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[東海道 池鯉鮒宿→鳴海宿]
今回歩いた距離・所要時間●約14km・約3時間30分(休憩などは含まない)
出発駅へのアクセス●名鉄名古屋本線知立(ちりゅう)駅下車
木綿市などが立ち、旅人を呼んだ宿場町「池鯉鮒宿」
知立と記すこの地を池鯉鮒と呼んだのは、江戸時代の頃。由来について知立神社権禰宜の野々山麻怜(まさと)さんは「江戸期ならではの言葉遊びですね」と笑う。
当時からすでに名社の誉れ高く、市が立ち、にぎやかだったという。当然、そこに至る道筋に名物が誕生する。あんまきだ。なかでも、むかしながらの手焼きにこだわる『小松屋本家』の一本を食べれば、素朴な甘みにたちまち英気がみなぎってくる。
また、江戸末期から続く『恵比寿屋陶器店』も必見。小ぶりな手描き酒器セットを見ていると「これはね、家に来た客に“これでも呑んで待っててください”と、もてなしに使った道具。これを出されたら酔ったフリをせんといかん。むかしの粋な遊びですね」と、3代目の小久江(おぐえ)夫妻が教えてくれた。
『小松屋本家』旅人の小腹を満たす手焼きあんまき
街道筋のよろづや&茶店が「豊川や岡崎を出発した人がこのあたりで小腹がすくから」と、明治22年(1889)にあんを挟んで出すように。水飴を加えた生地がしっとりもっちり。甘さ控えめの自家製あんこになごむ。
☎0566-81-0239
8:00~19:00、火休
愛知県知立市西町西83
名鉄本線知立駅から徒歩8分
『恵比寿屋陶器店』デッドストックも空飛ぶ土瓶も売りもの
江戸末期築の木造店舗で営み、冬野菜、春の花、夏の金魚など、陶器や室礼を四季折々で変える。瀬戸、美濃を中心に、天秤棒や大八車まで仕入れた頃のデッドストックや名作家の手描きも見つかる。陶器の移り変わりも興味深し。
☎0566-81-4755
8:30~17:30、火休
愛知県知立市西町西11
名鉄名古屋本線知立駅から徒歩7分
「知立神社」宿場町の名の由来になった名社
池鯉鮒宿の名の由来は、神池に鯉や鮒が泳ぐことから。景行天皇時代の創建と伝わり、皇室の祖霊をお祀り。国指定重要文化財である杮(こけら)葺き多宝塔も境内で風格を見せる。毎年5月2・3日に例祭の本祭りを開催。壮麗な山車(だし)の行幸は必見だ。
☎0566-81-0055
境内自由(祈禱受付は9:00~16:00)
愛知県知立市西町神田12
名鉄名古屋本線知立駅から徒歩12分
「知立公園花しょうぶまつり」
神社に隣接する公園では、明治神宮から下賜された品種を含め、紫や白の花しょうぶが約60種3万本咲き誇る。まつり期間はイベントも目白押し。知立まつりの華として名を馳せるからくり人形の展示・芝居実演も風雅だ。
2026年5月17日~6月14日
☎0566-83-1111(知立市観光協会)
木造の商家が立ち並ぶ町で絞りの技に感服「有松」
ポツポツとのどかな趣が残る旧街道だが、次なる宿場町・鳴海に向かう途中、忽然と古の町並みが現れた。有松だ。木格子、瓦屋根上の厄除け守り神など、伝統的建物が連なる。
「名古屋城がなければ有松絞りは生まれませんでした」と話すのは、『有松工芸』の濱島正継さん。山賊多発地帯対策として、近在の阿久比(あぐい)庄から移住した集落だが、耕作不向きの土壌で生計が立てられない。そこで、加藤清正が築城のために駆り出した豊後衆が着ていた三浦絞りをまねたのが始まりとか。
絞りの技は、縫う、くくる、(板や道具で)挟む。職人が各々工夫を凝らした技法は100種以上に増え、美しい模様の手拭いや浴衣は東海道土産として人気を誇った。『東海道中膝栗毛(ひざくりげ)』で弥次さん喜多さんも店を冷やかし歩いている。
そして、大正時代に化学染料が導入されると、それまでの藍一色から、カラフルな色みへと変貌を遂げた。近年、一時期に比べて廃れたと聞くが、それでも約20軒が本業として続け、若い世代のモダンな店も増えている。
『糸和』もその一つ。「祖母とその仲間から教わった約30種の技法を用いています」と胸を張るのは、佐藤貴広さんだ。伝統工芸の有松・鳴海絞りは分業制が基本だが、デザインから一貫して制作、天然染料の藍にこだわる人は希有。「男性も使える製品も作って有松を知ってもらいたい」と、未来を見据えている。
『有松工芸』職人工房で絞りの奥深さを体感
代ごとに染め職人だったり、くくり名人だったり。「いまは全部やります」と7代目の濱島正継さん。10年ほど前から「伝統文化を学べるように」体験を開始。雪花絞り、筋絞りなど、技を教わりながら自分好みの作品が作れる。
☎052-622-5881
体験は10:00~・13:00~(相談可)、不定休
手ぬぐい・大判ハンカチ・トートバッグ小の体験各3300円~(持ち込みは応相談)
愛知県名古屋市緑区有松3501
名鉄名古屋本線有松駅から徒歩8分
有松絞を体験!
