“不感温度”の温泉でクールダウン浴
『界 アルプス』は、里と山のあわいにある。山脈から大きな両腕が里に伸びてきて、その腕の中に包まれているような場所だ。
露天風呂から景色を見渡せば、白いソバの花咲く平地の先、山の麓に古民家が点在する。緑輝く山々のさらに向こうでは雄々しい北アルプスの峰々が天を衝く。
スタッフが教えてくれた絶景地、鷹狩山山頂の展望。『界 アルプス』から車20分。
涼やかな風が吹く、広大なパノラマに囲まれた中でゆっくり温泉に浸かっていると、体の真ん中から穏やかで静かな気持ちが満ちてくる。
それもそのはず。露天風呂の温泉の温度は、“不感温度”と呼ばれる体温に近い約36度。8月末まで『界 アルプス』では「クールダウン浴」ができる。
心身ともにクールダウン。内湯は通常温度だから、内湯と露天風呂と交互に入れば温冷交代浴の効果も望めそうだ。
カラマツやカエデの色が湯面に映る。温泉は北アルプス麓にある秘湯、葛(くず)温泉からの引き湯。
温泉棟の前から水が湧き、中庭へと小川が流れる。夏を迎えて繁茂するわさびの緑が美しい。
湯上がりに待つ、いくつもの楽しみ
入浴後は敷地内をぶらり。敷地の真ん中は驚くことに参道になっていて、突き当たりに「泉嶽寺(せんがくじ)」という小さなお堂が立つ。
高く険しい山と泉の寺というわけか。祀られているのは病気平癒や心身の健康を守る仏様、薬師如来だ。
敷地の奥にある泉嶽寺。薬師如来様に健康祈願をしていこう。
8月末までは湯上がりビール920円と冷やし甘酒600円を提供。ビールはアルコール分3.5%で柑橘の香り立つすっきりした味。
道を挟んで左右に雪国の伝統的な雪除けのアーケード、雁木(がんぎ)が続き、客室棟や温泉棟が並んでいる。雁木の下を風が通り抜け、風鈴を鳴らす。揺れる短冊は、地元・大町の松﨑和紙だ。
敷地内の移動では、雁木が雨や日光をよけてくれる。夏はいくつもの風鈴が並び、軽やかな音を奏でる。
一日2回、紙芝居形式で湯守のスタッフが大町温泉郷の歴史や伝説、泉質などを説明。
囲炉裏端で時間を忘れる
朝昼晩と、いつ行っても居心地のいい囲炉裏。
そんなメインストリートに面して、この『界 アルプス』のとっておきの設えとなる囲炉裏がある。
昼間にこちらで食したおやきは、かまどで蒸し、炭火で焼いたもの。下側だけがぱりっとして、あとはしっとり。その食感がたまらない。
この日の中身は、近隣で採れたフキを使った味噌。ほろ苦くて甘い、滋味が心地いい。
夜はちろりでお燗してくれた地酒を、漬物をつまみにいただく。火を囲みながら居合わせた者同士で、話も弾む。
夕食の雪鍋会席は、見目麗しいさまざまな食材を使った料理。おすすめの地酒と合わせて湯上がりに夢心地。
『界 アルプス』名物といえば雪鍋。
ふんわりかわいいわたあめが出汁で溶けると、すき焼きの味つけに。
囲炉裏体験を締める朝は、かまどで作ったお粥である。
これがまた、米の一粒一粒が愛おしくなる旨味。朝風呂でようやく寝覚めた体にやさしく力を注いでくれる。もち麦も入っていて、お米との舌ざわりの違いが楽しい。
朝風呂のあと、朝食の前に囲炉裏でお粥を。
中庭の奥にある離れ棟の部屋(写真)や温泉内風呂付き和室など、部屋は5タイプ。
湯、設え、食、人、風景……それぞれが幾重にも重なり、ささやかなようでどれも行き届いていて、最高に贅沢な時間を過ごせる。
8月、ここ大町市の平均気温は24度程度(*)。桃源郷ならぬ“涼源郷”と呼びたい、夏の『界 アルプス』なのである。
(*)気象庁2025年の気象データより
総支配人の溝口京佐さん。「雁木造りが魅せてくれる季節ごとの風情に期待してください」。
住所:長野県大町市平2884-26/アクセス:JR大糸線信濃大町駅からバス15分の大町温泉郷下車、徒歩10分
取材・文/『旅の手帖』編集部 撮影/yOU(河﨑夕子) 協力/星野リゾート
『旅の手帖』2026年8月号より
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