今回のルートはこちら!
銚子電鉄といえば、「奇跡のぬれ煎餅」の物語はもはや伝説の域。魅惑のローカル線のいまを聞くべく、まずは本社へ向かった。
銚子駅ではきっぷを買わずにホームの端まで歩き、来ていたブルーグレーに青と橙のラインの列車にそのまま乗り込む。車内を回る車掌から1日乗車券「孤廻(こまわり)手形」を買うのが旅の始まりだ。これで今日一日、何度でも途中下車できる。
本社があるのはひと駅先の仲ノ町だが、直線距離で500mほど。歩いたとしても10分足らずという近さ。「全長6.4kmに10駅。駅間が短いのも特徴です」と、銚子電鉄鉄道部の鈴木一成さんが、本社社屋を兼ねる古風な木造駅舎内で教えてくれた。
「列車は南海電鉄譲りの2編成など全4編成があり、数日に一度の点検を挟んで順繰りに動かしています」
ちょうどホームから、残る3編成が並んで見えた。各編成のうんちくは公式パンフレットに詳しいが、右奥が元京王電鉄5000系だと聞いて、懐かしさが込み上げた。
というのも、筆者の生まれ育ちは東京・多摩地域。親に連れられてどこかに行った思い出は、すべてその5000系に揺られてだった。個々人にそんな思い出があるだろう、色も形もさまざまな2両編成の列車たちが、ここでは第2、第3の人生として観光客を出迎えている。
好調すぎる!? 関連土産とレトロさで再注目の鉄路
経営難をネタに愛称を自ら「犬吠崖っぷちライン」と称する銚子電鉄。そもそもの平成の倒産危機を救ったのは、藁にもすがる思いで社員がホームページ上でつぶやいた「ぬれ煎餅を買ってください。電車の修理代を稼がなくちゃ」という言葉。
これに10日で1万人以上が共感し、ぬれ煎餅は爆発的な売り上げに。いまや鉄道の6倍以上の売り上げをぬれ煎餅などが占める状況だ。
「『ぬれ煎餅店が鉄道を動かしている?』なんて冗談もありますが、あくまでもメインは鉄道です。懐かしさを感じる旅で、日頃の慌ただしさをリセットしてほしいですね」
そう話す鈴木さんに笑顔で見送られ、再び乗車。次なる観音駅の見どころは、飯沼観音や今川焼の店。『元祖今川焼 さのや』の一度に120個焼ける鉄板が壮観だ。
「ここは観音様の裏参道で、漁師さんが陸(おか)に上がったとき、体が温まる今川焼を買ってくれるんです」
地元のおばちゃんたちの大量買いにあっけに取られる筆者を察し、主人の佐野哲郎さんが教えてくれた。
【観音駅】むかしもいまもにぎわう裏参道の名店『元祖今川焼 さのや』
明治40年(1907)創業、目の前で焼く「厚くてあんこぎっしり、皮パリッ!」の今川焼190円が人気。黒あんと白あんがあり、地元客は10個、20個単位で買う。2025年に漁獲高日本一に返り咲いた港町・銚子のにぎわいを体現する店。
☎0479-22-0150
9:00〜16:00、水休(日不定休)
千葉県銚子市飯沼町6-7
観音駅から徒歩5分
【観音駅】港町・銚子を象徴する観音堂「飯沼観音」
坂東三十三観音霊場の第27番札所で、色鮮やかな五重塔と壮大な本堂が印象的。奈良時代に海中から出現したとされる秘仏・十一面観世音菩薩が本尊。2026年は運よく丙午(ひのえうま)のご開帳。貴重な御姿を12月12日まで直接拝める。
☎0479-23-1316
6:00~17:00、無休
無料
千葉県銚子市馬場町1-1
観音駅から徒歩5分
木々のトンネルをくぐり キャベツ畑の向こうの終着駅へ
観音駅から先は覆いかぶさる木々を抜ける。時には枝が車体をこするほど。その後、車窓はキャベツ畑に。
犬吠(いぬぼう)駅で降り、犬吠埼灯台まで歩いた。風の強い日で、灯台の上では親に手を引かれた子どもが緊張気味に柵をつかんでいた。
自分もそうだったな、と思う。美術教師だった父は灯台の絵を描くのが好きで、よく幼い自分を連れ出した。ここも、何度も来た。
ノスタルジックな旅の終わりは外川(とかわ)駅。漁港を横目に散策し、ランチは珍しいサルエビのかき揚げ。小エビだけを殻ごと揚げたパキッ、プチッという食感と甘みが格別だ。
帰りは狙い澄ましたように再び犬吠駅で下車。売店で銚電土産をしこたま買って、夕暮れの『犬吠埼ホテル』で海一望の温泉入浴。孤廻手形があれば入浴料は200円引きだ。
わずか6.4㎞とは思えない内容充実のひとり旅。これだから、ローカル線の旅はやめられない。
【犬吠駅】ぐるり見渡す岬の絶景が圧巻「犬吠埼灯台」
関東最東端の犬吠埼にそびえる白亜の灯台。三方を海に囲まれた崖に立ち、99段のらせん階段を上った灯台上からの眺めが圧巻だ。明治7年(1874)築の国登録有形文化財で、併設の資料展示館も見ごたえ十分。
☎0479-25-8239
8:30~17:00(GWと8月10~19日は~17:30、10~2月は~16:00)、無休
300円
千葉県銚子市犬吠埼9576
犬吠駅から徒歩10分
【犬吠駅】自虐的? 銚電土産が大集合『銚子電鉄 犬吠駅売店』
終点の一つ手前の犬吠駅は、売店に並ぶ銚子電鉄(銚電)オリジナル土産が人気。定番のぬれ煎餅のほか、まずい棒(経営がまずい)、チキンカレー(資金枯れ〜)など、自虐とダジャレを効かせた秀逸な商品が数多そろっている。
☎0479-25-1106
10:00〜17:00、無休
千葉県銚子市犬吠埼9596-1 犬吠駅構内
【外川駅】開業時から残るレトロな木造駅舎
【外川駅】新鮮な刺身とサルエビのかき揚げを『犬若食堂』
地元でしか出回らないサルエビのかき揚げを出す店として以前から有名で、昨今は主人の辻徳昭さんが厳選する刺身もおいしいと話題。その両方を味わえる宴定食1700円が定番の一つだ。外川漁港の西端にあって建物は新しく、駐車場も広い。
☎0479-35-2825
10:00〜15:00・17:30〜21:00(土・祝は9:00〜15:00・17:30〜21:00。日は9:00〜15:00)、月休(祝の場合は翌日)
千葉県銚子市犬若11295-2
外川駅から徒歩12分
【犬吠駅】日帰りOK! 海辺の絶景露天風呂『犬吠埼温泉元湯 黒潮の湯 犬吠埼ホテル』
犬吠埼灯台のすぐ隣にある温泉ホテルで、常時、日帰り入浴を歓迎している。敷地内の地下1300mから湧く温泉が注がれる露天風呂は、目前に君ヶ浜を望む。海の幸自慢の宿なので、泊まりの旅にもおすすめしたい。
☎0479-22-8111
日帰り入浴は12:00~20:00受付(土・日・祝は9:00~20:00受付)、無休。1200円(土・日・祝は1500円)
泉質/泉含よう素-ナトリウム-塩化物強塩泉
千葉県銚子市犬吠埼9574-1
犬吠駅から徒歩7分
取材・文・撮影=高橋敦史
『旅の手帖』2026年4月号より






