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旅の手帖 2026年5月号
旅の手帖 2026年5月号
古来、日本の大動脈である東海道と中山道。その旧街道に目を向けてみれば、歴史の記憶を刻むスポットがあちこちに。気ままで楽しい街道歩きに出かけよう。特集2は、さわやかな初夏の風が気持ちいい那須。連続テレビ小説『風、薫る』主人公のモチーフとなった大関和の出身地、黒羽地区も案内!

今回歩いたコースはこちら!

[中山道 奈良井宿]
今回歩いた距離・所要時間●約2km・約1時間(休憩などは含まない)
出発駅へのアクセス●JR中央本線奈良井駅下車

外歩きが気持ちのいいシーズン。いざ、街道歩きを始めようと思っても、どんな服装で行けばいい? どんな持ち物が必要? ちょっとした疑問は多い。快適に歩くための準備やコツ、街道用語を知れば、もっと楽しい街道歩きに。

建物や町並みが深い歴史を物語る「奈良井宿」

総檜造りの木曽の大橋。宿場沿いを流れる奈良井川に架かる。
総檜造りの木曽の大橋。宿場沿いを流れる奈良井川に架かる。

かつて“奈良井千軒”と呼ばれたほど栄えた奈良井宿には、いまも1kmにわたって古い町並みがほぼそのままの形で残っている。この町を支え続けてきたのは、長く営みを続ける老舗たちだ。

『ゑちごや旅館』は江戸時代から営業を続けてきた、奈良井に残る唯一の旅籠(はたご)で、建物そのものが奈良井の歴史を語る証人のようである。「中村邸」もまた、往時の姿を静かに留めている。

元櫛問屋の建物で、現在は資料館として公開する「中村邸」。2階部分がせり出した出梁(だしばり)造りや板を重ねて葺いた鎧庇(よろいびさし)など、いまも往時の意匠が残る。●奈良井駅から徒歩13分。
元櫛問屋の建物で、現在は資料館として公開する「中村邸」。2階部分がせり出した出梁(だしばり)造りや板を重ねて葺いた鎧庇(よろいびさし)など、いまも往時の意匠が残る。●奈良井駅から徒歩13分。

しかし奈良井宿の魅力は、ただ“変わらない”ことにあるのではない。古い町並みを尊重しながらも、新しい価値を生み出そうとする動きが芽生えている。

その象徴的な存在が、古民家をカフェへと生まれ変わらせた『いずみや』だ。奈良井で生まれ育ったオーナーの篠原将宏さんが、築200年近い生家を「旅人がほっとひと息つける場所にしたい」と考え、店を開いた。梁の見える低い天井や趣のある黒褐色の格子は奈良井の町家の基本スタイル。

『こころ音(ね)』も同様で、座敷で足を伸ばして古い町並みに目をやる時間が、奈良井という町そのものを味わう特別な体験をくれる。

『日野百草本舗』もまた、古い建物を舞台に新しい価値を紡ぐ老舗の一つ。江戸期から続く薬草文化を現代の感性で再構築し、カフェメニューやアパレル商品など、暮らしに寄り添う商品を生み出している。

樹齢数百年の大樹が並ぶ中山道の杉並木。
樹齢数百年の大樹が並ぶ中山道の杉並木。
すぐそばには、鉄道や国道の敷設の際に集められた地蔵や観音像が二百地蔵として祀られている。
すぐそばには、鉄道や国道の敷設の際に集められた地蔵や観音像が二百地蔵として祀られている。

古いものを守りながら、いまを生きる人のために形を変える——。その姿勢は、まさに過去と未来の対話そのものだ。

“変わらないもの”という確かな土台があるからこそ、いまの営みが鮮やかに輝く。ここには、時を超えて響き合う温故知新の物語が息づいている。

宿場内に残る水場の一つ。旅人の渇きを癒やし、住民の生活を支えてきた。
宿場内に残る水場の一つ。旅人の渇きを癒やし、住民の生活を支えてきた。
宿場内には6つの水場が点在。山から湧き出る清らかな水を湛える。
宿場内には6つの水場が点在。山から湧き出る清らかな水を湛える。
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『宿場cafe いずみや』旅の疲れをほどくコーヒーの香り

