しており、その分もろみの旨味を吸っているはず。だからこの木桶で仕込む醤油は味わい深くなるんです」
『鈴木醤油店』の醤油を使って料理するのが、岩瀬湯本温泉にある『隣亭ねこやなぎ』。『ひのき風呂の宿 分家』が2026年5月に開業した食事処だ。
お昼に味わえる里山ランチは、山菜も野菜もほぼすべて自家畑や近隣の山々で採れたもの。女将の星千佳子さんいわく「鳳坂峠を境に標高や気候が変わるので、日本一おいしいと評価されるお米から山菜、川魚までいろいろなものが獲れる。人口5000人程度の小さな村ですけど、とっても豊かなんです」。
岩瀬湯本温泉からさらに山道を上ると、二岐(ふたまた)温泉に辿り着く。『柏屋旅館』の桑名裕昌さんは、季節ごとの山のにおいを感じてほしいそう。
「夏~初秋は少し酸っぱいにおいがするんです。山や川を眺めながらお湯で疲れを流してもらえたら」
大手世界銀行の要職を辞め、2026年に『湯小屋旅館』を引き継いだのがマリオット・フレイザーさん。
47都道府県をめぐるほど旅行・温泉好きで、二岐温泉の別の宿に泊まった際、縁があって前オーナーと知り合った。継承者を探していた前オーナーと、温泉旅館を経営したかったフレイザーさんは意気投合。
「初めてここに来たとき、秘密基地のような立地、露天風呂の開放感が素晴らしいと思いました」
海外の人にはまだ知られていない福島の美しさを、この宿を拠点に旅をして感じてほしいそう。
「二岐温泉は1000年以上の歴史がある。そのレガシーも継承し、伝えていきたいです」
『湯小屋旅館』秘湯ファンの聖地が装い新たに
漫画家・つげ義春も愛した鄙びた温泉宿がコロナ禍を機に改装、一組限定の宿に生まれ変わった。フレイザーさんがオーナーとなってからは、会津漆器を飾るなど装いがさらに美しく。野趣あふれる露天風呂や内湯で、じっくりと長湯したい。
☎0248-84-2210
1泊2食2万5300円~(2~7名の貸切)
日帰り入浴/10:00~16:00頃、不定休。予約なしは1500円(予約ありは2000円)
泉質/カルシウム-硫酸塩泉
福島県天栄村湯本下二俣22-7
東北新幹線新白河駅からバス「湯ったりヤーコン号」(※)1時間30分の二岐下車、徒歩2分
(※)「湯ったりヤーコン号」は各宿宛に要予約
『柏屋旅館』湯と食で山の恵みを堪能
自家源泉が5つあり、各湯船にかけ流し。なかでも巌風呂は湯船の底にある岩の亀裂から足元湧出しており、新鮮なお湯を楽しめる。シイタケやウドの新芽の天ぷらをはじめ、地元の山河の幸が彩る夕食も、この宿の醍醐味!
☎0248-84-2316
1泊2食1万4450円
泉質/カルシウム-硫酸塩泉
福島県天栄村湯本下二俣22-6
東北新幹線新白河駅からバス「湯ったりヤーコン号」(※)1時間30分の二岐下車、徒歩3分
(※)「湯ったりヤーコン号」は各宿宛に要予約
『道の駅 季の里天栄』村の絶品を求めて県外からも続々
米・食味分析鑑定コンクール国際大会で金賞受賞の天栄米をはじめ、甘い天栄長ネギ、低カロリーで栄養価の高いヤーコンなど、地元の幸が並ぶ。食堂では、そのヤーコンを使った餃子やネギがのったラーメンなどを提供!
☎0248-81-1455
9:00~18:00(12~6月は~17:30)
第1水休(食事処は毎週水休)
福島県天栄村大里天房41-2
JR東北本線鏡石駅から車20分
『鈴木醤油店』丁寧・真摯な造りが生む深いコク
大豆と小麦で麹を一からつくり、さらにもろみをつくるために3年も熟成。「原料の旨味を全部引き出したいんです」と鈴木良浩さん。長い時間をかけできた平右衛門濃口は深い旨味があり、ごはんに直がけするだけでおいしい。
☎0248-82-2020
9:00~17:00、日休
福島県天栄村牧之内矢中2
JR東北本線鏡石駅からバス38分の矢中下車すぐ
※2026年10月上旬まで蔵改修のため『道の駅 季の里天栄』で購入を
『隣亭ねこやなぎ』食事処の開業で集落ににぎわいを
『ひのき風呂の宿 分家』が、隣にある築150年の古民家を改装。「村の内外から人が集える場をつくりたかったんです」と女将の星千佳子さん。この日の里山ランチはワラビやフキ、根曲がり竹、会津地鶏など地元食材がいっぱい!
☎0248-84-2314
11:00~14:00、金・土休
福島県天栄村湯本居平6
JR東北本線鏡石駅からバス1時間20分の湯本温泉口下車、徒歩2分
『松崎酒造』地元米と水で醸す飲み飽きないお酒
15年前から6代目の松崎祐行さんが蔵元杜氏(とうじ)を務め、造りや酒質が大幅に変化。「米のふくらみ・甘みを感じられ、あと切れのよい食中酒を目指しています」。醸す銘柄をあえて増やさないのは「幹をしっかり太くして造るイメージ」だそう。
☎0248-82-2022(月〜金の9:00~17:00)
福島県天栄村下松本要谷47-1
JR東北本線鏡石駅からバス27分の下松本下車、徒歩2分
※直売はしていないので、『道の駅 季の里天栄』などで購入を
取材・文・撮影=鈴木健太
『旅の手帖』2026年9月号より