まず、好みのデザインを選択。板締め絞り技法の雪花絞りなら、雪の結晶のような花模様で初心者でも簡単だ。布を蛇腹に折って帯状にし、さらに三角形に折り畳み、2枚の板で挟む。それぞれの辺を好みの色の染料に浸けて水に晒せば完成だ。藍色は染めた直後の黄から緑→水色→藍へ変化。帯幅、折り方、染料の浸し具合で柄が変わる。所要は約2時間。
『糸和』有松絞りと藍染の珠玉の品々
絞り職人だった祖母を見て育った佐藤貴広さん。30種以上の有松絞りの技法を学び、木綿のみならず本革でも制作。革を絞り、日焼けさせる技法で特許も取得した。常滑(とこなめ)や淡路島の工房で染めた藍染のモダンな雑貨に男性客も虜だ。
@itowa_arimatsu
9:30~17:00、火・水休
愛知県名古屋市緑区有松3026
名鉄名古屋本線有松駅から徒歩7分
『しぼりの宿MADO』絞りの町の風情に浸る時間
大正末~昭和初期築の伝統的建物は、元大工の棟梁宅。絞りの反物が天井や壁を彩る、有松らしさが濃厚な一棟貸しの宿だ。絞り体験やまち歩きは応相談。隣家の庭が借景の裏庭に出れば、有松の日常に紛れ込む感覚になる。
https://guesthousemado.com/
1棟2名素泊まり2万5000円~(1名追加は+5000円)
愛知県名古屋市緑区有松924
名鉄名古屋本線有松駅から徒歩6分
『居酒屋食堂 ありまつや』絞り商の蔵はいま、有松の台所
藍染川のほとり。絞り商の蔵を改装して2024年に開店。じゃこおろし、ハンバーグ、煮付けなど、酒肴から定食までそろえ、「子どもだけ行かせるからお願い」と頼りにされる地域の台所だ。愛知、岐阜、三重の地酒も豊富。
☎080-3642-7725
15:00~21:00、休日と月休
愛知県名古屋市緑区有松3309
名鉄名古屋本線有松駅から徒歩8分
「有松天満社」有松の人たちの誇りとなった祭礼文化
菅原道真を祀る社が寛政年間(1789~1801)、有松の祇園寺から小高い山上に遷座。文政7年(1824)には八つ棟造りの社殿を建立し、以来、有松の人たちの手で守り継いでいる。また明治期以降、からくり人形を上演する山車が練る秋季大祭も見もの。
境内自由(社殿は不定期)
愛知県名古屋市緑区鳴海町米塚10
名鉄名古屋本線有松駅から徒歩9分
「有松絞りまつり」
東海道沿いを中心に、絞りが町を彩る風流なイベント。名古屋グランパスと制作した限定商品の販売や、着物愛好家による展示、体験や実演などが満載。絞りの浴衣をレンタルして歩こう。
2026年6月6・7日の9:00~17:00
☎052・621·0111(有松・鳴海絞会館)
織田と今川が攻防した鳴海城があった地「鳴海宿」
有松を抜ければ、鳴海宿はすぐそこ。史跡や旧家が点在し、旧街道の風情をのんびり目で追いかけたい。
取材・文=林 さゆり 撮影=オカダタカオ
『旅の手帖』2026年5月号より