オーナーの篠原将宏さんが一杯ずつ淹れるハンドドリップコーヒーは650円~。奥さんの手作りスイーツは、ずしっと濃厚な抹茶ショコラテリーヌ680円をはじめ、季節のチーズケーキなどがメニューに。
オーナーの篠原将宏さんが一杯ずつ淹れるハンドドリップコーヒーは650円~。奥さんの手作りスイーツは、ずしっと濃厚な抹茶ショコラテリーヌ680円をはじめ、季節のチーズケーキなどがメニューに。
「歩き疲れたら、甘いものでひと息どうぞ」と篠原さん。
「歩き疲れたら、甘いものでひと息どうぞ」と篠原さん。

築180~190年の実家を店主自らがカフェに再生。梁を見せた店内は足を投げ出せる座敷スタイルで、奈良井の暮らしを体感できる。ひと息ついてほしいから、スイーツはしっかり甘め。店内に漂うコーヒーのアロマにも癒やされる。

☎0264-47-1045
10:30~15:30LO(ケーキがなくなり次第終了)、不定休
長野県塩尻市奈良井201
JR中央本線奈良井駅から徒歩12分

『お食事・甘味処 こころ音』熱い鍋で楽しむそばのしゃぶしゃぶ

あつあつに煮えたつゆで楽しむとうじそば1700円は信州の山間に伝わる郷土の味。
あつあつに煮えたつゆで楽しむとうじそば1700円は信州の山間に伝わる郷土の味。

看板のとうじそばは、白菜や鶏肉、きのこを入れて煮たつゆに、茹でたそばをさっとくぐらすしゃぶしゃぶスタイル。出汁の効いたやさしい味わいで、疲れた体に染みわたる。最後は卵とご飯を入れて雑炊で締めるのが推し。

☎0264-34-3345
11:00~14:30(そばがなくなり次第終了)、水休
長野県塩尻市奈良井368
JR中央本線奈良井駅から徒歩10分

『日野百草本舗 奈良井店』伝統薬とキハダを未来につなぐ

板状の百草は1100円、丸剤タイプの日野百草丸は770円~。キハダ染めストール1万9800円やキハダ養生茶1100円も。
板状の百草は1100円、丸剤タイプの日野百草丸は770円~。キハダ染めストール1万9800円やキハダ養生茶1100円も。
奥の喫茶では、キハダ養生ソーダ660円、キハダ養生アイスクリーム660円も提供している。
奥の喫茶では、キハダ養生ソーダ660円、キハダ養生アイスクリーム660円も提供している。

百草は江戸時代から木曽に伝わる胃腸薬。御嶽山(おんたけさん)の修験者が伝えたとされ全国に広まった。現在は原料の国産キハダを守ろうと、これまで使われてこなかった葉や実などを活用するキハダプロジェクトを展開し、新たな商品を送り出している。

☎0264-34-3321
10:00~16:00、無休
長野県塩尻市奈良井492
JR中央本線奈良井駅から徒歩9分

漆器、曲物(まげもの)、お六櫛(ろくぐし)森の恵みが生んだ工芸品

『小坂屋漆器店』の曲げわっぱ。
『小坂屋漆器店』の曲げわっぱ。
『斉藤漆器店』では、お六櫛を再び奈良井土産にしようと奔走中。
『斉藤漆器店』では、お六櫛を再び奈良井土産にしようと奔走中。

漆器や曲物は江戸時代から木曽に伝わる伝統工芸品。なかでも、髪がつやつやになるお六櫛は中山道の土産物として絶大な人気を誇った。

取材・文=松井さおり 撮影=平松マキ
『旅の手帖』2026年5月号より