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妻籠宿
馬籠宿
[中山道 妻籠宿→馬籠宿]
今回歩いた距離・所要時間●約9km・約3時間(休憩などは含まない)
出発駅へのアクセス●JR中央本線南木曽(なぎそ)駅下車
“時”を売らずに守り続けた江戸の風情「妻籠宿」
中山道は江戸と京都を結ぶ内陸路として整備された道。
太平洋沿いの東海道は、大雨などによる河川の増水などでしばしば足止めされたのに対して、山中を抜ける中山道は、遠回りでありながら“予定どおりに着ける道”として重宝された。
幕府や朝廷の行事や重要な連絡を届ける際は、必ず中山道を使ったともいわれている。峠を越え谷を渡りながら続く山峡の道筋には、いまも江戸の名残が静かに息づいている。
中山道に設置された六十九次のなかでも、妻籠宿はとりわけ情緒にあふれた宿場町だ。
事の始まりは1960年代後半。明治以降の交通改革により衰退していく集落を危惧し、住民たちがむかしながらの町並みを守ろうと立ち上がったのだ。古い建物を壊して新しい町を作り直すのではなく「江戸時代の風情が残る町並みこそが、わが町の財産だ」と。
これに伴い、景観を損なう電柱は裏通りに移設。さらに、集落保存を実現するために“売らない・貸さない・こわさない”という厳しいルールを独自で取り決め、全国に先がけて町並みの景観維持を成功させた。
現在、保存の対象となっている伝統的建造物は約220軒。ほとんどが江戸時代後期から幕末にかけて建てられたものだ。
国道からも鉄道からもはずれて開発を逃れたことや、大火による建物の焼失が少なかったこともまた、往時の景観をいまに残せた要因の一つとなっている。
とはいえ、保存に努めているのは建物だけに留まらない。妻籠では町並みの背後に迫る山林や谷筋まで、視界に入る“景観そのもの”が保存の対象に指定されている。
その広さ、なんと1245ha。言われてみれば、山にそびえる鉄塔類には自然に溶け込む茶系の景観色が施されている。石畳や土道も、住民らが定期的に整備をしていると聞いて頭が下がる思いだった。
奥に広がる山の景色や静かな環境を地域で大切に守り続けることで、妻籠宿は生活の延長に江戸が残る希有(けう)な場所になれたのだ。
宿場を抜けると、舗装路はやがて山道へと変わり、苔のむした石畳が現れた。
足裏から伝わってくる石畳のゆらぎや土の匂いを感じることで、遠き時代の旅人の姿がリアルに浮かび上がってくる。街道沿いにはかつての旅人も体を休めた茶屋の跡。心地よい春風が、その先の坂道に向かう足取りをふと軽くしてくれた。
『南木曽町博物館 脇本陣奥谷(おくや)』風格を守り続ける囲炉裏の煙
代々脇本陣・問屋を務めた林家の住居で、大名などが休泊する本陣の補助的施設として使われた。現在の建物は明治10年(1877)に建て替えられたもの。伐採を禁じた“木曽五木の禁”が解かれたあと、総檜造りで建築された。
☎0264-57-3322
9:00~17:00、第2・4木休
800円
長野県南木曽町吾妻2190
JR中央本線南木曽駅からバス8分の妻籠橋下車、徒歩3分
『茶房 ゑびや』街道歩きのごほうび栗100%の贅沢
半世紀ほど前に、軒下で休む旅人たちにお茶を振る舞ったのが始まり。看板の栗あん汁粉は栗100%の贅沢な仕様で、濃厚な栗の風味に心をつかまれる。小豆から丁寧に炊き上げる自家製のあんこと手作り寒天を使ったあんみつも自信作。
☎0264-57-3054
9:00~17:00、不定休
長野県南木曽町吾妻2176-1
JR中央本線南木曽駅からバス8分の妻籠橋下車、徒歩4分
坂道に連なる町並み島崎藤村も愛した風景「馬籠宿」
長野と岐阜の県境に位置する峠を越えると、そこからは馬籠の領域。
山の尾根沿いに建物が並ぶ馬籠宿は、妻籠から向かうと坂の上から町並みを見下ろすように歩くことになる。ここは、島崎藤村の生まれ故郷。
本陣や問屋を務めた島崎家に生まれ、宿場の中心的な家で幼少期を過ごした藤村が、小説『夜明け前』で馬籠の坂道や勾配のある家並みを繰り返し描いたことからも、坂に沿って延びる独特の景観が馬籠の歴史的アイデンティティであることがわかる。
坂道の両脇に五平餅の店や土産店がにぎやかに並ぶ光景は、ひそやかな山峡に延びる妻籠とはまるで異なるものだった。自分の足でつないだ道のりだからこそ、2つの宿場の息遣いがいっそう深く伝わってくる。
『お食事処 まごめや』馬籠の特等席で、地元の贅を味わう
名物は、口の中で甘い脂がとろける信州牛のステーキと上品な味わいの馬籠サーモン、そして美濃の最高峰・恵那山を一望する圧巻のロケーション! 窓の外の景色も楽しませてくれる。
☎0573-69-2211
11:00~14:00、水休
岐阜県中津川市馬籠4571-1
JR中央本線中津川駅からバス25分の馬籠下車、徒歩1分
『お食事処 樹梨(じゅり)』峠越えの英気を養う栗こわめし
“渋皮の むけし女は 見えねども 栗のこはめし ここ乃名物”。十返舎一九(じっぺんしゃいっく)が絶賛した郷土の味・栗こわめしを後世につなぐ。栗は中津川の農家から仕入れた大粒のもの。米と一緒に炊き上げるので、栗の風味がご飯にも。
☎0573-69-2664
10:00~16:00、不定休
岐阜県中津川市馬籠4075-2
JR中央本線南木曽駅からバス30分の清水下車、徒歩2分
『近江屋』手しごとが生み出す丸いごちそう
五平餅といったら、馬籠ではむかしから丸い形。タレの味は店を始めた半世紀ほど前から変えることなく、すり鉢で丁寧にすり潰したクルミにゴマと醤油、砂糖を合わせてねっとり練り上げる。甘辛くて香ばしい、素朴だけど深い味。
☎0573-69-2412
11:00~15:00、不定休
岐阜県中津川市馬籠4308-1
JR中央本線中津川駅からバス25分の馬籠下車、徒歩8分
『下扇屋(しもおおぎや)』十馬十色、幸せを運ぶ春駒
木曽の民芸品がそろう土産物店。古くから馬籠に伝わる“春駒”はワラで編んだ郷土玩具で、玄関に顔を向けて置くと春(幸せ)が跳ね込むといわれている。表情も佇まいも十馬十色。お気に入りの子と出会えますように。
☎0573-69-2106
9:00~17:00、無休
岐阜県中津川市馬籠4264
JR中央本線中津川駅からバス25分の馬籠下車、徒歩3分
足を延ばして馬籠宿の先、落合宿へ
取材・文=松井さおり 撮影=平松マキ
『旅の手帖』2026年5月号より






